[連載]悪女の履歴書

自作自演の膨大な嘘とストーリーで完全犯罪も――死刑囚・吉田純子


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(前編はこちら)

■弁護士さえやり込む純子の巧妙な話術

 その後も純子の金に対する執着は高まるばかりだった。が、2人の収入など高が知れている。そんな、平成6年、純子は看護学校で知り合った石井ヒト美がマンションを売ってまとまった金を持っていることを知る。純子は早速接触を図り、ヒト美の夫の不倫トラブルと借金をデッチ上げた。そして“先生”を持ち出し解決を申し出る。結果、ヒト美からトラブル解決金として750万円を騙し取ることに成功するのだ。

 平成8には純子は同じく看護学校仲間だった池上和子に触し、かつて純子と和子がいじめた准看護婦が、「和子のせいで不幸な生活を送っている。和子を恨んでいる」と巧みにトラブルをデッチあげた。そして、その解決金として2,800万円を騙し取った。さらに平成9年、純子は別の同僚看護婦の医療ミスをデッチ上げ、被害者家族への解決金と1,000万円を要求、それを手にしたこともあった。この時のエピソードは純子の“力量”を知る上で興味深い。

 金を払ったものの不審に思った看護婦が弁護士に相談、純子は弁護士と対峙することになったのだが、「刑法の詐欺にあたる。警察に届け出る」と言う弁護士に対し、純子は偽の領収書を出して応酬、激昂して弁護士さえもやり込めてしまったのだ。

 純子は巧妙に嘘のストーリーを作り出す。そして、一見荒唐無稽な嘘を信じさせる話術と強引な迫力、そして一種の説得力さえ併せ持っていた。そんな嘘に騙され、女たちは疑うことなく大金を純子に渡していった。 

 これらの詐欺の共犯は美由紀である。時には積極的とも思えるほど純子の犯罪をサポートした美由紀。美由紀はこれまで何度も「別れたい」と純子に懇願したが、その度に一方的に怒鳴られ、なじられ暴力を振るわれた。「逃げたら先生が末代に渡って抹殺すると言ってるばい」と嘯かれ、純子の詐欺行為にも手を貸すようになっていたのだ。この頃は既に、純子に金銭も心も、そして肉体をも完全に支配されていたのだろう。もし逆らえば罵倒され脅されるだけ。逃げられないという諦めの境地でもあったかもしれない。が、金は全て純子の下に渡り、それはエステや旅行、高級家具、ブランド品などに湯水のように使われた。

■病院からも警察からも疑われない殺人方法

 平成10年、詐欺は殺人へとエスカレートしていく。それが和子の夫・栄治への保険金殺害計画だった。和子は、かつていじめていた准看護士とのトラブルを純子に解決してもらったと思い込み、絶大なる信頼を寄せるようになっていた。そこで純子は和子の夫の愛人話をデッチ挙げ信じこませた。その上で「栄治は和子と子どもに保険金を掛けている。それで交通事故を装って殺そうとしている」と吹き込んだ。半信半疑だった和子だが、架空の人物話や、デッチあげられた物証などから、次第に夫への疑いを抱いていく。

 そして純子、美由紀、和子の3人はついに栄治殺害を決行する。方法は看護婦の知識を活用したものだった。まず睡眠薬で眠らせ、カリウム注射とエア注射(空気注入)で心臓疾患に見せかけるというものだ。1度目は失敗に終わったが、2度目には空気注射を10数回したところ、栄治は絶命した。栄治は病死として処理され、死亡保険金は約3,500万円が降りた。純子はこのほとんどを「栄治の借金を返す」といって持ち去った。それだけではない。栄治の死後、純子は和子に内緒で栄治の会社から約300万円の義捐金、月15万円の遺族年金を取得し、さらに栄治の両親が亡くなり相続問題が発生した際には、1,000万円を騙し取ってもいる。

 そして翌年の平成11年正月、純子はヒト美に再接近を図る。もちろん目的は金だった。5年前、夫・剛の女性関係をエサに純子から金を騙し取られているヒト美だが、純子を疑うこともなく夫とは別居し、3 人の子どもと暮らしていた。和子の夫殺害に成功し、巨額の金を得た純子は、次にヒト美の夫をターゲットにするべく接近したのだ。

 純子はここでも“先生”などの架空人物を登場させ、夫のせいで金を奪われた自殺者がいると信じ込ませた。そして「離婚より未亡人になった方が世間体がいい。生きていたらその後も夫に苦しめられる」と殺害を持ちかけたのだ。

 ヒト美は剛を呼び出し、酒と睡眠薬で眠らせた。その上で純子、美由紀、和子が合流、剛の鼻からチューブを挿入し、胃にウイスキーを流し込んだ。今度は急性アルコール中毒を装う計画だった。剛は運ばれた病院で死亡した。病院からも警察からも疑われることなく3,300万円の保険金が降りた。純子は「剛に騙されて自殺した遺族に支払う」といって保険金を全て奪い取った。

