[連載]悪女の履歴書

「結婚して主婦」の常識の下に消えた、「上尾主婦レズビアン殺人」の女囚人

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Photo by taotsu from Flickr

(前編はこちら)

 昭和52年、2人の関係が始まってから2年がたとうとしていたが、歯車は少しずつ狂っていく。この頃、佳子の夫の不動産業が不況のため倒産したのだ。そのためセールスマンに転身した夫だったが、当然収入は激減した。佳子にとってこの事態は、恋人に貢ぐ軍資金の枯渇に直結した。佳子は質屋に行くなど必死に資金繰りをして愛に貢ごうとした。

 そんな時、愛が別れ話を切り出してきたのだ。「子どもも大きくなって、変なことをしていると勘ぐられる。もうあまり会わない方がいいんじゃない」。金の切れ目が縁の切れ目だったのか、愛は「急に冷たくなった」という。愛にしてみれば、佳子は情事の相手と同時に金銭的にも都合のいい存在だったのかもしれない。当時の団地生活は見栄が大切だった。近隣よりも少しでもいい電化製品を買い、よい暮らしを隣人に見せつけたい。彼女たちの目標は一戸建てを建てて団地を出ていくことだ。愛は佳子に対して打算もあったのだろう。

 しかし佳子は違った。幼い頃両親を亡くし、夫は愛人を作り不在がち。子どもたちも佳子にはあまり懐いていなかったという。孤独な佳子にとって愛は唯一無二の存在だった。別れ話など承服できるはずもない。「もう一度考えてくれ」と復縁を迫る佳子。愛はそれを拒否した。

 そして事件当日の午後6時頃、佳子は別れ話を撤回させようと愛の家に向かった。しかし、愛は玄関口で冷たく突き放すような態度を取り、部屋には入れてもくれない。佳子は仕方なく自分の家に引き返した。しかし怒りは収まらない。景気づけにビールを何杯か飲んだ午後9時頃、再び愛宅に向かう。今度は懐に小刀を隠し持って。この小刀は3週間ほど前に金物屋で購入したものだ。凶器を事前に用意していたことで、計画性があったのではないかとも疑われたが、事前に殺害の意図はなく、復縁を迫る際の“脅し”に使おうと佳子が衝動的に購入したものだった。

 小刀を隠し持った佳子は午後9時過ぎに愛宅の玄関を叩いた。復縁を迫る佳子。拒否する愛。2人は玄関口で激しい口論となっていく。そんな口論の最中、愛の夫が帰宅した。異様な雰囲気を察知した夫だったが、「家に上がってビールでも」と言って奥の部屋で着替えを始めた。愛はこれを機会とばかりに、甲斐甲斐しく夫の世話を始める。まるで佳子に見せ付けるかのように――。愛夫妻の仲睦まじい様子を見た佳子は逆上した。夫を追って別室に行こうとする愛を引き寄せ、心臓、肺、肝臓など7カ所を小刀で滅多刺しにしたのだ。

 異変を感じた夫が見たのは愛が刺され血だらけになっている壮絶な姿だった。抱き起こすが意識がない。この時、家には愛の子どもたちもいた。子どもたちは母親を見て悲鳴を上げた。だが修羅場は続く。愛を刺した佳子は半狂乱になり「死なせてくれ!」と叫び、ベランダから飛び降りようとしたのだ。それを愛の夫が必死で押しとどめた。愛は救急車で市内の病院に運ばれたが、その途中、大漁失血で死亡した。

思いの深さが悲しい

しぃちゃん

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