[連載]まんが難民に捧ぐ、「女子まんが学入門」第29回

中村明日美子完全復活の予兆!?  今年完結した女子マンガ、注目作はコレ

――幼いころに夢中になって読んでいた少女まんが。一時期離れてしまったがゆえに、今さら読むべき作品すら分からないまんが難民たちに、女子まんが研究家・小田真琴が”正しき女子まんが道”を指南します!

 ある知人は「完結したマンガでないと心安らかに読めない」と言います。「続きが気になって仕方ないのに、今すぐ続きが読めないなんてとても耐えられない」のだそうです。なるほど、その気持ちもよくわかります。ということで今回は、この冬休みに大人買いしたい「今年完結した女子マンガ」の私的ベスト5をご紹介いたします。順不同です。

■清水玲子『秘密―トップ・シークレット―』全12巻(白泉社)

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 途中に清水先生の産休・育休などを挟みながら、10年以上にわたって「メロディ」(白泉社)に連載された超大作が、10月に同時発売された11、12巻でついに完結しました。

 特殊なスキャナーで人の脳の記録を映像化する「MRI捜査」が当たり前になった近未来の警察、という設定がまず絶妙です。主人公はMRI捜査専門の部署である「科学警察研究所 法医第九研究室」、通称「第九」の室長である薪とその部下・青木。2人の関係性はBL的に描かれもしますが、直接的な描写はもちろんなく、しかしなにしろ美麗極まりない清水先生の絵が、読む者の想像力を刺激します。死んだ人間の脳を通じて見えてる「秘密」。そしてほかならぬ薪の「秘密」。「秘密」には明らかにされざるを得ない宿命があり、最終巻ではついに薪の「秘密」が明らかにされます。

 本作には一般的なミステリー作品のような謎解きの爽快感はありません。そこにあるのは、ひたすらほろ苦くて切ない「秘密」ばかりです。やや残酷な描写もあり、また容赦なく心をえぐる表現も多々ありますが、それでも読み終われば私たちは、だからこそ人は愛おしいのだと思うことでしょう。

 それにしても最後の最後に突然登場した謎の男「黒田洋」って一体誰なんでしょう……。現在連載中のスピンオフ作品『秘密 Genesis 創世記』で、その謎は明かされるのでしょうか。

■松田洋子『ママゴト』全3巻(エンターブレイン)

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 前述の『秘密-トップ・シークレット-』の最終盤のモノローグにはこうあります。「この世に生きている限り、守るべきものは出来てしまう。全部無くしてもまた――全部無くした筈なのにまた、大切なもの、失いたくないものは生まれてくる。生きてる限り」。そのテーマは本作『ママゴト』にも通じます。主人公は場末のスナックのママ・映子。親友の滋子から5歳になる子ども・タイジを預かっていたのですが、なんと滋子はそのまま失踪してしまいました。なし崩し的に始まる2人の擬似家族生活を描きます。

 いうなればその構図は『うさぎドロップ』(祥伝社)の男女逆転版ですが、物語の様相はまったく異なります。不器用ながらも精一杯母親を務めようとする映子。ダンボールで作ったベッド、グラスによそわれたご飯……。かつて諦め、失ったものを思いもがけずに手に入れてしまった映子ですが、もちろんこのまますんなりと行くわけがありません。

 叫び声のように切実なネーム、その最中に差し込まれる上質なユーモア、そしてタイジというキャラクターの愛らしさが渾然一体となって、読む者の心を強く揺さぶります。あまり使いたくはない言葉ですが、「泣ける」度合いで言えば今年一番ではないでしょうか。

 第3巻はつい先日刊行されたばかりです。最終話にはさまざまな意見があるようですが、わたしはこれを「夢オチだと言わない夢オチ」だと読みました。みなさんはどう読まれたでしょうか。とても美しい終わり方だと、私は思います。

■中村明日美子『ウツボラ』全2巻(太田出版)

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 中村先生の一時休業によって連載の継続が危ぶまれましたが、描き下ろしを加えた5月発売の第2巻で見事完結いたしました。自殺した美少女とスランプに陥った作家・溝呂木を巡る、中村先生初のサイコホラー作品であります。

 やはり中村先生はマンガの天才であるのだなと本作を読んで痛感します。ビジュアルの面から狂気を表現してみせる、鮮やかなコマ割りと美しいシンメトリー構図。そして終局へ向けて増す緊迫感たるや只事ではありません。死んだはずの女にそっくりなこの女は、果たして何者なのか?

