[連載]海外ドラマの向こうガワ

肥満人口の増加が価値観の逆転をもたらした、『私はラブ・リーガル』

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『私はラブ・リーガル DROP DEAD Di
va シーズン1 DVD-BOX』(エスピー
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――海外生活20年以上、見てきたドラマは数知れず。そんな本物の海外ドラマジャンキーが新旧さまざまな作品のディテールから文化論をひきずり出す!

 「大人の3人に1人が肥満」だと言われるアメリカ。肥満は深刻な問題になっており、米疾病対策センター(CDC)は何十年も前から警鐘を鳴らし続けているが、肥満人口は増える一方である。成人の68%がBMI25以上(160cmで64kg以上)、33.8%がBMI30以上(160cmで77kg以上)、5.7%がBMI40以上(160cmで103kg以上)であり、このままだと医療費の負担額も増え続けると専門家たちは警告している。

 そんなアメリカでは「肥満退治」を掲げたリアリティ番組が大人気。厳しい減量キャンプでトレーニングを受け、誰が一番痩せたかを競う『The Biggest Loser』、90kg以上の超肥満体の人を集めて「健康のため」の減量をさせる『Extreme Makeover: Weight Loss Edition』、踊りながら減量していく『Dance Your Ass Off』など、たくさんの汗と涙を流しながら減量に励み、「私ができたのだから、みんなも絶対にできる」と呼びかける番組を見て、みんな「本気を出せばできる」と安心するのだろう。

 アメリカ人に肥満が多い原因は、高カロリーなジャンクフードに代表される食生活と、車社会といった運動不足な環境にあるとされている。現代社会ではストレスから食生活が乱れるというパターンも多く、テレビドラマ/コメディにも食生活が乱れた主役が登場する。バリキャリ女刑事の活躍を描いた『クローザー』ではスイーツ中毒の主人公が夜な夜なチョコなどをむさぼるシーンが流れ、女性脚本家が主人公の『30 ROCK』でもジャンクフードやファストフードばかり食べる姿が流れる。そんな姿を見て共感する視聴者がとても多いそうだが、演じる女優は揃いもそろって痩せており、肥満体ではない。

 肥満を差別してはいけない、肥満を笑い者にしてはいない、というアメリカだが、肥満体の役者が主役のテレビ番組は決まってコメディ。しかも、観客の笑い声が入るシットコムである。古くは『ロザンヌ』、今では肥満体の2人の恋愛物語を面白おかしく描いた『Mike&Molly』。『アグリー・ベティ』はシットコムではなかったが、「デブでダサい女を笑いのターゲットにした」作品であることには変わりなかった。

 2009年7月、肥満の人たちが卑屈にならずに視聴できるコメディが、やっとテレビに登場した。「ごく普通の身近にいるような」肥満体女性が主人公の、「デブを笑い者にしない」作品。恋愛、法廷ドラマとしても楽しめる『私はラブ・リーガル』である。

 物語の主人公は、ブロンドヘアーの若きモデルのデビー。携帯で話し、マニキュアを塗りながら運転していたため交通事故を起こし死んでしまうのだが、天国で悪あがきをして、この世に戻ってくる。しかし彼女の魂が入ったのは、同じ瞬間に心拍停止になった女弁護士ジェーンの体。脳はジェーンのため、デビーは、ジェーンの記憶も弁護士としての有能な頭脳も持つことになった。生き返り喜ぶデビーだが、ジェーンはでっぷりとした体形に超地味な顔。モデルだったデビーとはかけ離れていて、ドン引きしてしまう。しかし、デビーは守護天使のアドバイスのもと、ジェーンとして生きることを決意する。そして、ジェーンの頭脳とデビーの愛嬌たっぷりのポジティブ思考で、新しい人生を歩み出し、数々の難しい法廷案件を解決へと導くようになる。

 体と魂が入れ替わるというコンセプトの作品は、これまでにも制作されてきた。リンジー・ローハンが子役から女優へと脱皮した“母と娘が入れ替わる”映画『フォーチュン・クッキー』(03)、人気コメディアン、ロブ・シュナイダー主演の“女子高生と中年強盗男が入れ替わる”『ホット・チック』(02)など。しかし、『私はラブ・リーガル』ではジェーンの魂は成仏済みで、デビーの体も埋葬されてしまっており、どう頑張っても元には戻れない。モデル体形に憧れてはいるものの肥満体から抜け出せないという現実を抱えているアメリカ人女性は多く、この番組は、そんな彼女たちの共感をたちまち得た。

