[女性誌速攻レビュー]「日経ウーマン」2013年1月号

「日経ウーマン」片づけ特集、女子アナと読者の“捨てる”意識の隔絶

2012/12/21 16:00
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「日経ウーマン」2013年1月号/日経BP社

 師も走ると言われる12月、成功&安定を目指して年中無休で走り続ける「日経ウーマン」(日経BP社)もすっかり歳末モードです。還暦のちゃんちゃんこばりに真っ赤な表紙は、クリスマスカラーのつもりなのでしょうが、もちろん堅実な「日経ウーマン」紙面には、「クリスマス」「忘年会」等の単語はまったく姿を現しません。ウーマン読者たる者、パーティーや何かで散財して、脂肪を蓄えている場合ではないのです!! 12月といえば大掃除、いらない物やいらない感情やいらない男はすべて捨ててスッキリと新年を迎えましょう!! というわけで、今回は「部屋と心をスッキリ! 捨てる☆技術」大特集です。さらにウーマン的今年一年の総決算「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2013」の発表も用意されています。早速紙面をチェックしてまいりましょう。

<トピック>
◎部屋と心をスッキリ! ラクラク捨てる★技術
◎今日から役立つ! 時短テク
◎脱・停滞! 転機をつかむ仕事術~ウーマン・オブ・ザ・イヤー2013~

■片づけ界のスター・こんまり登場!

 今、片づけ特集といえばこの人が出てこないわけがありません。『人生がときめく片づけの魔法』(サンマーク出版)シリーズの2作目が大ヒット中の“こんまり”こと近藤麻理恵さんが、「ときめき★捨て方レッスン」をウーマン読者にレクチャーしてくれています。

 「『ときめくか、ときめかないか』」を考え、ときめいたものだけを残して後は捨てる」というこんまり流片づけ術。目を通していくと、「理想の自分をはっきりさせ」て、自分の幸せ像に沿ってモノを選ぶことが必要と書かれています。大事なのは、今の自分が大事にしているものではなく、これから先自分が大事にしたいものなんですね。そして、あれも捨てられないこれも捨てられないと悩むのではなく、「残すモノを選ぶ」のが大事だとか。「ときめき」「魔法」という少女漫画チックな単語が先行して、フィーリング重視の漠然としたテクニックというイメージがありましたが、「モノとモノを比較」して自分が幸せを感じる=自分にとってメリットがある方を手元においていくという方法は、残酷なほどにリアリスティックだと感じました。そういった意味で、こんまり流片づけ術は、上昇志向・堅実志向の「日経ウーマン」にぴったりといえるのではないでしょうか。

 さて、「こんまりチルドレン」とでも言うべき「お部屋スッキリで人生が変わった女性たち」も紙面には多数登場しています。レディコミ巻末のパワーストーンの広告さながらの「理想の自分に近づき出会いも広がりお金まで貯まるように!」という見出しで紹介されていた女性は、「理想としていた自分には、暗い色は必要ないと思った」ので、モノトーンの服を処分し、室内も服も小物もピンクと白に統一したそう。そういえばこんまり氏も、いつも淡い色の服着てるような……。モノトーンの服の合わせやすさ、汚れにくさと決別できるという果敢な女性は、ぜひ心機一転してピンクと白が似合う自分を目指してみては?

■「ネガティブ禁止」はしんどい……

 元アナウンサー・平井理央さんとその姉・真央さんが「捨てる」「手放す」ことについて語る対談では、フジテレビと博報堂という大企業を辞めたお2人が、辞めたことで見えてきた新しい生き方について語っています。真央さんいわく「今回“捨てて”みて感じたのは、捨てることは“自分にとって本当に大切なものは何かを宣言する”作業」であり、「捨てたものではなく、何を残したのかが大事」で、「残った本来の自分を世の中に表明する」のだそうです。「ときめき」で理想の自分に近づくこんまり氏にしろ、大企業をやめた平井姉妹にしろ、「捨てる」ことは単なる住環境の整美の意味合いだけでなく、自己実現を達成するための手段となり得ていることがわかります。

 しかし、「読者の『捨てたいモノ』50のリスト」に挙げられているのは、「過去の写真と過去の恋愛」「嫉妬深さ、見栄」「自分への自信のなさ!」「腐れ縁の彼氏」「冷え症」などなど。迷える読者たちは「自己実現」「理想の自分」を考える前に「過去・現在の自分」に悩んでいるようです。そんな読者たちから見れば、大企業で働き続ける道を「捨てる」という平井真央さんの選択は、夢のまた夢。捨てたくても捨てられないたくさんの物を抱えて疲れ果てた読者たちに、「理想の自分」像を思い描く希望や、「捨てる」決断をする余力が果たして残っているのでしょうか……。

