[連載]ギャングスタのスターたち

ギャングスタ・ラップの父として、バッシングと戦ったアイス-T

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アイス-Tと現妻のココ

――アメリカにおけるHIPHOP、特にギャングスタ・ラップは音楽という表現行為だけではなく、出自や格差を乗り越え成功を手に入れるための“ツール”という側面もある。彼らは何と闘い、何を手に入れたのか。闘いの歴史を振り返る!

【今回のレジェンド】
ギャングスタ・ラップの父
アイス-T

[生い立ち]
 アイス-Tは、1958年2月16日、本名トレイシー・マロウとして、ニュージャージー州ニューアークに生まれた。アフリカ系アメリカ人の父とフランス人混血クレオールの母親に愛され何不自由なく暮らしていたが、8歳の時に、一緒にテレビを見ていた母親が心臓発作を起こし死亡。その5年後に父親もがんで他界し、13歳で孤児に。親戚中をたらい回しにされたアイスは、最終的にカリフォルニアに住むおばの元へ。だが、その伯母はアイスの児童手当が目当てで世話らしきことはほとんどしなかった。

 悪名高き地元の高校で、悪友からLAのストリートを仕切っていたギャングとハスラー(麻薬売人や売春の元締め)について教わったアイスは、「車、女、貴金属」にまみれた世界に夢中になる。ピンプ(ヒモ)の帝王と呼ばれたアイスバーグ・スリムの自伝小説『PIMP』を読み、深く感銘を受ける。「薬物売人、ギャングスター、殺人鬼、泥棒。誰だって一日の終わりにはセックスしたくなるだろう? ピンプはそのセックスを取り仕切ってんだ。ピンプは、地球の主。神に一番近い存在なんだぜ」と熱く語るアイスは、この頃から「アイス-T」と名乗り始め、髪形や服装、話し方もピンプっぽくするなど徹底。話す時はわざと同音異綴語にライムし、当時はまだ広まっていなかったラップを聴いているようだった、と同級生たちは語っている。

 17歳で伯母の元から法的に自立したアイスは、月100ドルのアパートで彼女と暮らすようになり、彼女はすぐに妊娠し出産。18歳で父親になったアイスは家族を養うため、学歴を問わない陸軍に入隊した。ちょうどニューヨークでブレイクし始めたHipHopを聞いたアイスは、「ライムしてるオレならラップは楽勝」と、81年に名誉除隊。すぐにラッパーとして活動するつもりだったという。しかし、LAの空港で待ち構えていた悪友たちから「オレたちの宝石泥棒ギャングに入れ」と勧められ、あっさり了解。養育費は絶対に払うと約束した上で彼女と別れ、日夜問わず高級貴金属のみを狙う泥棒生活を送るようになった。ストリートから一目置かれる存在となったアイスは83年、念願のピンプに。スーツを着て髪にはパーマをかけてマニキュアをし、どこから見てもピンプとわかるスタイルで娼婦たちを取りまとめ、街を闊歩するようになった。

[キャリア初期]

 パーマをかけるため繰り出した美容院で、女の子相手にライムをしていたところ、男性客から「それで金儲けしないか」と話をもちかけられる。こうして83年の終わりにはレコーディングした『Cold as Ice』などを引っ提げ、クラブなどでパフォーマンスを行うように。彼のステージを見て気に入ったプロデューサーから低予算映画『ブレイクダンス』(84)のサントラと出演オファーをされた時、最初は「出演? 日当500ドルで。やってらんねえよ。オレはプレイヤーなんだ」と拒否していたが、アイスの罪をかぶり刑務所送りになった高校時代の悪友から「こんな生活は長くは続かねぇ。捕まる前に手を引けよ」とアドバイスされ、最終的には出演を了承。しかし、ピンプ業からは足を洗うことはできずにいた。

 85年、そんなアイスに大きな転機が訪れる。居眠り運転で事故を起こし、意識不明の重体になってしまったのだ。歩けなくなるかもしれないと言われ、3カ月間にもわたる入院生活を強いられたアイスだったが、見舞う者はゼロだった。「こんな人間のまま死にたくない」と思ったアイスは退院後にピンプ稼業から足を洗い、まともな生活を送る決心をする。1カ月後、ダーリーン・オルティスという女性と恋に落ち、同棲を開始。彼女はデスクワークをすることで生活費を稼ぎ、アイスは音楽のキャリアを積み上げることに必死になった。

 86年、サイアー・レコードと契約を結び、87年にはメジャーデビューアルバム『Rhyme Pays』をリリースする。しかし、ギャングスター・ラップはあまりにも内容が過激だとして、全米レコード協会から「未成年者にふさわしくない音楽作品」第一号に認定されてしまった。翌年リリースしたセカンドアルバム『Power』では「ギャングはカッコよく思えるかもしれないが、最終的には刑務所入りするか殺されるかだ」と、若い世代に警告を発した。ギャングになれと勧めていたわけではないのである。

