[連載]安彦麻理絵のブスと女と人生と

姑の手作りマーマレードジャム&納豆を投入、残り物一掃「ジャイアンシチュー」

2013/03/10 21:00
(C)安彦麻理絵

 最近、「冷蔵庫」にハマっている。冷蔵庫の中を、いかに使いやすく快適な空間にするか、そればかりを考えているのだ。事の発端は、2週間くらい前の休日。子どもが冷蔵庫の中に牛乳をブチまけた事がキッカケだった。

「勝手に冷蔵庫開けるなって言ってるだろ!! ……ああああ、もうイヤだ!! もう、何もかもがイヤになってきた!!!」

などと、目を三角にして鬼の形相で、ドス黒い言葉を吐きながら、渋々ぞうきんで冷蔵庫の中を拭いてたのだが。

 ……ふと、気が付けば私は、いつの間にやら冷蔵庫掃除に夢中になっていた。冷蔵庫の中がきれいになるにつれて、イライラが消え去り、なぜだか「幸福感」が感じられてくる。そして、煮えくり返っていたはらわたが、クールダウンして穏やかなはらわたになっていたのだ。「災い転じて福となす」とは、まさにこの事だろう。その日から私は「理想的な冷蔵庫」「姑が突然勝手に開けても絶対に動じない、素晴らしい冷蔵庫」を目指して、仕事そっちのけで、日夜、冷蔵庫の事ばかり考えるようになったのだ。

 「死蔵品のない、スッキリと整理整頓された、清潔な冷蔵庫」――それが、私の理想とする冷蔵庫像である。……それなのに。今までのウチの冷蔵庫は、単なる「食品の墓場」であった。賞味期限の切れた食品やら、腐った野菜、冷凍しっぱなしのゴハンなど、そんな哀しい食品たちの墓場と化していたのだ。今回のこの掃除をキッカケに、そんな成仏できなかった食品たちを、深い謝罪の念とともに、おごそかに、あの世(ゴミ箱)に送り出してやったわけだが……「これで随分スッキリした☆」と思ってたら、そうは問屋が卸さなかった。

 ふと、何かに呼ばれるように、冷蔵庫の真ん中の引き出しを、開けてビックリ。なんとそこから出てきたのは、大量の「座薬」。これでもかという量の座薬が、ザクザクと出てきたのである。大判小判がザクザク出てきたのならうれしいが、座薬にザクザク出てこられても、なんだか脱力するだけである……この座薬、子どもらが熱を出すたびに病院でもらってきたものなのだが……子どもが3人いれば、座薬の量も一人っ子の3倍。肛門にブチ込まれなかった、行く当てのない座薬たちが、冷蔵庫内で無言でひしめき合っていたわけである。こんなもの、必要な分だけ残しておいて、あとはサッサと処分すればいいものを……「これ、座薬だから」と、何も考えずに、冷蔵庫の引き出しにぶっ込んでいた自分のマヌケづらが脳裏に浮かんだ……野菜を腐らせる事よりも、なんだかこっちの方が、激しい脱力感に襲われた。

 そんなわけで。ムダがそぎ落とされた冷蔵庫を眺めては、1人悦に入る日々。1日に何度も、用もないのに冷蔵庫を開けては、その「ガラ~ンっぷり」を目にしてほくそ笑む。そして「やっぱり味噌はここが定位置だな」とか、「タバスコはここが落ち着く」などと言いながら、丁寧にスッと移動させたりするわけである。……スッキリと余裕のある冷蔵庫は、料理上手、暮らし上手の証……私は、食材をきれいサッパリ使い切って、冷蔵庫をガラ~ンとさせる事に、激しい快感を覚えるようになった。だから、ちょっとでも食材が余ってたりするとイラっとくる。常にガラ~ンとしてないと気が済まなくなってしまったのだ。そんなふうだから、私は「今ある食材だけで、なんとか一品ひねり出す」という料理に燃えるようになった。

 残り物だけで作ったのに、これが案外うまかったりすると、快感もまた倍増である。自分がまるで「料理上手の暮らし上手さん」にでもなったかのような気分になって、ほくそ笑みが止まらなくなるのであった。しかし、毎回毎回、作った料理がキマルわけではない。「冷蔵庫をカラにしたい!!」という欲望に負けて、なんでもかんでもぶっ込みすぎると、案の定「なんだかよくわからない料理」になってしまう。やはり、「思いっきり射精したいのを、すんでの所でグッと堪える」かのように(なんだかよくわからないが)、己の欲望を全てぶっぱなしたいのをグッと押さえる「引き」が、重要なようである。

 「残り物一掃クッキング」の王道といえば、それはやはり「カレー」だろう。「冷蔵庫がカラになってる状態を眺めたい!!」という、激しい欲望に突き動かされ、先日私は、そんな「残り物カレー」をこさえたのだが。冷蔵庫には、納豆、たまねぎ、じゃがいもがひとつずつ。「肉は買い足さずに、この材料だけでヘルシーなカレーにしよう」と思い、食材を刻んで煮込み、カレールーを入れたまではよかったが。付属のタレをかけて、ネバネバにかき混ぜた納豆を投入したら、「……なんだか園山真希絵の料理みたいだな……」という気持ちになってしまった。別に、「納豆カレー」というのはアリなはずである。以前、『キューピー3分クッキング』の本にも「カレーのアレンジ法」として紹介されていたのを覚えてる。しかし。真希絵のせいで、普通だったはずの料理が、なんとなく「汚料理」と化してしまったような気が……。そうなった時点で「食材のぶっ込み」は、もうやめとくべきであった。しかし私は「冷蔵庫をどうしても、今、カラにしたい!!」という欲望を押さえる事ができず、ほかにも何かぶっ込めるモノはないかと冷蔵庫の中を漁り……あるものに目をつけた。それは、「姑の手作りマーマレードジャム」である。

「これ、もしかしたらハチミツみたいに使えるかもしれない☆」

 そう思って、さっそく鍋の中にぶっ込んだ。納豆のネバネバでねばっこくなったカレーに、姑ジャムが絡みつく……それらをヘラでかき混ぜてるうちに、なぜか私の頭の中で「ジャイアンシチュー」という単語がひらめいてしまった。

「……なんか、このカレー、ジャイアンシチューっぽい……」

 不安になって味見をしてみると、マーマレードの自己主張が強すぎる。そんな「押しの強さ」に、姑の姿をさりげなく重ねながら、マーマレード味を緩和させるために、味噌を投入。そしてトドメに醤油も回しかけて、なんとか「普通のカレー」に仕立て上げた……が。やはり夫からは「このカレーの甘みって一体何?」と言われてしまった。真希絵とジャイアンがコラボしたかのようなカレー……マズくはないけど、でもやっぱりどこか「?」な味のカレー。やはり、いくら冷蔵庫をカラにしたくとも、欲望のおもむくままにぶっ込みすぎるのは考えものである。

 そんなわけで、先日友人に、自分ちの冷蔵庫のスッキリ自慢をしたところ、「そんなスッキリしすぎの冷蔵庫、姑が見たらきっと、『この女、ちゃんと料理やってんの?』って思うに決まってるわよ!!」と、言われてしまった……さもありなん。断捨離のやりすぎもほどほどに、という事か。

最終更新:2019/05/21 16:25
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