 トラブルをデッチあげ、弱みを握り、金を巻き上げる。さらには殺人の片棒を担がせることで、さらに弱みを握った純子は、3人を支配し、がんじがらめにしていった。だが純子の要求は終わらなかった。2人を殺害後、純子は自身と同じマンションに3人それぞれに部屋を購入させ、自分の身近に置いた。そして3人に自分を“吉田様”と呼ばされ、身の回りの世話の一切をさせるようになる。純子の3人の娘、純子の実母、入院中の父親の世話も3人が分担して担った(ただレズ関係を強要したのは美由紀1人だけだったが)。

■完全犯罪すら成立した保険金殺害

 綻びはこの頃から始まった。純子は次第にヒト美に過大なる要求をするようになる。平成12年、美由紀の実母の預金と保険金に目を付けた純子は、美由紀には内緒で、ヒト美に美由紀母殺害を命じた。当時、ヒト美は亡き夫の浮気の事後処理として4,000万円もの金を必要としていた(もちろん実際にはトラブルなどなく、純子の嘘だったのだが)。純子はそれを利用し、ヒト美を実行犯にしようとしたのだ。だが、美由紀母殺害は失敗に終わる。このことでヒト美は純子に300万円の制裁金を支払わされた。ヒト美の実家の農地を狙おうとする純子。さらに純子はヒト美の息子3人も養護施設に入れろと要求したのだ。

 こうした度重なる要求に、ヒト美は精神的にも追い込まれていった。思い悩んだ末、伯父に相談を持ちかけて、平成13年8月に久留米署に出向き夫殺しを告白したのだ。ヒト美はすぐに逮捕されることはなかったが、警察は内定調査を開始。8カ月後の平成14年4月17日、純子と美由紀そして和子の3人が逮捕された。直前、自殺未遂を図ったヒト美の逮捕は4日後の21日だ。だがヒト美が出頭しなければ、この2件の保険金殺害は完全犯罪となった可能性が高い。

 純子が詐欺などで奪い取った金額は1億2,000万円以上といわれる。それを自らの欲望のまま使い果たした。「人間は嘘をつくが、金は裏切らない」純子は歪んだ自らの信念を実行した。純子以外の3人はごく平凡で、優秀なナースだったという。おそらく純子に出会うことさえなかったら、こんな大それた犯罪を犯すことはなかったのではないか。

 だが純子は自らの欲望の前には手段を選ばなかった。人の弱点を本能的に見極め、僅かな心の隙に入り込み、恐怖と依存心を煽り3人を支配し犯罪行為に引きずりこんでいった。家族や子どもたちからも遠ざけ、孤独にさせて正常な判断能力を奪っていった。まさに洗脳支配の典型である。

■嘘による成功体験が導いた壮大な偽ストーリー犯罪

 純子を見ると嘘つきはドロボーの始めりとはよくいった言葉だと思う。純子は青春時代から数多くの嘘をついてきた。高校時代には野球部のエースや会社社長の息子と付き合っていると嘘の見栄を張った。友人同士の悪口を吹聴し、彼女たちの仲を裂いた。そして自分の立場を優位にし、友人をコントロールした。ニセ中絶カンパ事件も起こした。こうした嘘の“成功体験”が、その後の純子の嘘をさらに加速させたのではないか。

 純子の嘘はエスカレートし、犯罪行為に利用された。その際たる存在が“先生”という架空の人物だった。“先生”を機軸にヤクザの存在をちらつかせ、「夫は浮気して借金まである」「ソープで働かされる」「あんたを恨んでいる人間に復讐される」「医療過誤をした」などと虚偽のストーリーをでっち上げ、ターゲットを追いつめ「解決金」といって金を巻き上げた。自演自作の膨大な、そして一見もっともらしい“ニセストーリー”が純子の最たる武器だった。そして詐欺行為は殺人へとエスカレートしていく。妻たちに「夫が浮気している」「借金もある」「保険金で妻子を殺す計画がある」とニセの不信感を植え付け、弱味を握り、殺人を教唆し実行した。嘘つきはドロボーになり、殺人者となった。そこに罪悪感は微塵もない。

 純子は初公判で罪を認め泣き崩れるというパフォーマンスをした。にもかかわらず、その後、拘置所のヒト美に「自分を無罪にするように」との指令書を送るという離れ業までやってのけた。いろんな意味で大した女である。

 平成16年夏、一審において純子は死刑判決が下された。美由紀は無期、ヒト美は懲役17年だ。そして和子は判決直前に死亡している。逮捕後ガンにおかされていることが判明し、それがもとで死亡したという。純子だけは控訴、平成20年最高裁で死刑が確定した。純子はその後も「自分を唆し、多額の利益を得た人物が背後にいる」と主張し続けているという。
(取材・文/神林広恵)

参考文献
「黒い看護婦」(新潮社)森功

壮大な嘘つきって、学年に1人はいたものだけど

しぃちゃん

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