[官能小説レビュー]

ラブホテルという非日常で育った女の“節目”を描いた『ホテルローヤル』

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『ホテルローヤル』/集英社

■今回の官能小説
『ホテルローヤル』(桜木紫乃、集英社)

 「ラブホテル」という場所がある。それがどういう場所なのか知らなかった子どもの頃は、おもちゃのような原色のお城を指差して、「あのお城、なあに?」と、無邪気に両親に訊ねたりしたこともあった。今思い返すと、何ともばつの悪い空気が流れていたことだろう。

 「ラブホテル」とは、ふと冷静に考えると非常に不可思議な場所である。なぜなら、男と女が、ただセックスをするためだけに集結する場所だからだ。不倫カップルがたまの逢瀬をむさぼる部屋もあれば、性欲を満たすだけにホテトル嬢を呼んでいる部屋もある。目的とする行為は1つだけれど、それに至るまでの物語は、壁1枚を隔てて十人十色――それぞれの部屋で、わずか数時間ばかりの、男と女のさまざまなドラマが繰り広げられている。
 
 今回ご紹介する『ホテルローヤル』(集英社)は、北海道の片田舎にあるラブホテルが舞台となる連作短編集である。1年のほとんどが厚い雲で覆われ、寒さから身を守るように人々が身体を寄せ合って生きている――そんな人のぬくもりが人一倍恋しくなるような北海道の片隅に、ひっそりと「ホテルローヤル」は建っている。

 この本に収録されている物語の1つ『えっち屋』は、「ホテルローヤル」を経営する女性と、大人のオモチャを卸す業者、通称“えっち屋”の男性との物語だ。

 いよいよ閉館を迎えることとなった「ホテルローヤル」の経営者である雅代は、父親とその愛人である母親との間に産まれた。幼い頃からラブホテルの“におい”、雄と雌が交わり乱れる獣の“におい”を嗅いで育った。そんな雅代は、男女関係において夢など見られるはずもなく、両親の見切り発車で押し付けられたホテル経営も、ここ半年は開店休業状態。さらに、ある部屋では教師と女子高生の心中事件が起こり、オカルトマニアや週刊誌の記者たちが面白半分で訪れるようにもなってしまった。そんな、自堕落な両親とセックスと死の匂いを浴び続けた自分と決別するためなのだろうか、雅代は30歳を目前にして、ようやく「ホテルローヤル」を畳む決心を固めた。

 一方、“えっち屋”の宮川は、市役所勤めをしていたころ、上司の妻との不倫を暴露する怪文書が流され、市役所を辞めて“えっち屋”となった。現在はその不倫相手であった妻と結婚しているのだが、彼女は病的に宮川の浮気を疑心するようになってしまった。

 宮川の身の上話を初めて聞いた雅代は、そんな宮川に、「アダルトグッズを私に使ってくれ」と頼む。両親に押し付けられ、「ホテルローヤル」に閉じ込められていた雅代と、24時間妻の監視下に置かれ、もくもくとバイブレーターを売りつづける宮川。セックスの“やり方”すら覚えていない雅代が宮川を選んだのは、宮川に自分との境遇を照らし合わせたからなのかもしれない。そして2人は、心中騒ぎのあったいわくつきの部屋で、アダルトグッズを使ったセックスを始める。「ホテルローヤル」の歴史を回想しながら、雅代は宮川に身体を預けるのだが――。

 利用客にとっては、ラブホテルというのは“非日常”の空間。心中した教師と女子高生も、そんな“非日常さ”に魅せられて、死に場所に選んだのだろう。けれど、雅代にとっては、ラブホテルという“非日常”こそ“日常”であった。

 そんな“日常”を捨てると決め、同じ境遇に置かれる宮川に、まるで別れのように「アダルトグッズを使ってくれ」と頼む――それは、“非日常”を“日常”として生きてきた雅代の、「誰かに身体を覚えていてほしい」という突飛な願望かもしれない。けれど、「人生の節目には、今までの人生を肯定してくれる証人がほしい」と言い換えれば、女ならば誰もが共感する願望のようにも感じる。

 女はそうすることで、身も心もすっきりして、次のステップへと進めるという一面を持っているのではないだろうか。ラストシーン、雅代が今まで感じたことがないほどの開放感を得たような描写にそんなことを思った。
(いしいのりえ)

ラブホテルって底冷えする淋しさがある

しぃちゃん

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