[連載]安彦麻理絵のブスと女と人生と

身も心もブスな10代を送った東北人には、「行くぜ、東北。」CMはまぶしすぎる

2013/02/17 21:30
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(C)安彦麻理絵

 私の出身地は、山形県新庄市という、秋田県に近い東北の豪雪地帯である。毎年毎年「これでもか!!!」と、ウンザリするくらいに、ゴッソリと雪が降り積もる地域だ。住民の高齢化が進んだエリアでの雪かき問題は、シャレにならない。冬には毎年、足のしもやけに悩まされた。それが痒くてたまらず、コタツの網に、激しくガリガリと患部をこすりつけたものだった。色気もへったくれもない。中学時代には、うず高く積もった雪に、校舎の2階の窓からダイブして、骨折したバカ者もいた……思春期ダイブ。やってる事がバカである……。

 ……そんな場所で生まれ育ったせいだろうか? JRのあのCM、「行くぜ、東北。」。アレをテレビで目にするたびに私は、なんだか言いようのない「こっぱずかしさ」に、激しく身悶えしてしまうのである。本当に、見るたびにあまりの「イタさ」に、頭を抱える。みた事がない方々のために、簡単に説明させて頂くと。概要は、以下の通りである。

 ……雪深い無人駅のホームで、スーツケースを椅子代わりして、1人たたずむ若い娘さん。ブルーのベレー帽に同じ色合いのコートをはおって、冬のおしゃれにもぬかりがない。そんな娘さんが、ちょっぴりすっ頓狂な声で歌い出す。

「いっくぜっ、とぉほくっ、レールに乗ってっ、こりゃたまらんらん♪」

 そこに地元の小学生男子が現れ「へたくそ!!」と一言。それに対して、ドヤ顔で指を指し「この、正直者☆」とキメる娘さん。

 そんなシチュエーションのCMなのだが……「これの一体どこが、こっぱずかしいの?」と、不思議に思う方もいらっしゃるだろう。そういう感想を持つ方々はきっと「東北出身」ではないはずだ。名古屋出身の夫も「これのどこがそんなに引っかかるわけ?」と、疑問を投げかけてきた。きっと、このCMの「トンチンカンぶり」は、東北の出の者でなければわからないのかもしれない。なんていうか「自分の知ってる東北よりも、100倍くらいよく語られてる」……そんな様が、激しい「イタさ」および「こっぱずかしさ」を誘ってくるのだ。コレの別バージョンで「温泉篇」もあるのだが、若い娘が1人、楽しそうに東北の温泉につかって、鼻歌歌ってるシチュエーションって、一体どうなのか?

 雪深い無人駅で1人楽しげに歌ってる様も、まったく現実味に欠けるが、こちらの温泉バージョンも然り。

「そんな奴いねぇだろ!!」
「こんな不思議っぽい女が雪の中で歌なんか歌ってたら、地元の人間ビックリするわ!!」

 ……とまぁ、私の中でのブーイングが炸裂なのだが。「行くぜ、東北。」のCMの茶番は、実は今に始まった事ではない。少し前にテレビで流れてたヤツも、かなりイタくてこっぱずかしかった。今回の「不思議ちゃん一人旅」に対して、前回のは「女の子3人組の元気旅」だったわけだが……。覚えてらっしゃる方もいるだろうか? とにかくもう、最初から最後まで全編通してギャアギャア大騒ぎのはしゃぎまくり。ナマハゲの登場にギャアギャア騒いだかと思ったら、ローカル線の走る土手で、何が面白いんだか、もつれ合って激しく笑い転げている。そして、こけしの絵付けに興じた後は、津軽三味線をエレキギター風に弾いてはしゃぎ、あちこちの名所で飛び跳ねながら騒いだ後は、シメに温泉に浸かりながら日本酒を酌み交わす、という……まさに「東北女子会行脚」といった感じのCM。