 そんなアイスが世間から最初に注目されたのは、88年の暮れのこと。ロサンゼルスのギャング対警官、そしてギャングの抗争を描いた映画『カラーズ 天使の消えた街』の主題歌を手掛け評価された。「ギャングになんて入るんじゃねぇぞ。オレを見てみろ。見やがれ!」というキメのライムで、アイスは全米からギャングスタ・ラッパーだと認知されるようになった。その後メルヴィン・ヴァン・ピーブルズ監督に気に入られ、薬物売人としてのし上がっていく男を描いた『ニュー・ジャック・シティ』(90)に覆面刑事役として出演。彼の演技力は映画評論家たちから大絶賛された。

[バッシング・評価]

 世に出た頃は好意的だった彼への評価は、すぐに厳しいものとなる。Run-DMCがエアロスミス、パブリック・エナミーがアンスラックスとコラボし成功したこの時期、アイスは黒人初といっても過言ではないへヴィメタルバンド「BODY COUNT」を結成し、同名のアルバムをリリース。幼少時代から憤りを感じていた人種差別、LAのストリートで目の当たりにした横柄で暴力的な警察官に対して怒りをぶつけた曲を収録した。このアルバムはロック好きな白人に支持され、たちまちヒットした。しかし、その中の『Cop Killer』(警官殺し)という曲が、いわゆるロス暴動を引き起こす要因の1一つになったと非難されるように。

 アイス叩きは92年アメリカ合衆国大統領選挙でも論点になり、共和党副大統領候補ダン・クエールは容赦なくバッシングした。サイアー・レコードの親会社ワーナーブラザーズ・レコードもターゲットにされたが、「アーティストの表現の自由を守る」とアイスを擁護。しかし、大統領だったジョージ・H・W・ブッシュまでアイスを非難し、アイスは自ら『Cop Killer』をアルバムから外すことで問題の決着をつけた。

 だがアイスは、5thラップ・アルバム『Home Invasion』でも警察に対す怒りの声をぶつけた。ワーナーは問題視されるような箇所はないかとアルバムを必死に検閲。実は、『Cop Killer』騒動のおかげで、アイスだけでなくアイス・キューブなどギャングスタ・ラッパーたちもバッシングを受けていたのだ。問題が大きすぎてワーナーもアイスをかばい続けられなくなり、その様子に落胆したアイスは93年2月、サイアー・レコードとの契約を自ら打ち切った。そして、自分のレーベルを立ち上げ、『Home Invasion』をリリースする。

[成功への道]

 レコード会社という大きな後ろ盾を失ったアイスは、ダーリーンと彼女が産んでくれた息子を養うため、どんな仕事でも引き受けた。そのことが却って、アイスをメジャーシーンに押し上げた。ネームバリューのあるアイスは俳優として引っ張りだこで、『トレスパス』(92)などのヒット作だけでなく、低予算映画にも出演。礼儀も仁義もあるアイスはハリウッド業界から気に入られ、90年代半ばには硬派な役を演じさせたら右に出る者はいないと評価されるほどの俳優に成長した。米3大ネットワークの「NBC」は、アイス主演のドラマ『Player』を制作。2000年からは大ヒット・クライムサスペンス『LAW&ORDER:性犯罪特捜班』に刑事フィンとしてレギュラー出演。このドラマは現在も続いており、アイスは番組に欠かせない存在となっている。

 96年には、牧師であるドン・マジック・ジュアンが取り仕切る、アメリカ最大のピンプ組織「フェイマス・プレイヤー・インターナショナル」から、「真のハッスラー、生れながらのギャングスタだ」と功労賞が授与された。その数、「ギャングスタ・ラップの生みの親」「バッシングに屈せず、デビュー当時からぶれることのないメッセージを発し続ける真のアーティスト」として、ハーバード、スタンフォード、ニューヨーク大学から講演依頼されるように。ストリートで生きる者たちが抱える問題について熱く語り、『ICE Opinion』という本も執筆。ストリート哲学を披露した。

 ダーリーンとはアイスの浮気騒動を経て、00年に破局。01年には水着モデルのココと交際を始め、すぐに結婚。「ココはオレが初めて付き合った白人」だが、2人は仲睦まじく、昨年はリアリティ番組『Ice Loves Coco』が放送され話題となった。

 「将来はピンプになる」と言う幼い息子を、目を細めて満足げに見ていたアイス。ギャングスタ・ラップという新しい道を開いた彼は、「オレはゲットー(貧困層が多い移民系密集居住地区)に住む子どもたちに白人の暮らしがどんなもんかを見せてやってるんだ。リッチな白人たちには、ゲットーの子どもたちがどんなもんかを見せてやる。それがオレの仕事さ」と自身の成功の意味を分析している。

アガリが俳優って、グラドルみたいな……

しぃちゃん

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