[連載]安彦麻理絵のブスと女と人生と

「子どものための料理」ではない、己のエゴのための「快楽追求型メニュー」とは

2013/04/21 21:00

 そして……鍋に顔を近づけてみてください。目がちょっとチカチカするのでビックリするはず。「……酢って、なんかすげぇ……」と、あなたは酢に対して畏怖の念を抱くかもしれません。さて、煮汁が温まった所へ、鶏肉とゆで卵をぶっ込んで下さい。煮汁が足りないようであれば、適当に足して下さい。具材が煮汁に、ちょっと溺れそうになってる位の量が丁度いいはず。とはいえ、真っ黒い汁の中でひしめき合うトリとタマゴ……その様を見たら、きっとあなたの不安は頂点に達するでしょう。

「これ、ホントに大丈夫なのかしら……!?」
「酢臭も凄いし、もしかして罰ゲームみたいな味になるんじゃないの……!?」

不安に胸を震わせたままクチビルを噛み締め……弱火と中火の中間くらいの火加減で、そのまま煮込むこと約20分。フタをしたまま放置プレイ。冷まして味をなじませて下さい。その後、すぐに食べてもいいかもしれませんが、これは、昼間作ってほったらかしとき、夜食べるというのが最高な気がします。鍋の中で、無言でじっとあなたを待っているのは「鶏のバルサミコ酢煮」。

 ……てなわけで。これはミツカンのCMでやってる「鶏のさっぱり煮」を、バルサミコ酢バージョンでやったものである。テレビのCMでこの料理を見るたびに私は、激しく食欲をかき立てられていた。バルサミコ酢を入れたのは、私がただ単に「バルサミコ酢好き」だからなのだが。最初作った時は、激しい酢臭にビックリして、色も真っ黒だし「これは失敗したか」と、腹を括っていた。しかし。夜、夕飯時に一口食べて、絶句&驚愕。あまりのうまさに目が白眼になった。まるで、バルサミコという名のイタリア男に、新しい性感帯を開拓されたかのような衝撃。口の中に広がるトリとバルサミコのあやしいコラボレーション……あれだけ激しかった酢臭も、いつの間にやらどこかに飛んでいる。とはいえ、子どもに「食ってみろ」と差し出したところ、ニオイをかいだだけですぐに突き返された。夫は「あ、うまい」とは言っていたが、基本的に男はスッパイものが苦手な傾向にある。だからこの料理は、あえて「女性限定」なのだ。私は「男の人、苦手だよね、こういうの!!」と、無理矢理夫を説き伏せて、全て横取り、その日の晩に、全部1人でたいらげてしまった。……鶏のバルサミコ酢煮。雰囲気は素敵かつオシャレである。しかし、台所で1人、相撲取りのようにブス食いされたら、オシャレもへったくれもないだろう。

 「料理は好きか?」と聞かれれば、好きだと思う時もあるけど、でも、めんどくさくて何もしたくない時もある。「子どものためのごはん」を作るのは苦手だ。頑張って作っても、全然食べてもらえなかったりする時もあるし、なんかどうも難しいと思ってしまう。

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