映画『しわ』レビュー

「老いの先の希望」なんて美談なのか? 介護施設の老人を描く映画『しわ』

 三鷹の森ジブリ美術館配給のアニメーション『しわ』が、6月22日より公開される。アルゼンチン出身のアニメーター、イグナシオ・フェレーラス氏が監督した長編アニメーションだ。スペイン人の漫画家、パコ・ロカ原作で、2008年にスペインコミック賞を受賞。日本でも2012年度文化庁メディア芸術祭・優秀賞を受賞している。それにしても「しわ」とはあまりに直截的。いろんな意味でドキッとするタイトルだこと。アニメでよかった。

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(c)2011 Perro Verde Films – Cromosoma, S.A.

■こんな施設に親は入れたくない

 ジブリが介護アニメ? と意外に思ったのだが、テーマは「介護」というより「老い」。
物語は認知症になった主人公エミリオが入った老人施設が舞台だ。お金にうるさく抜け目のない同室のミゲル、面会に来る孫のためにジャムや紅茶を貯める女性アントニア、アルツハイマーの夫モデストの世話をする妻ドローレスら、さまざまな老人たちの生活が描かれる。そんなある日、エミリオはモデストと薬を間違えられたことがきっかけで、自分もアルツハイマーであることに気づきショックを受ける。症状が進んだ入居者は、施設の2階に送られ、戻ることはない。落胆するエミリオを見たミゲルは、ある行動に出る……。

 舞台である老人施設には、我々日本人が想像するような「介護」の風景はほとんど見られない。そういう意味では、介護の現実を知る人間にはつまずいてしまう部分が多い。まず介護スタッフが少なすぎる。重度の認知症の人は2階に送られるから、1階はまだ自分のことは自分でできる人しかいない、という施設にしてもだ。使われていない室内プールに老人が飛び込んで泳いだり、かなりお金に余裕がある生活している老人たちなのに、施設は相部屋で仕切りもなかったり。こんな施設には、親を入れることはできない!  と、施設評価に目が行ってしまう。

 しかし、リアルに描かれていたのは、エッチな老人だ。どこにでもいるんだな、これが。男のスケベ心が世界共通の生きる意欲だとしたら、女はおしゃれだろう。このアニメで描かれる老女たちはみんなおしゃれだ。認知症でもアクセサリーは欠かさず、こぎれいだ。歳をとってもおしゃれは大事。これは日本も見習いたい。

■「老い」に向かう特急列車は孤独な旅

 と、ここまで入れ込んで細部を見てしまったのも、このアニメが全世界の話題をさらっただけのことはあるからだ。そう、やっぱり「よかった」。

 真正面からマジメに「このアニメのテーマは」と考えると、「老いても友情は成立する」とか「老いの先にもまだ希望はある」とか、おそらくそういうものを描こうとしているんだと思う。これを見た人は、おそらくそういうことに感動するのだろう。だけれども「友情」とか「希望」が存在すること自体、それはまだ真に老いているとは言えないのではないか、とも思うのだ。

 確かに、老いの悲しさとか、残酷さとか、未来への希望のなさ、みたいなものは随所に描かれている。施設に暮らす老女は、若い頃の思い出の中に生き続けていて、過去に旅した列車の中の記憶に生き続けているが、その列車は一直線に「老い」に向かって走り続けているようにも見える。施設の入り口にある鉄の門や、張り巡らされた金網、認知症が進んで「あそこに行かされたらおしまいだ」と言われる2階の存在……ナチスの強制収容所を思わせる描写だ。それでも結末に描かれる、金しか信じなかった孤独なミゲルのエミリオへの行動に、「仲間の大切さ」とか、「友情」とか「希望」とかいう「救い」を見出そうとすることもできなくはない。きっとそうするだろう。

 しかし周りが見えているうちは、まだそれほど老いていないってことだ。「本当に老いると、周りのことなんて何にも目に入らなくなる。自分のことだけで精いっぱいだから」――老人病院での勤務の長い看護師の言葉だ。ミゲルだって、まだ本当に老いてはいない。老いに向かう列車は、だんだん周りが見えなくなって、自分のことで精いっぱいになって、ついには自分のことさえできなくなって、まっしぐらに死へと向かう特急列車なのだ。途中、同行者はいても、気がつくと乗客は自分ひとり。孤独な旅だ。

 それでも、誰かと旅した思い出があるだけでいいのかもしれない。終着駅に到着するまで、どれだけ思い出を作るかなのかもしれない、人生って。電車を降りる時、「ああ、楽しい旅だった」と言えるように。

それでも希望はあると信じるしか進めない

しぃちゃん

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