[官能小説レビュー]

旅の醍醐味は男と女の恋愛にも通ずる、ご当地エロス小説『美女紀行』

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『美女紀行』/双葉社

■今回の官能小説
『美女紀行』
睦月影郎、霧原一輝、橘真児、川奈まり子、葉月奏太、柚木郁人、とみさわ千夏(双葉社)

 人は相手を見る時、なぜその背景にある「土地」に魅せられるのだろう? 函館、博多……訪れたことのない地名を聞くと心が浮き足立ち、故郷や、両親・祖父母にゆかりのある地名を聞くと、とたんに親近感が沸いてしまう。

 また、その土地に根付いた「方言」も、魅力の1つとなりえる。地元民にしてみれば何とも感じない、むしろ恥ずかしいとすら感じるかもしれない方言だが、その土地を知らない者からすると、それはそれはぞくっとするほど暖かくて可愛らしい、その人の強い魅力となるのだ。

 今回ご紹介する『美女紀行』(双葉社)は、日本列島の、ご当地官能小説がぎゅっとまとまったアンソロジー。北は札幌から、南は波照間まで、全国七都市で繰り広げられる男女の物語とセックスが描かれている、ご当地エロス小説である。

 作品ひとつひとつに、都市の特徴や空気が色濃く描かれているところが面白い。旅行先の伊香保温泉で出会った姉妹に魅了される、中年イラストレーターを描いた「宵待草」(霧原一著)では温泉地の静けさが、波照間島へ取材に出向いたルポライターが、ひょんなことから島の乱交に巻き込まれることになる「裏まつりの島」(川奈まり子著)では沖縄の熱気が伝わってくる。

 10年前に付き合っていた彼女と、いわゆるファッションヘルスで再会してしまった男の話「すすきのの忘れ物」(葉月奏太著)は、若い頃の甘酸っぱい思い出が、氷点下まで下がった真冬の札幌によみがえることで、その切なさをより鮮明に描き出している。自分のマフラーを外して彼女の首に巻きつける彼……そんな極寒の街ならではの、温かなデートシーンも非常に愛らしい。

 「見知らぬ土地」とは真逆だが、地元にも物語は転がっている。

 神奈川県の三浦半島に位置する三浦市が舞台の「三浦三崎に灯台あれど」(睦月影郎著)は、主人公の官能小説家が、同窓会のために帰郷する物語。高校時代に憧れていた国語教師の沢井先生と共に、40年前にタイムスリップし、幼い頃になし得なかった沢井先生とのセックスを存分に堪能する。

 誰しも、地元には、淡くも切ない思い出があるのではないだろうか? それらを成就させることはできなかったとしても、帰省するたびに、頭の中にその思い出が蘇えり、思いを馳せてしまう――これもまた、土地が人を魅了するということなのかもしれない。

 『美女紀行』を読むと、本当に見知らぬ土地を旅しているような気がして、どこか浮き足立った気持ちを抱く。それは、初対面の人に恋をした時の、弾んだ感情にも似ている。また、耳慣れない方言が飛び交う場で、手探り状態のままその土地を楽しみ、悦びを見出すという旅の醍醐味は、男と女にも通ずるように思う。付き合い始めて日の浅いカップルや、マンネリ化してしまったカップルが旅行に行くのも、2人の仲をステップアップさせるための1つの手法。見知らぬ土地への旅は、男と女にとって、欠かすことのできないカンフル剤なのだ。

何もかも忘れて熱海にでも行きたい……

しぃちゃん

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