[官能小説レビュー]

『春を売る』から読み解く、男たちが求める“素人”っぽさの正体

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『禁書<色>』/徳間書店

■今回の官能小説
『春を売る』霧原一輝(『禁書<色>』/徳間書店より)

 官能小説でたびたび目にする売春モノ。“春を売る”女性は「美しく清楚な女性」であるのが、官能小説では定番だ。普通女は、「金を出して身体を買ってもらうならば、その金額相応の身体とテクニックを売らなければならない」と思いがちだが、男にとっては「素人の女性が売春をする」という設定がツボのようで、官能小説ではよく描かれるようだ。現実世界でも男が求めるといわれる、この“素人っぽさ”とは、一体どういったものなのだろうか?

 今回ご紹介する『禁書<色>』(徳間書店)は、8人の気鋭作家たちの“色”をテーマにした短編小説集。この中に収録されている短編『春を売る』(霧原一輝)は、8年前に付き合っていた女性との再会から物語が始まる。

 8年前、とあるデザイン事務所のチーフデザイナーをしていた亮一は、事務所の経理担当である仁美に惹かれていた。当時の亮一は40歳にして独身、27歳の仁美も同じく独身だった。結婚願望の強かった亮一は、穏やかな仁美に恋をし、数回のデートを重ねてラブホテルへと誘った。しかし、残念ながらセックスは不本意な形で終わってしまう。その後、付き合っていると言えるかどうか不明瞭だった2人に、突如別れが訪れる――仁美がほかの男と結婚してしまったのだ。

 そんな出来事から8年後、亮一のもとに仁美から再び連絡が入った。35歳になった仁美は相変わらず美しく、柔らかなオーラに包まれている。仁美と別れてからすぐに結婚して一児をもうけ、独立してフリーのデザイナーとなった亮一の目に、かつて恋焦がれた仁美は眩しく映った。

 男の大多数は「別れた女には幸せでいてほしい」という身勝手な願望を抱くものだが、8年ぶりに会った仁美は実に不幸な境遇に立たされていた。仁美の夫・柿崎は、浮気相手の家に移り住み、自宅に戻らなくなってしまったという。この再会をきっかけに、亮一と仁美の距離は急激に縮まっていった。仁美は頻繁に亮一のマンションに訪れるようになり、手料理をふるまうようになる。

 そんなある日、柿崎からの振込が途絶えた仁美から、とある打診をされる。「買ってもらえませんか?」と。「金のために身を売りたい」という突拍子もない仁美からの申し出を亮一は受け入れる。「仁美は、俺が買った女」と自分に言い聞かせ、まるで8年前の失態を挽回するように、乱暴な手つきで仁美を犯す亮介。それに、懸命に応える仁美の姿に、亮一は再び恋焦がれてしまう。

 冒頭でも述べた通り、女の「身体を売るのはその道のプロの女性」という意識をよそに、この作品からは、亮一が“素人”としての仁美を買い、満足している様子が伺えるのだ。慣れない騎乗位でも必死に腰を振り、初めてのスパンキングも受け入れる――そんな一所懸命で健気なところが、男心をくすぐるのだろう。

 しかし、男の征服欲を満たすうぶな女がいいというだけではない。仁美は、躊躇しながらも亮一の愛撫を受け入れて、快感へと変化させる「セックスに対する逞しき探究心」を持っているのだ。女の感じ方の変遷を間近で感じることで、男も快感を得るのかもしれない。

 売春をテーマにした官能小説である『春を売る』は、いつも“身体だけの関係”で終わってしまうと悩む女こそ読むべきかもしれない。割り切られてしまう女から脱却するためには、仁美のように快感に対して順応であるべきだ。打算や嘘は、すぐバレる。この作品には、自然と心までも愛される女になるためには、純粋に目の前の男を感じることが大切だという教えが織り込まれているように思う。
(いしいのりえ)

年いってくると、身体からしか恋愛が始まらなくなるからね~

しぃちゃん

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