[官能小説レビュー]

ヤリマンと女友達の不思議な関係性を優しく掬う――短編集『からまる』

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『からまる』/角川書店

■今回の官能小説
『からまる』(千早茜、角川書店)

 人と人は、複雑にからまり合いながら関係している。誰かと強くつながりたい、深く関わりたいと欲望を抱きつつも、そうなれるのはほんの数人。心と心がつながり合うことはとても難しい――だから女は、心よりも先に、てっとり早く身体を開く。そして男はそんな女たちを容易く受け止め、あらゆる人ともつれ合ってゆく。

 今回ご紹介する『からまる』(角川書店)は、同僚や友人などの関係性でつながる男女7人が複雑にからみ合う、7つの短編集である。例えば、2作目に収録されている「ゆらゆらと」は、恋愛と失恋を繰り返すフリーターとその女友達の物語だ。

 主人公の田村は、いつも同じ失敗を繰り返している。出会った男にはたいてい一目惚れして、すぐにセックスをしてしまう。そして、のぼせ上がった田村は、男にあっさりと捨てられてしまう。

 セックスが好きなわけではない、田村は常に“その先”にあるものを求めている。けれど、男たちにとって田村は“その先”がある相手ではない。そんな田村の心は、真綿で首を絞められるように、刻々と傷ついている。けれど「次こそは」という安直な思いが先走り、とりあえず寝て、結果、また捨てられるのだ。

 そんな田村にとって、唯一の癒やしの存在が、大学時代からの友人・華奈子だ。マスカラをべっとりと塗り、完全武装をする田村とは異なり、華奈子は身体から染み出るような色気を持っている。いつでも礼儀正しく、ゆったりとした動作と柔らかな笑い声は、大学時代からあらゆる男たちを魅了してきた。

 好きでヤリマンになったわけじゃない。けれど、ミニスカートから覗く足に男の舐めるような視線を浴びると、悪くないなどと感じてしまう――男に欲望されることを「良い」とは感じずに、「悪くない」とななめから言ってのける田村の目には、華奈子はいつも真っ直ぐに見える。田村のくだらない愛憎劇も、華奈子は微笑みながら真正面から受け止め、呆れもせず、怒りもせず、見守っていてくれるのだ。

 ある日、泥酔した田村は、華奈子と共に自宅に戻り、ベッドの中で静かに抱き合う。初めて触れる、柔らかで湿度を帯びた、同性の肌。温い泥酔の中に身を沈めるように、田村は華奈子の身体を包み込んでゆく。男とか女とか、性別なんて一切無視した、2人だけが理解できる関係性は、大学時代に確立されたものだった。

 大学時代、田村が付き合っていた男が、華奈子に恋をした。けれどその男は、「女の子が好きなの」という華奈子にフラれることになる。男は「気持ち悪い」と華奈子を罵り、田村にヨリを戻そうと誘う。その時、田村は生まれて初めて、自分から男とフッたのだ。
 
 田村と華奈子の関係は、何と肩書をつければよいだろう? 女同士の友情と呼ぶにはあまりにも達観している関係だし、けれど恋愛とも呼べない。ただ、強く互いが必要とし合うだけの関係なのだ。端から見れば「あの2人、友達? それとも……」と疑問を持たれる不透明な関係でも、当人同士の間では、絶対的に確立している。
 
 時に人は、性別を持つことで複雑化する人間関係がある。相手が男性器を持っているがゆえに、男女の友情が成立しなくなったり、相手が自分と同じ女性器を持っているがゆえに、相手への強い思いを「恋」とも片付けられない。

 しかし「ゆらゆら」をはじめとした「からまる」に登場する人々は、一見あいまいな関係ながらも、当人たちはごく自然に振る舞い、からまり合っているのだ。

 男だから、女だから、と考えずに、“人”としてフラットに考えると、もしかしたら男じゃなくても良いのかな、と思う時がある。歳を重ねるたびに、がんじがらめになってゆく人間関係。その先につながる人は、思い浮かべるだけで自然と笑顔がこぼれる、そんな人なのかもしれない。
(いしいのりえ)

あたちなんてからまりすぎてダマになってるよ

しぃちゃん

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