「1990X」編集長・斉藤まことインタビュー

「いい悪いではなく、彼女たちの感性は正しい」女子文化を見つめる斉藤まこと氏

2013/06/01 17:00
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「spoon. 」4月号(プレビジョン)

(前編はこちら)

――彼女たちを取材していて気づいたことはほかにありましたか?

斉藤まこと氏(以下、斉藤) そういえば、平野さんを撮影するにあたり、90年代に小澤征爾、小沢健二、小泉今日子らがしばしば訪れて、日本にオープンカフェ文化を花開かせた原宿のオーバカナルの系列店のオーバカナル赤坂店に連れていったんですが、「なにがいいのかさっぱりわからない」と言われました(笑)。確かに、赤坂店には閉店してしまった原宿店にあった文化人サロン感はないんですが、よく考えたら彼女たちは芸能人幻想も文化人幻想自体も薄いですよね。

――文化的な背景に、あまり興味がないのでしょうか?

斉藤 いい意味で自己完結しているのではと思います。自分の世界が出来上がっていて、その基本軸から外れるものは別にどうでもいいというか。憧れの上層階級があって、それに触れて、「この空気を吸えてうれしい」みたいな感覚がないんです。その最初から達観した姿勢がカッコイイと思うんですが、実は、これも諸刃の剣で、人が成功する過程で、「あの頃の自分、ちょっと痛かったな」って感覚はすごく大切だったりする。だけど、検索世代の90年代生まれの子たちは、「痛さ」を避ける能力がすごく高いから、いろんなことがスムーズに行きすぎて、大きな失敗もしないので、人生が乱高低しないんですよね。でも本とか音楽って、その人の人生の乱高低を芸にするメディアでもあるから、うーん、スマホ世代は人生もスマートすぎて、実に本が作りづらいなと思います(笑)。

――権威的な価値観に振り回されない自分を持っている半面、バランサー世代として苦悩している90年代生まれの女子たちが突出するには?

斉藤 自分を差別化する上で、あえて「自分、痛車(いたしゃ)現象」を引き起こすことは武器になると思います。その点で、いま僕が注目しているのが声優の上坂すみれさんですね(91年生まれ)。彼女、スターチャイルドという、ももいろクローバーZもいるレーベルからCDデビューしたばかりですけど、すごくブレイクしそうな気がします。彼女は、普段からロリータ服を着て、今も上智大学に毎日その格好で通っているそうです。彼女が独自に立てた理論として、「ロリータ服は装甲である」というのがあって、これは達見だなと思いました。さすがに、学校でロリ服を着ていると、なかなか友達ができづらいそうですが、それって彼女にとっての、身を切った差別化戦略だと思います。みんながバランサー型になる中で、あえて「私は、このトライブでいきます!」とバランスから降りたんです。そこに強度があると思います。実際、今彼女は同世代のみならず大槻ケンヂさんや桃井はるこさんみたいなオタク文化の原形を作った人たちからも評価高いです。

――上坂さんは声優ですけど、90年代生まれの子にとってアニメは大きな存在であると感じます。

斉藤 VANTANや、文化服装学院に通うファッション系の学生たちって、今はデフォルトでアニオタだと思うんですよ。昔だったら、「ツモリチサトやジョニ夫(高橋盾)みたいになりたい」っていう動機で服飾系の学校に行っていたのが、今やアニメキャラが着ているような服を作りたくてデザイナーを目指す時代だと思います。90年代におけるJ-POPの位置に、今のアニメがあると考えていいと思います。

――アニメなら生身の自分が傷つくこともない。それこそ、きゃりーぱみゅぱみゅ的な。

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90年代生まれの女の子とアニメを
競演させる新感覚の雑誌「Cloud_G」

斉藤 ですね。今、CDってすごくプロダクト感が強くて作品感が薄いと思うんですが、アニメは商品だけどちゃんと作品でもあるっていうアドバンテージがあると感じます。彼女たち世代にとって、アニメは総合芸術としてある意味最先端で、日本では実写よりもそこに才能が集まってきていると、肌で感じます。この流れをくみ取って、うちからは4月末に、「1990X」から発展させた雑誌「Cloud_G」(クラウドガール)を発刊しました。これは、90年代生まれの女の子とアニメを融合させた内容で、アニメキャラ特集の後に本田翼の撮り下ろしが出てきたりします。僕的には、ここを掘っていきたいんですよね。

――今後、大人たちは90年代生まれの彼女たちと、どう向き合っていきましょう?

斉藤 上の世代は、「この感覚、わけわかんないなー」という思いが強くても、そこを受け入れつつ、彼女たちの感性をうまくビジネスラインに乗せる環境を整えてあげるのがいいんじゃないかなと思います。うちの会社でも、若手社員で映画を見るのが苦手な人がいて、最初は驚愕したんです。今までの感覚だと、マスコミ業界に入った人は普通、試写会には喜んで行くじゃないですか? でも、その人は「私、映画館苦手なんです」って平気で言うんですよ(笑)。聞けば、彼女はゲーマーなんですよね。確かに、試写会や映画館ってつまんなくてもコントローラーで早送りすることもできずに、ずっとそこにいなきゃいけないじゃないですか。冷静に考えると、彼女の感覚の方が今は正しいと思うんです。これだけユーザー主導のメディアが増えたんだから、それはそうなるよなーと。実際、東宝は尺を短くしたりして、若年層の映画離れに対応する方策をすでに打ち出していますよね。ですから、これからの上の世代の仕事は、そうしたネット世代の感覚を逆に取り込んで、新しいインフラを作ることなんじゃないかと思います。
(取材・文=城リユア)

斉藤まこと(さいとう・まこと)
1963年生まれ、埼玉県出身。95~2000年、ロッキング・オンにて、「H」編集長を務め、渋谷系を中心としたサブカルチャーや社会現象を多く発信。00年に株式会社プレビジョンに設立し、同年にはカルチャー誌「spoon.」、08年には「FREECELL」を創刊、編集・発行人を務める。12年12月に「spoon.」の別冊として「1990X」を発売。今年4月30日、「Cloud_G」を発刊。最新の担当書籍は、ロスジェネ世代の社会学者・内藤理恵子が自身のゼロ年代とネットカルチャーの申し子的な人気アニメ『秘密結社鷹の爪』をリンクさせたネット世代論本『必修科目鷹の爪』(6月下旬、角川書店刊)

最終更新:2013/06/01 17:00
『別冊spoon. vol.36 CloudG』
もはや痛さが快感になっちゃったよ
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