『彼女たちはなぜ万引きがやめられないのか?』監修者インタビュー

摂食障害との合併、高い再犯率……知られざる「窃盗癖」という病

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『彼女たちはなぜ万引きがやめられないのか? 窃盗癖という病』(河村重実・著、竹村道夫・監修、飛鳥新社)

 大人による「万引き」が深刻さを増している。今年6月には、大阪の鮮魚店が、警察に通報する代わりに万引きした人物の顔写真を店内に無期限で張り出すという前代未聞の対応策を打ち出し、モラルや人権の観点からも大きな議論を呼んだ。強硬策の背景には、莫大な被害がある。全国万引犯罪防止機構の調査では、2012年度における全国のスーパーや百貨店など620社の推定万引き被害額は710億円。同調査によると、確保した万引き犯のうち32.2%が高齢者、65歳未満の無職が15.9%、次いで主婦が14.6%、社会人が12.2%、小学生~専門・大学生は18.2%であり、圧倒的に“大人”の犯行が多い。

 一方で、通常の万引きとは異なる観点で対応しなければならない問題が発生していることをご存じだろうか? クレプトマニア(病的窃盗)という精神障害がそれだ。窃盗癖とも訳されるが、日本語の窃盗癖は必ずしも病的であることを意味しない。一般的な万引き犯は対象となる物に関心を寄せるが、クレプトマニアの患者は窃盗行為そのものに快感を覚え、衝動的に実行する。そのような病的な窃盗癖患者の実態と対処法に迫った『彼女たちはなぜ万引きがやめられないのか? 窃盗癖という病』(飛鳥新社)が出版された。この本の監修を務めた、「赤城高原ホスピタル」院長の竹村道夫氏に、窃盗癖者の心理構造を聞いた。

――まず、一般的な常習窃盗とクレプトマニアの区別について教えてください。

竹村道夫氏(以下、竹村) 本来、窃盗犯は経済的利益を求めて、あるいは経済的弱者が貧困状態や飢えなどから、他人が所有する食べ物や金品など財物を盗む犯罪類型と考えられてきました。しかし近年では、犯罪集団構成員や職業的犯罪者でもなく、反社会的人物でもなく、そして経済的困窮者でもないのに、リスクに見合わない、経済的合理性のない窃盗(主として万引き)を繰り返す人たちがいることが注目されてきました。そしてその人たちを精神障害者と見なす専門家が増えてきたということなのです。実は、この分野は精神医学の中でも研究が遅れているため、いまだクレプトマニアの定義と診断基準、つまり輪郭そのものがハッキリしていません。でも、クレプトマニアと診断されるべき人は以前考えられていたより多いのではないかとも言われています。今年出版されたばかりの『DSM‐5』というアメリカの新しい精神医学診断マニュアルでは、万引きで逮捕される人の4%ないし24%と記載されています。幅が大きすぎるとも思いますが、もしも24%なら、これは4人に1人ということですから大変な数です。私自身は、純粋に臨床的な理由でこの問題に関わり始めたので、診断基準に疑問のあるクレプトマニアという用語は使用せず、窃盗癖と呼んでいます。でも、私が「窃盗癖」という時には、世間に存在する常習窃盗犯一般ではなく、医療的配慮を要する病的な窃盗癖(ほとんどが常習万引き)を意味すると理解していただきたいです。

――もともとはアルコール依存症専門施設だった「赤城高原ホスピタル」が、窃盗癖に携わるようになったのは?

竹村 平成2年に北関東で唯一のアルコール依存症専門医院として開業したのですが、その当時から若い女性患者が多かったのです。その多くは摂食障害を合併していて、病院の近くにある店で万引きをする。それをなんとか止めようとしたのが始まりです。もともと私はアルコール依存、薬物乱用などの嗜癖問題が専門でしたから、窃盗癖についても自助グループが治療の決め手になるはずだ、と思っていました。予想通り、自助グループが機能し始めて、ようやく治療が軌道に乗ってきました。その過程をホームページに載せたところ、いろんなタイプの窃盗癖患者が訪れるようになり、今は相対的に摂食障害の合併率は下がってきています。それでも私たちが診ている窃盗癖患者の最大のグループは摂食障害を合併している人たちで、2番目はうつ病、その次はアルコール・薬物依存ですね。6割ぐらいの人が、なんらかの精神障害を合併しています。

目を背けられない現実

しぃちゃん

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