[連載]悪女の履歴書

“女”であり続けた死刑囚・小林カウのセックスと金の欲望の先


Photo by kanegen from Flickr

 世間を戦慄させた殺人事件の犯人は女だった――。日々を平凡に暮らす姿からは想像できない、ひとりの女による犯行。彼女たちを人を殺めるに駆り立てたものは何か。自己愛、嫉妬、劣等感――女の心を呪縛する闇をあぶり出す。

[第8回]
ホテル日本閣殺人事件

 小林カウは戦後初めて死刑を執行された女死刑囚である。若い男に自分の肉体を与え、その男たちを巻き込みながら3人の人間を殺害した。逮捕された後も、カウは“女”であり続けた。取調べでは捜査官の気を引こうと、手を握ったりシナを作り、着物の裾から“局部”を覗かせることもあった。セックスの話にも積極的だったという。公判でも派手な着物と厚化粧、レースの被り物をしたこともあった。裁判官に色気も振りまいた。まさか自分が死刑になるとは思わず、留置所でも明るく振舞っていたという。

 これは、日本が終戦を経て高度成長期へと突入する直前、貧困と無知の中、自らの肉体を使うことも厭わず、金銭に執着した悲しい女の一生である。

■嘘つきで見栄っ張り、「花や動物を愛さない」子ども時代

 栃木県の塩原温泉郷の一角に「ホテル日本閣」はあった。昭和35年2月、この日本閣の経営者である生方鎌助の妻ウメ(当時49歳)が失踪した。夫の鎌助は「ウメは30万円を持ち出し男と駆け落ちした」と周囲に話していたが、その鎌助(当時53歳)も同年の大晦日に姿を消した。

 翌36年2月、鎌助・ウメ夫妻を殺害したとして逮捕されたのが、日本閣の共同経営者だった小林カウ(当時52歳)だった。ホテルの雑役をしていた大貫光吉(当時36)も共犯として逮捕された。年の離れた2人の間には肉体関係があった。さらにその9年前に病死とされていたカウの亡夫もカウによる毒殺と判明、共犯として当時の17歳年下の愛人だった元警察官も逮捕された。この一連の殺人が世に言う「ホテル日本閣事件」である。

 カウは明治41年埼玉県大里郡(現在の熊谷市)の農家に7人姉弟の次女として生まれた。当時、この一帯は土地の質が悪く貧しい農村地帯で、中でもカウ一家は極貧といわれていた。カウは尋常小学校に通うが姉弟の面倒を見るため欠席も多かった。そしてすぐにカッとなる強気の性格もこの頃からだったという。当時の担任は「花や動物を愛するところがなく人情味に欠ける」とカウの性格を分析している。カウは野良仕事を嫌った。そして見栄っぱりのホラ吹きでもあったという。「村の若い衆と映画を見にいった」「別の若い衆とも遊びにいった」と吹聴し、周囲からは嘘つきと罵られた。だがカウは一向に気にしなかったようだ。

 16歳になると、憧れの東京・本郷の旅館で住み込み女中となった。22歳の時、姉の勧めで林秀之助(当時27歳)とお見合い結婚をした。しかし当初からカウは不満だった。秀之助は身長が低く、貧弱な体格で、いつも青白い顔をしていた。ヤキモチ焼きな上に、カウには性的な満足を一度も与えなかった。

■開花した商才と知ってゆく金とセックスの味

 終戦後2人は熊谷で自転車のタイヤ卸業を開業し、カウはそのほかにも「五家宝」という和菓子の製造販売も始めた。終戦後の物不足の中、和菓子販売は当たった。さらに漬物の販売や行商を始め、商売の面白さと同時に金儲けの味を知った。

 昭和26年、43歳になったカウは若い警察官と出会う。中村又一郎(当時26)だった。2人はほどなく肉体関係を持つ。だがカウには思惑があった。カウはヤミ米を扱っていて、その取締りを逃れるためには中村の存在が都合のいいものだったのだ。しかしカウは若い男に溺れていった。夫とは性的満足を得られなかったカウは、初めて快楽を知ったという。初めての恋でもあった。そのゆえ、「もし私を捨てたら警察署長に全部バラす」と脅すほど執着した。中村にのめり込むカウに、夫が浮気を勘づくのに時間はかからなかった。嫉妬した夫はカウの離婚の申し出を一蹴し、監視した。そんな状況で、ある時夫が急死してしまう。医師は、保健所の医師も立会った元で「脳溢血」と死因を診断したが、実際はカウが青酸カリを盛って殺害したのだった。中村との生活を夢見て、邪魔になった夫をいとも簡単に殺害したのだ。

 死に際、毒を盛られた夫は、もがきのたうち回ったという。その様子を、駆けつけた近所の人間は、「カウが殺した」と盛んにうわさしたが、カウはそれを巧妙に口止めし乗り切った。その後、中村はカウの関係や素行の悪さから警察を辞める。ヒモとなった若い中村を悦ばせるため、カウは必死に働いた。中村にはクルマを与え、学校にも行かせようとしたが、その一方でカウの金に対する執着も激しさを増していく。

