『男の壁』刊行記念インタビュー【前編】

袋に埋め込んだ器具のボタンを押したらすぐ勃起!? 驚くべきアジアのED治療事情

2013/04/01 19:00

――政治が国民のセックス観にも影響を及ぼしているんですね。

工藤 直接影響を与えているのは中国です。人民の不満を爆発させないよう、セックスはオープンにすることが政府の方針らしく、親子連れも歩く大使館前の通りに平気でアダルトショップがネオンサインを付けてるんです。そこに置いてあるものは、非常にプリミティブなものばかり。経済状況も影響しています。上海では、安い漢方薬は貧乏人が使うもの、すぐに効くバイアグラは金持ちが使うものとされています。お金を持っている共産党の幹部らはバイアグラを買っていますね。中国のバイアグラは偽物も多いのですが。

――ED治療に宗教が影響している国はありますか。

工藤 本書には書きませんでしたが、インドネシア、特にバリ島はイスラム教ではなくてヒンドゥー教徒の多い場所ですが、そこでは「EDは誰かが呪いをかけているからだ」というケースもあります。恨みがある人は、相手の髪の毛などを魔術師のところに持っていって「EDにしてくれ」と頼みにいくんですよ。それが結構、効果があるとされていて、かなりのインテリでも真顔で「自分のおじさんが黒魔術にかけられて数年苦しんだ」などと言う。ひどい時は死ぬこともあると。黒魔術とか白魔術は、完全に土着の信仰だと思いますが、EDは理由がわからない場合も多いので、そうした信仰が今でも信じられているのでしょう。

 同じ南国でも、タイは伝統医療による睾丸マッサージが主流。タイは性の売買が根付いているので、商売の方にとっては相手がEDだとチップにも響きますから、そういうマッサージがてっとり早くていい方法なんですね。でも、どこまでが治療でどこから売春行為なのか境界が曖昧でした。日本で何人かの女性にこの話をしたら「マッサージを習いに行きたい」という方もいましたね。

――EDに対するさまざまな受け止め方を見て、「この国の治療法がいい」あるいは「セックス観が健全である」と感じた国はありますか。

工藤 どうでしょうか……。まず中国は難しいですね。国民のセックスに共産党の独裁国家が大きく影響しているので、性のあり方としてマイナスの面が大きい。例えば、中国人専用のホテルに外国人を連れていくと罰せられるとか、未婚の男女は同室に宿泊できないとか、そういうのは日本では考えられないし、韓国や台湾でもそこまでの話は聞きません。

――では、日本はどうでしょうか。世界的に見て、日本の性文化は成熟していると思いますか。

工藤 成熟度でいえば、やはり欧米の方が成熟していると思います。しかし、私は日本の性文化が好きです。すべてスパッと割り切るのではなく、恥ずかしがったり、長年夫婦だからセックスしなくてもいいじゃないかと妥協したりして、波風立てないようになんとなく時間が流れて行くという日本の文化が私は好きなんです。

 宗教的にも、例えば神道は、あらゆる物に神が宿っているとしてます。たった1つの神を信じるのではなくて、多くの神々がいるのが日本です。だから、私は詳しくは知りませんが、セックスの神様といいますか、男性器や女性器を祭った場所も日本にはあると聞いています。とても大らかでいいですね。それは男女関係にもいえるでしょう。

 カナダに長く住んでいたことがあるんですが、昨日まで「アイラブユー」なんてベタベタしていた夫婦が「今日離婚しました」とあっさり別れるケースが結構ありました。そして、あっという間に若い女性と再婚してまた別れて……そんなことがしょっちゅうでしたね。その点、日本の夫婦はあまり問題を突き詰めないで、結婚も男と女の間のトラブルというよりも、家族や会社など社会性を含めて考える。そこが不純だという人もいますが、私は個人的には、まあまあというか、なれ合いで生きてゆく方が楽です。だからEDも、あまり家族の話題にはならないのでしょう。
(構成/安楽由紀子)

(後編につづく)

工藤美代子(くどう・みよこ)
1950年東京生まれ。チェコスロバキアのカレル大学留学後、カナダのコロンビア・カレッジ卒業。著書に『悪名の棺 笹川良一伝』『絢爛たる悪運 岸 信介伝』(幻冬舎)、『快楽 更年期からの性を生きる』『炎情熟年離婚と性』(いずれも中公文庫)などがある。

最終更新:2013/04/12 15:03
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