 「元気があっていいじゃないか」「これのどこがいけないんだ?」

 そんなふうに思う方もいらっしゃるだろう。確かにこのCMは、震災後の陰鬱な雰囲気が漂う中に流れたモノだったから、こんな元気なノリは、真剣に「がんばってくれ、東北~~~!!」という気分にさせられた……が、しかし。それでも、どうしても払拭されないこのイタさ、こっぱずかしさ。はしゃぎすぎ、やり過ぎ感が否めない。なんていうか、過剰包装気味なのだ。

 ……と、まぁ、ここまで書いてきて、ふと思う。何故私は、素直にこれらのCMを受け入れられないのか。こんな、ひねくれたような感想しか持てないのか。それは、結局は私が、地元で「ハジケた楽しい青春時代」を送らなかったからじゃないのか、と思う。そして「ゲレンデがとけるほどの恋」とも全く無縁だったもんだから、それで。それできっと、こんな、後ろ向きな感情ばかり抱いてしまうんだと思った。

「東北、いいとこだけど、でも別にここまで大騒ぎするほどの場所でも……」

 という、謙遜もまぶし込まれた、微妙な感情。陰気な、自意識過剰でコンプレックスまみれの青春時代、身も心もブスな10代を送った女にとって、あの「行くぜ、東北。」のCMは、まぶしすぎるのだ。当時は、自分にしか興味がなくて、自分の事ばかり考えていて、「まわりに広がる自然」なんてものは、不便で退屈なだけだった。それが、私の知ってる「東北」だった。

 それにつけてもこれらのCM、女バージョンだからブーブー文句ばかりタレてしまうのかと思って、男バージョンを妄想してみた。それだったら、そこまでひねくれる事もないのでは? と思ったのだが……「行くぜ、東北。」男バージョン。私が思うに、向井理あたりが同い年の友人数名を連れ立って、「うんめーっ!!」「サイコーっ!!」「すんげーっ!!」とか言いながら、少年ノリ丸出しで東北行脚を決行してしまいそうな絵ヅラが目に浮かんでしまった……。河原での芋煮会で大騒ぎしてナベをひっくり返し、最上川舟下りで騒ぎすぎて川に転落。そして、秋田美人に心を奪われつつ、ナマハゲのモノマネをして地元の子供を怖がらせるという、そんな様が容易に想像できてしまい、軽く目眩がしてしまった……結局「行くぜ東北」は、こんなノリしかないのだろうか?

 こんなんだったら、JR東日本のCM、あの、吉永小百合のシッポリしたやつ、あれでいいんじゃねえのか? と思ってしまう私であった。いや、あれで充分、東北出身の私でも、あのCMを見ると「いいな~~、東北の地元の居酒屋とか行って酒飲むのも良さげだな~~」とか、しみじみ思ってしまうんだから、あれでいいじゃんと思ってしまうのであった。

 そんなわけで、郷土愛薄そうに見える私かもしれないが、そんな事はない。山形県新庄市のおすすめスポットはいくつかある。新庄市萩野にある石動神社の親スギは、奈良時代からのシロモノだそうで、県指定天然記念物になっている。これはハッキリいってものすごくコワイ。というのも私が、昨年11月の、小雪が散らつく曇天の日に行ったせいかもしれないが、あまりの威圧感に、コワくて心臓がバクバクした。非常に霊験あらたか。伊勢神宮の木々も良いが、ここのもなかなか。ホラー的にみて、古いモノのオーラを感じたい人にはおススメである。それと、新庄からちょっと行った戸沢村から出ている最上川舟下り。休憩所でのアユの塩焼きは美味。是非、もの凄い顔でがぶりついてほしい料理である。

 「是非とも、行ってみでけらっしぇ東北!!」と、こんなふうに言えるようになったんだから、自分も随分と大人になったもんだ、と、しみじみ思うのであった。

最終更新:2019/05/21 16:26
『山形ガールズ農場! 女子から始める農業改革』
ぎゃーはずかしいっ!
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