 カウは行商の際、仕入れ代金を肉体で支払うこともあった。それだけでなく「物々交換」と称し、米屋や八百屋の支払いも“体”で済ませたこともしばしばだった。若い男に貢ぎながら、支出は自分の体で支払う。金と若い愛人のためにはなりふり構わぬカウ。

 だが中村との関係は2年ほどで終わってしまう。中村にとってカウは金をくれる都合のいい女で、年の離れたカウと生涯を連れ添う気などさらさらなかったのだ。ここでカウを語る際に必ず出てくる凄まじいエピソードがある。

 カウとの生活に嫌気が差してきた中村は、ある晩、泥酔し吐いて寝てしまった。朝起きるとおじやの朝食が出てきた。しかし、よく見るとそのおじやは昨晩の吐しゃ物を集めたものだったのだ。激怒する中村の前で、カウは平然とそれを食べたという。

 最愛の恋人であった中村から去れてたカウは、行商の得意先でもあった塩原温泉へ移り住み、土産物屋を乗っ取り、ほかにも食堂を経営する女主人となった。カウは3年の塩原生活で、実に300万円(現在のおよそ1,740万円)もの貯金を蓄えた。カウの野望はさらに膨らんでいく。温泉街のヒエラルキーの最高峰は「温泉宿の主人」である。カウは土産物屋の女主人では満足できなかった。そして目を付けたのが「ホテル日本閣」だった。

■肉体と金をエサに、殺人を指示

 日本閣は塩原温泉では創業2年ほどの新参で、引き湯の権利がない、“温泉の出ない”ランクの低い旅館だった。放漫経営も相まって経営困難に陥っていた。昭和34年、経営者の鎌助はカウが日本閣をほしがっていることを知った上で、共同経営を持ちかけた。鎌助の目的はカウの金だった。加えて夫婦仲もうまくいっていなかったことで、「妻のウメに手切れ金50万円を都合してくれれば、その後釜にカウを」と鎌助は言う。これに、カウは飛びついた。しかし次第に手切れ金も惜しくなったカウは、手っ取り早くウメを殺せば一銭も出さずに済むと考えた。昭和35年、カウはホテルの雑役をしていた大貫光吉に声を掛けた。光吉は流れ者で身寄りもなかったが、時折カウは酒を飲ませ手なずけて、ウメの殺害を持ちかけたのだ。渋る光吉に、5万円という高額の成功報酬と自分の肉体を条件にこれを了承させる。「成功したら抱いてやる」と。

 生来、教育もほとんど受けず、肉体労働で生活の糧を得、定住を好まなかった光吉は、カウの意のままになった。小心者の光吉は1度は失敗したが、ウメを絞め殺し、遺体をホテルのボイラー室の床下に埋めた。

 しかし、ここからが興味深いのだが、ウメの失踪が7年前の夫死亡時と同様、周囲のさまざまなうわさを招いたことだ。「ウメはカウと鎌助に殺された」、さらには「ホテルのボイラー室の下に埋めらている」と事実を言い当てた者もあった。それほどカウの日頃の評判が悪かった証左ともいえるが、良くも悪くも田舎特有の近所のコミュニティが健在な時代だった。村のうわさは正鵠を得ていた。そのためカウは光吉に金を渡し、ウメの遺体を山林に埋め直させた。

 だがホテルはカウのものにはならなかった。200万円をつぎ込んで増築までしたが、ホテルには抵当が付き、このままでは競売に掛けられてしまうとわかったのだ。さらにウメ殺害後、鎌助はその罪悪感からか精神的に変調をきたし、周囲にウメ殺害を仄めかしもした。「こうなったら鎌助を殺すしかない」。鎌助を殺しても、ホテルが自分の所有物にならないことは普通ならわかりそうだが、カウにはそんな頭も回らなかった。そして、またしても光吉を炊きつける。光吉が調達した塩素を酒や味噌汁に入れたが失敗。そして12月31日の大晦日、カウは茶の間でテレビを見ていた鎌助の首にヒモを巻きつけた。「謀りやがったな!」叫ぶ鎌助。光吉も包丁で頸部を数回刺した。ゴボゴボと血が噴出し部屋中に飛び散った。鎌助の遺体はホテルの廊下の下に埋めた。「鎌助は東京に金策に行った」、周囲にはそう説明したが、誰も信じる者はいなかった。そして、ホテル経営者夫婦の失踪は警察の耳にも伝わった。ここでも村の情報伝達能力が発揮されたことは興味深い。

 こうして昭和36年2月、カウと光吉は逮捕された。その後の取調べでカウは前夫の殺害も自供、愛人だった元巡査も共謀した共犯として逮捕された。元巡査はすでに結婚し、2人の子どもをもうけていた。しかしカウは、夫殺しを単に自供したわけではない。逮捕後、夫婦の暮らした熊谷や夫の出身地である新潟から、何通もの投書が警察に舞い込んだのだ。そのすべてに、「前夫もカウが殺した」との疑念が綴られていた。

(後編につづく)

ボイラー室の地下って証言した人、絶対見てたでしょ

しぃちゃん

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