[女性誌速攻レビュー]「婦人公論」11月22日号

自分探しより墓探しをしろ!? 「婦人公論」が説く“理想の最期”とは

2012/11/20 16:00
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「婦人公論」11月22日号/中央公論新社

 今号の「婦人公論」(中央公論新社)の特集は、「40代から向き合う『理想の最期』」です。筆者はもうすぐ40歳。理想の生き方すらなんだかよくわからないのに、早くも理想の最期と向き合わねばならないということにどんよりしました。もう時間切れってこと!? 確かに誰でも、いつ死ぬかはわかりませんし、幸い平均寿命まで生き長らえたとしても、すでに折り返し地点ですから、いつまでも自分探しなんかしてないで、墓探しをしろよということなんですよねぇ。ああ、そういえば墓穴はいつも掘っているのに、墓がない。

 しかしですねぇ~、最近の「婦人公論」の流れはどうなんですか。前号の特集は「不安な時代だから働き続けたいあなたへ」で、中高年の就職難の現実を容赦なく知らしめました。その前の号の特集は、「大人になった娘が苦しむ 母の呪縛を逃れたい」でドロドロの母娘関係を取り上げ、その2カ月前には「親の老いは待ってくれない」で介護問題に迫り、その1カ月前には「うつな気分に負けない生き方」です。暗い、暗いよ! 生きるのが辛すぎるよ!! そうなんです、「婦人公論」センパイは、いつも暗くてまじめで、そしてとってもエロくて、ジャニーズ好き(今号は嵐のコンサートルポあり)。なんだか人生の味方は「婦人公論」だけのような気がします。頼りにしてるよ~。

<トピック>
◎特集 40代から向き合う「理想の最期」
◎嵐 渡辺えりさんが熱狂空間を初体験!
◎火野正平 “元祖プレイボーイ”が語るかっこいい男の枯れ方

■自分らしい死を選びたいという欲望

 特集は、辛酸なめ子さんをはじめ、さまざまな著名人が“理想の最期”について語っているほか、エッセイストの酒井順子と医師の中村仁一による対談「『ポックリ』と『自然死』、どちらが楽ですか?」や、葬儀ライター(という肩書きの方がいらっしゃるんですね!)による「お金をかけない葬儀のテクニックあります」、ルポ「親にすんなりと遺言書を書いてもらうには」など実用的な記事も掲載されています。自分の死だけでなく、親の死にも役立つ内容です。

 酒井順子は、医師との対談で「独り身であるからこそ、自分向きの死を選ぶことができそうで、安心して最期を迎えられる気がしてきました」とコメントしていました。別の「『おひとり死』の準備は元気なうちにはじめる」という記事では、「死ぬぎりぎり直前まで、自分らしく幸福に生きていけるように、今からできることをはじめましょう」と唱っていました。はたまた読者体験記では、8年前に乳がんの手術を受けた女性(50歳)が、「私はできるだけ自分が納得できる形で最期を迎えたい」と綴っていました。これら「自分向きの死を選ぶ」「死ぬ直前まで自分らしく」「自分が納得できる最期」は、本特集のキーワードだと思われます。

 振り返ってみれば、私たちは女性誌を読んで自分に似合うファッションを模索し、自分に合ったオトコを捕まえようと策を講じ、自分が納得できる子育てを目指し、自分らしく生きるオンナを夢見てきました。当然ながら人生は女性誌のように単純明快ではありませんし、順調にもいきません。妥協と後悔とその中のささやかな満足の上に今がある……と思うんです。生きてる時ですらそんな調子なのに、いつやってくるかわからない死において理想など叶えられるものなのか、叶えたところで誰が満足するの? という気がするんですが、女の生き方にいつも真剣で権利意識と自己主張の強い「婦人公論」においては、死も“自分らしく欲”の対象となっているわけです。死んでも軽んじられたくない。死んでも輝きたい。死んでも自分が死ぬほど大好きなんです!

 そんな中、異質だったのは、妻が統合失調症で息子は学習障害、自身はがんで余命半年と宣言されたブロガー・相河ラズのインタビュー。「うまく言えないけど、『生きている』というより『生かされて』いる感じがするんですよ」という言葉に衝撃を受けました。余命半年宣告から2年。「生かされている」、その言葉の意味を深く考えたいと思います。

■14歳で人生を狂わされた少女

「なんで二股くらいでモメるんや。二股で泣くくらいやったら、俺どんだけ泣かなあかんねん」と塩谷瞬騒動をチクリと刺し、「チャールズ・ブコウスキーが理想の男」と語る“元祖プレイボーイ”火野正平インタビューもおもしろいのですが、ここではスルーさせていただき、元競泳選手の岩崎恭子を追ったルポ「幸せの意味を探し続けて」をご紹介したいと思います。

 岩崎は、92年のバルセロナ五輪競泳女子200メートルで、当時無名ながら金メダルを獲得しました。「今まで生きてきた中で、一番幸せです」という言葉、何度も何度も放送されましたよね。その彼女の後日談をご存知でしょうか。その後、彼女を取り巻く環境は一変し、見知らぬ人から電話がかかってきたり、「思い上がるな」と罵られたり、ストーカーに悩まされたり、学校に取材陣が押し掛けたそうです。

「親や学校の先生、友達など身近な人たちに迷惑をかけてしまっているのは、私があの言葉をいったからだと思い悩んだんです。金メダルなんて獲らなきゃよかったって」

 14歳、思春期まっただ中の平凡な少女が、世界一の栄誉を受け、人生で一番の幸せを味わい、そして次の瞬間、選手生命を危うくするほどの精神的苦痛を受け、人生で一番のどん底に突き落とされました。生きることは本当にままならないもの。がんばった結果がこんなことになるとは、誰ひとりとして予期していなかったと思います。岩崎は当時の記憶をなくすほど苦しみ、しかし自分の力で地の底から脱し、成長し、自分の幸福を見つけました。その過程が丁寧に描かれています。

 自分らしく生き、自分らしく死にたい。そう願うのは自由ですが、願ったところで叶うものではありません。願ってるヒマがあったら、ほかにもっとすることがありそうだ、そんなことを考えさせられるルポでした。墓探しにはまだ早い、かも!?
(亀井百合子)

最終更新:2012/12/20 17:42
『婦人公論』
求めれば求めるほど遠のく自分……
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