 立て続けに刊行された『空と原』(茜新社)は、圧倒的な人気を誇る『同級生』(同)シリーズの最新作で、こちらも素晴らしい作品です。BLもいけるという方はぜひ。また新年1月31日は『鉄道少女漫画』(白泉社)の続編となる『君曜日―鉄道少女漫画―』(同)も発売されます。2013年は中村先生、完全復活の1年となりそうな予感。楽しみでなりません。

■もとなおこ『コルセットに翼』全10巻(秋田書店)

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 マンガを描くためには手間が必要です。物語を考えたり絵を描いたりするのはもちろんのこと、例えば「霊柩車を描くための資料を集める」といった資料集めの手間も必要です。現代ものならそれも比較的たやすいことですが、歴史もの、しかもイギリスものとなるとどうでしょう? もとなおこ先生の大作『コルセットに翼』は、19世紀末のイギリスの女子寄宿学校を舞台に描かれる、1人の少女の成長記です。

 「女子寮もの」として始まった本作は、主人公の成長とともにその舞台を広げ、美しく、そして力強く、女性の社会進出という時代のうねりの中を駆け抜けていきます。過去を舞台にしながらも、その視線は常に未来を見据えているのが、もと先生の凄いところ。感動的かつ普遍的。歴史もののお手本のような作品であります。かつて数多くの少女マンガがヨーロッパやアメリカを舞台としてきました。時代と共に「憧れ」の対象が変わってきたのでしょうか、近頃では「ギムナジウム」や「ロスアンゼルス」を舞台とした少女マンガをとんと見かけなくなりました。もちろんそれもしようのないことだとは思うのですが、やはり『コルセットに翼』のようなコスト(=手間と時間)のかかった骨太の歴史もの・海外ものを読むと、「やっぱこれだよね!」と快哉を叫びたくなるのです。

 イギリスを愛してやまないもと先生は、新作『ガーフレット寮の羊たち』もやはりイギリス、そして今度は男子寮が舞台です。第1巻がすでに絶賛発売中ですので、こちらもぜひご注目を。

■山岸凉子『日出処の天子〈完全版〉』全7巻(メディアファクトリー)
※完結巻は4月23日発売

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 今さら本作のような歴史的名作を挙げるのも気が引けるのですが、昨年末から今春にかけて刊行された「完全版」は、すでに別のエディションをお持ちの方でも買う価値アリだと断言します。この頃の山岸先生の神がかり的に美しい絵を大きな判型で味わうことができ、しかもカラーの扉絵まで完全に再現されているのですからたまりません。

 本作の魅力は何よりも主人公・厩戸王子(聖徳太子)の妖しさにありますが、カラーの絵から匂い立つそれは只事ではありません。見ちゃいけない、と思いながらもつい見てしまう、エロスと中毒性に満ちた芸術作品です。そもそも話自体が尋常でなく面白いのに、この絵のべらぼうな美しさときたら、一体どういうことですか山岸先生……。

 聖徳太子は超能力者で同性愛者だった、という衝撃的な設定で物議を醸した本作も、今やマンガ好きなら絶対に読むべきマスターピースの1つです。未読の方もこれを機会にぜひ一気読みを。

 ほかにも、町麻衣『はしっこの恋』全2巻(祥伝社)、坂田靖子『ベル デアボリカ』全4巻(朝日新聞出版)、瀬川藤子『VIVO!』全3巻(マッグガーデン)、志村志保子『女の子の食卓』全8巻(集英社)、小川彌生『キス&ネバークライ』全11巻(講談社)、さいとうちほ『アイスフォレスト』全12巻(小学館)などご紹介したかったのですが、残念ながら今回はこのへんで。素敵なマンガとともに、楽しい年末年始をお過ごしください。

小田真琴(おだ・まこと)
少女マンガ(特に『ガラスの仮面』)をこよなく愛する1977年生まれO型牡羊座。「SPUR」(集英社)にて「マンガの中の◯◯男子図鑑」連載中。自宅の6畳間にはIKEAで購入した本棚14棹が所狭しと並び、その8割が少女マンガで埋め尽くされている(しかも作家名50音順に並べられている)。もっとも敬愛するマンガ家はくらもちふさこ先生。

このままカリスマショップB.O(ブックオフ)へダッシュだ!

しぃちゃん

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