[連載]悪女の履歴書

戦後初の死刑確定囚・山本宏子、主婦からの共感を集めた貧困の中の殺人

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Photo by PhoTones_TAKUMA from Flickr

世間を戦慄させた殺人事件の犯人は女だった――。日々を平凡に暮らす姿からは想像できない、ひとりの女による犯行。彼女たちを人を殺めるに駆り立てたものは何か。自己愛、嫉妬、劣等感――女の心を呪縛する闇をあぶり出す。

[第13回]
兵庫・菅野村老婆殺人事件

 戦後初めて、死刑を“執行”された女性囚は日本閣事件の小林カウだ。しかし戦後初めて、死刑判決が“確定”したのは山本宏子である。

 宏子は大正4年(1915年)兵庫県菅野村(現・姫路市)に生まれた。私生児だった宏子だが、結婚前は三味線や舞踊などを嗜み、看護婦の職を持った職業婦人でもあった。その後見合いで婿養子を貰い、看護婦を辞め家庭に入る。しかし、この結婚から宏子の人生は大きく変わっていく。夫は病弱だったが7人の子どもに恵まれ、うち3人は幼児期に死亡したが4人は元気に成長していった。

 しかし生来病弱で怠け者だった夫は働こうとはしなかった。病弱を口実に「婿に入ったのだから養ってもらうのは当然」とばかりの態度だったといわれる。時代は太平洋戦争末期となっていたが、その間一家の家計を背負ったのは宏子だった。宏子は近所の農家を手伝い、遠方まで重い荷を運ぶなど懸命に働いた。そして終戦を迎える。だが戦争が終わっても、生活は一向に楽にはならないばかりか、さらに困窮を極めたという。

 終戦から3年がたった昭和23年、宏子は闇商売を始める。だが戦後の混乱が続く中、女手1つでうまくいくはずがなかった。小さな子どもたちを養うため、商売品の米麦に手をつけ、また高利の借金もかさんでいった。翌昭和24年、34歳だった宏子の生活はますます追いつめられていった。借金の催促も日増しに激しくなる。家財道具や質草になりそうなものを手放してきたが、限界だった。追いつめられた心境の中、同じ村に住む金城義男(仮名71歳)の家に向かう。以前から何度か金を借り、親身になってくれていた男だった。金城なら今度も金を貸してくれるかもしれない。しかしこの際義男は床に伏せっており、対応したのは妻の菊代(仮名69)だった。菊代は借金を断り、宏子に罵詈雑言を浴びせたという。

 宏子は金城宅から逃げるように帰った。しかし、夜が更けた深夜1時過ぎ、自宅から厚鎌を持ち出した宏子は、再び金城宅に向かった。寝静まった金城家に忍び込む宏子。金目のものを物色しようとした宏子だったが、傍らに寝ていた菊代が動く気配を感じ、咄嗟に鎌を何度も振り下ろし殺害したのだ。さらに現金1万8,000円と多くの衣類を持ち出し、部屋に火をつけて逃走した。金城宅は全焼した。

 数日後、宏子は逮捕された。現場での目撃談に加え、事件直後に宏子が借金を返したことで足がついたのだ。業突く張りとして知られた菊代は、お札に番号を記入していたが、それが決定的証拠となった。

 逮捕された宏子は罪を認め、素直に取調べを受けたという。しかし強盗殺人と放火は重大犯罪である。昭和24年12月26日神戸地裁姫路支部の一審判決では死刑判決が下され、続いて大阪高裁でも控訴棄却。昭和26年7月10日には最高裁において戦後女性被告に対する初の死刑が確定した。

 だが宏子の刑が執行されることはなかった。そこにはさまざまな興味深い事情が存在したのである。

 事件発生当時、時代は戦後の混乱期にあった。下山事件、三鷹事件、松川事件などGHQや国鉄、共産党などを巻き込んだきな臭い事件が続く一方、湯川秀樹が日本人初のノーベル賞を受賞し、谷崎潤一郎『細雪』がベストセラーになるなど、戦後復興への希望も見え始めた時代である。片田舎の女の殺人・放火事件が、大きな話題になることはなかった。しかし、事件はじわじわと世間に広まっていく。

犯罪は時代を映し出す

しぃちゃん

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