 また、この作品は「自分に自信を持ち、明るい性格であることが、どれほどプラスになるのか」も教えてくれた。ジェーンが生きていた頃は、いかにも自己評価が低そうな暗い雰囲気を漂わせていたのだが、中身がデビーになった途端に表情が生き生きと輝き出すのだ。周囲は「事故の記憶喪失からくる変化」だと戸惑うのだが、ジェーンの評判は次第に上がっていく。女性は美貌と頭脳明晰を同時に持つことはできないということを主張しているようだという声もあるが、逆に、頭脳明晰に自信と明るい性格をプラスしたら、中身の薄い美人よりも何倍も魅力的になることが証明されたと捉える声も多い。デビーがジェーンの体でも彼女らしく振る舞う姿は一歩間違うと滑稽になってしまいがちだが、実際に見てみると違和感はない。男性の女性に対する「中身重視か、それとも外見重視なのか」という本音もはっきりと見え、本格的なラブストーリーとしても楽しめるのである。

 毎回興味深い案件を扱うこの作品は、法律ドラマとしても見応えがある。特に女性が興味を持つようなケースが多く、コメディではなく法律ドラマとして楽しめる。元検事で現在はコメンテーターとして活躍しているナンシー・アン・グレースがゲストとして登場したこともあり、「ナンシーが出ることを了承するほど本格的なリーガルドラマだったとは」と驚いたファンもいた。コメディを超える本格的な法律ドラマとしても楽しめるのである。

 邦題は、ラブ(恋愛)、リーガル(法律)、ラブリーガール(ラブリーな女子)と掛け合わせた『私はラブ・リーガル』だが、原題は、急にぽっくり逝く、くたばれ、死ぬほど凄い、という意味のDrop Deadと、女王さまという意味のディーヴァを合わせた『Drop Dead Diva』である。この番組の最大のデイーヴァはもちろんデビーが中身のジェーンなのだが、デイーヴァの名にふさわしいライザ・ミネリ、シビル・シェパード、セリーナ・ウィリアムズ、キム・カーダシアンら豪華ゲストも数多く登場する。ゲストとジェーンのやり取りも興味深く、見どころである。

 最後に、この作品を盛り上げるデビー/ジェーン役のブルック・エリオット、そして、彼女のアシスタント役を演じるマーガレット・チョーをご紹介したい。ブルックは舞台女優としてキャリアを積み、ブロードウェイでは知られた存在。幅のある演技力と歌唱力が高く評価されている。この番組製作総指揮はミュージカル映画『シカゴ』『ヘアスプレー』のプロデューサー、ニール・メロン。彼はジェーンの才能を最大限に引き出すため、夢のシーンなどで彼女を歌わせ、ミュージカルさながらのシーンが時おり登場する。最近、アメリカでのテレビ界では『Glee』などミュージカル・ドラマが大人気なのだが、『私はラブ・リーガル』でも本格的なミュージカルが楽しめるといううれしい一面があるのだ。

 なお、ブルックは「自分がプラスサイズの肥満女優とは思っていない。アメリカ人女性の大半は私と似たような体形だし、体重も同じくらいだから。だからこそ『私はラブ・リーガル』に出ようと思ったの」とにこやかに語っており、彼女と同じサイズの女優たちの希望の星となっている。

 アシスタントのテリー役を演じるマーガレット・チョーは、韓国系アメリカ人のコメディエンヌ。歯に衣着せないトークで人気を集めている。両肩や両太ももにカラフルなタトゥーを彫っており、男性と結婚しているがバイセクシュアルだと公言。差別のない世の中を目指し活動している、近代的な思想を持つ女性だ。クエンティン・タランティーノを夢中にさせたマーガレットの表情豊かな演技にも、ぐいぐい惹かれること、間違いないだろう。

 肥満である自分のありのままの姿を受け入れ生き生きと活躍する主人公に、アメリカ中が魅了された『私はラブ・リーガル』。肥満は社会問題ではあるが、決して恥じるべきものではないという強いメッセージを、この作品は発し続けている。

堀川 樹里(ほりかわ・じゅり)
6歳で『空飛ぶ鉄腕美女ワンダーウーマン』にハマった筋金入りの海外ドラマ・ジャンキー。現在、フリーランスライターとして、海外ドラマを中心に海外エンターテイメントに関する記事を公式サイトや雑誌等で執筆、翻訳。海外在住歴20年以上、豪州→中東→東南アジア→米国を経て現在台湾在住。

私、アメリカ基準で言ったらガリだわ!

しぃちゃん

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