介護をめぐる家族・人間模様【第12話】

「子どもが偉くなっても、親は寂しい」施設長が見た頑固な老人の空白

2013/05/30 21:00

「一スタッフでは、やはり限界がありました。グループホームだと少人数なので、お客様一人ひとりに丁寧に接することもできるでしょう。時間に追われる介護も少なくなるんじゃないかな、とも思っていました」

 介護職に就いた人は、人間関係の不満、経営母体への不満、労働条件への不満などがたまっていくことが多い。しかし田辺さんが偉いのは、常に前向きなところだ。

「幸い私は、家族の理解がありました。私が夜勤でも、主人も子どもたちも家事を積極的にやってくれるので、かえって楽なくらい(笑)。専業主婦だった頃は、友達と出かけるのにも主人の許可をもらっていたことを考えたら、今の私は180度方向転換したようなものですね。主人は騙されたって思ってるかも」と笑う。

■怒りという形でしか「寂しい」という気持ちを表せない

 会社が田辺さんを責任者にと見込んだ目は、間違っていなかったようだ。グループホームの評判もよく、ケアマネジャーや市の担当者、病院のケースワーカーからも、行き場のない高齢者を受け入れてくれないかという打診がかなり来るという。半年前に入居した宇都宮さんも、その1人だ。宇都宮さんは妻を10年前に亡くしてからは、ずっと1人暮らしだった。

「寒さの厳しいこの地域で、90歳近くまで1人で暮らしていた男性というと、しっかりした方だと思われるでしょう。もちろんそうに違いはないんですが、別の言い方をすれば頑固。『自宅に住み続けたい』『施設には入らない』と、ずいぶん抵抗されました。市の担当者と2人で毎日のように通い、説得を重ねて、やっと首を縦に振ってくださったんです。入居されてからも、心を閉ざされたままでした」

 市の担当者からの入居の打診というのは、どういうことなのか。

「宇都宮さんの暮らしぶりを心配されたご近所の方や民生委員から、市に連絡が行ったんですよ。奥さんが亡くなってからは、誰も受け入れられなかったんです。認知症の症状も進んでいたようなんですが、介護認定を受けることも拒まれるので、ヘルパーが入ることもできない。私が市の担当者と家にお伺いした時には、畳も布団も真っ黒。腐りかけているような状態でした」

『孤独な心―淋しい孤独感から明るい孤独感へ』
子の幸せを願えども 我が寂しさは耐え難き
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