[連載]安彦麻理絵のブスと女と人生と

女のシャンプーとは……残り香を嗅がせたい欲望が消えて思うこと

2013/06/16 21:00
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(C)安彦麻理絵

 あれはもう30年も前になるだろうか。当時、中学2年ぐらいだった頃の私が使っていたシャンプー。

「恋コロン 髪にもコロン ヘアコロンシャンプー」

 ……ふざけたネーミングのシャンプーだが、「残り香の良さがウリ」の、若い娘をターゲットにした商品であった。「ハワイ育ちでバイリンガル」という、ほかのアイドルとは一線を画す経歴の、小麦色の早見優がCMに出ていたのを今でも覚えている。

 あの頃は確か、家族全員で「メリット」とか、そんなのを使ってたはずだ。それなのにそこで反旗を翻して、予定調和を破壊して、自分専用のシャンプーを風呂場に置くというのは……しかも名前が「恋コロン」ときた。「私、色気づきましたので」と、親に真顔で自己申告してるようなものである。あのシャンプーを一体どうやって手に入れたのか、私にはまったく記憶がない。当時の私は、おこずかいをもらってなかったので、だからあれは、母親に頼んで買ってもらったんだと思う……しかし。

 私の母は、「娘の成長・メス化」を、なかなか素直に認めたがらない人だった。私が思春期になっても、私に買い与えるパンツは、ババアが履きそうな、色気もへったくれもないズロースばかり。男が頭にかぶりたくなるような、下着泥棒の餌食になりそうなパンツは、決して買ってくれなかった。そんな母親だったから、なぜあんな浮かれた名前のシャンプーを買ってくれたのか、今だに謎である。きっと私は母親に、「仏頂面・赤面・苦渋」の表情で、意を決して「……これ、買ってけろ!!!(東北弁)」と、頼んだんじゃないかと思う。母親が恐れおののいて、仕方なく買ってくれたのかどうか……今となってはもう、真相は薮の中。

 それでもとにかく私は、恋コロンで頭を洗える事に激しい喜びを感じた。髪からフワリと漂う残り香を嗅ぐと、自分が「恋や部活や勉強に忙しい、活発な女の子」になったような、そんな錯覚に陥るのであった。そして翌日学校で。後ろの席の男子が、唐突に「クサい」と言い放った。突然の出来事に、私は一瞬、心臓が止まるかと思った。今にして思えば、その男子はきっと「ちょっとしたひやかし」のつもりで言ったのだろう。それなのに私は、まるで「必殺シリーズの藤枝梅安」に、針で心臓をひと突きにされたかのような、そんな衝撃を味わっていた……。ちょっとイケてる女の子だったら、そんな事を言われても「もぉ~~~!!! プンプン!!」とか、ほっぺた膨らませて可愛く怒るんだろうけど、私にそんな荒技が繰り出せるはずがない。白眼のまま硬直して固まる私を、その男子はどんな目で見てたのか……すべて、遠い昔の出来事である。

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