慶應義塾大学・ヒサヨ先生の「あの頃の少女たちへ」第7回

『ママレード・ボーイ』が面倒くさい恋に悩む20~30代たちに、今一度教えてくれるコト

2013/05/02 16:00
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『ママレード・ボーイ(1)』/集英

とおーいとおーい昔に、大好きだった少女マンガのことを覚えていますか。知らず知らずのうちに、あの頃の少女マンガが、大人になった私たちの価値観や行動に、影響を与えていることもあるのです。あの頃の少女たちと今の私たちはどうつながっているのか? 少女マンガを研究する慶應義塾大学の大串尚代先生と読み解いてみましょう!

<今回取り上げる作品>
吉住渉『ママレード・ボーイ』/『りぼん』(集英社)掲載、1992~95年

 藤本由香里の『少女まんが魂―現在を映す少女まんが完全ガイド&インタビュー集』(白泉社)に収録されているインタビューで、漫画家の吉田秋生は「少女まんがの、あの、なんでもアリアリの突拍子のなさが、ひたすら好きなんですよね」と述べています。少女まんがが好きな人は、多かれ少なかれ、この意見に共感するのではないでしょうか。そう、少女まんがには、時にびっくりするような強引な設定から物語が紡ぎ出され、そして最終的には読者の気持ちをわしづかみにしてしまう作品があります。

 おそらく、吉住渉『ママレード・ボーイ』(集英社)は、そんなマンガの代表格ではないかと思います。ではその物語は、といいますと……。とあるところに2組の夫婦がいました。一方の夫婦には娘(光希)が、もう一方の夫婦には息子(遊)がいます。どちらも高校1年生という青春盛り。この2組の夫婦が離婚して、お互いの配偶者と再婚して、新たな夫婦が2組できました。そしてこの2組の夫婦と、2人の子ども、総勢6名での共同生活が始まるのです。いきなり義理の兄妹(?)となった光希と遊に、徐々に恋心が芽生えた頃、突如2人は、実の兄妹ではないかという疑惑が持ち上がるのです。

 今あらためて読むと、その設定の強引さに惚れ惚れとさえします。ラブコメっぽい雰囲気の作品でありながら、ユン・ソクホ監督の『秋の童話』や『冬のソナタ』のテイストをすでに先取りしている感じすらあります。しかも主人公の光希の友人・茗子は教師とのいわゆる「禁断の恋」の関係にあり、高校生が主人公でありながら、全体的にアダルトな雰囲気を漂わせています。よくよく読むと、夫婦のスワッピングのようなシチュエーションもあり、子どもを含む全員が一緒に住んでいるのに夫婦生活が営まれている? と考えると、そのアダルトさがますます増してくるのです! そしてこのアダルトさは、吉住渉の新連載『ママレード・ボーイLittle』で、新たな組み合わせとなった2組の夫婦が、それぞれ子どもをもうけていることで決定的なものに。

 しかしながら、少々危険な香りがする設定にもかかわらず、いたって平和なラブコメが展開され、読者の共感が得られてしまうのは、さすが『りぼん』の看板マンガ。では一体、その絶妙なバランスはどこからくるのか? 『四重奏ゲーム』『ハンサムな彼女』『マーマレード・ボーイ』『君しかいらない』と、初期の吉住渉作品を読み直して、考えてみることにしたのです。

『ママレード・ボーイ(1)』
「だっけっどっ」の食い入り方が肝!
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