 今回の「捨てる★技術」大特集では、部屋の中の古雑誌や読まない本と同様に、読者が抱えるようなマイナスの感情も捨てるべきものとして扱われています。「ネガティブ感情を捨てる10の習慣」「あなたの『モヤモヤ』の原因を、チェックシートで判定」「職場の『イライラ』、こうすれば捨てられる!」などの企画が用意され、マイナス感情はまるで疫病神のような扱いをされているのです。

 「落ち込みグセを手放す5つのAction」は、「大きな声で挨拶をする」「笑顔を意識する」「『ありがとう』を多めに」「人にやさしく接する」「一つひとつのしぐさを丁寧に」とポジティブな言動の独壇場。たしかに、落ち込んでる時にこういったことが心がけられたら立派ですよ。だけど落ち込んでるからこそポジティブな言動ができなくなってしまうわけで。ってか、むしろいつもポジティブでいられるなら苦労しないっつーのっ! と、その矛盾ぶりに本誌を投げつけたい衝動に駆られました。

 自立を目指す「日経ウーマン」では、仕事をサボるとか、友人に泣きつくとか、実家に帰るとか、携帯の電源をオフにしてアイドルのDVDを見るとか、そういう逃避行動は許されないみたいです。だけど、ただでさえがんばりすぎる生真面目なウーマン読者。彼女たちが余分な物を切り捨てて余分な感情を切り捨てて、お金とキャリアのほかに何が残るのでしょうか。こんまり氏たちによって自己実現のための手段として提唱されている「捨てる☆技術」も、「日経ウーマン」紙上では、目標そのものになってしまっているように感じました。欲しいものを買ったり、したいことをするために必要となるはずのお金だって、「日経ウーマン」の手にかかれば、貯蓄額を増やすことが信条になってしまうのと同じ匂いを感じた本特集でした。

■理想の女性像は「等身大+ポジティブ」

 「日経ウーマン」が提唱する「がんばりすぎ女子」の究極形ともいえるのが、「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2013」ではないかと思います。「日経ウーマン」が今年度各界で最も活躍した女性に贈る賞で、紙面には何人もの受賞者たちの半生やその功績が紹介されています。

 通常、成功者の体験記というものは「苦渋の時代」を経験した後に成功を掴んでいるからこそ魅力的であり、読者を「私も頑張ろう」という気にさせるものだと思うのですが、今年の受賞者たちには、「苦渋の時代」の影がまったく見えません。もちろん、大賞を受賞した諏訪貴子さんを初め、その波瀾万丈な人生の中ではさまざまな困難を経験されているのですが、そこでの苦労やネガティブな感情というものがまったく伝わってこないのです。例えば、前述の諏訪さんは「切り替えの早さ、前向きさ」というわかりやすくポジティブな感情で困難を乗り切ったことになっており、リーダー部門を受賞した阿部玲子さんの異国での苦労は「言葉の壁による鬱状態も乗り越え」という一言で片づけられています。受賞者たちは本当にマイナス感情を抱かないことで成功を得たのか、成功を得たからこそ過去のマイナス感情を「捨てて」しまったのか、はたまた編集部の意向でマイナス要素が周到に除去されているのかわかりませんが……。

 近年のウーマン・オブ・ザ・イヤー受賞者には、一般企業に勤めているごく一般の女性が選ばれる傾向にあります。必ずしも高学歴だったり良家のお嬢様だったり絶世の美女だったりするわけでもなく、そういった意味では読者と「等身大の女性」です。「等身大」=「取り柄という取り柄はないけど、ポジティブさで成功を得ていく」、そんな一昔前の少女漫画の主人公のようなキャラ設定で実際やっていけるほど、今の世の中は甘くないと思いますが、紙上の受賞者たちはいまだにそんな設定で取り上げられています。それは、「ネガティブ」な感情を肯定してしまったら、「日経ウーマン」が提唱し続ける、成功&安定という信条が揺らいでしまうからにほかなりません。読者にネガティブな感情を「捨てる」ことを促し、「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2013」で究極の「ポジティブ」状態で成功を得た女性を祭り上げることで、読者の向上心を更に喚起する構成になっていたのが、今年最後の「日経ウーマン」でした。

 来年もがんばりすぎ女子たちが「日経ウーマン」の貯蓄とキャリアについての特集を愛読するのでしょう。毎号の特集を真に受けて、節約&部屋にモノを増やさないために、「日経ウーマン」を立ち読みで済ませる読者が増えてしまわないのか若干心配ですが、来年も本誌を購入してその動向を追いかけていきたいと思います。
(早乙女ぐりこ)

最終更新:2012/12/21 19:02
『日経ウーマン』
ときめき疲れを起こしそう
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