[連載]そうだソルティー京都、行こう

あの伝統工芸が特攻隊服風に? 現代での迷走を隠しきれない西陣織会館

2012/11/22 21:00

 京都は、世界屈指の観光地。そして女の憧れの地である。美味いもん食って、寺社を見て、お洒落して、勉強する。何でもかんでも「京都でする」のが女の憧れなのだ。女性誌はこぞって京都特集を組み、ガイド本や京都観光エッセイがボロボロ出版されている。確かに京都には歴史がある。名産品がある。美味がある……そして誰も取り上げないけれど「しょっぱい京都」もある。

 しかし京都のほんとうの魅力は、こういうソルティーなところにあるのだ。上品ぶっている女性誌では取り上げないほんとうの京都の姿を、しっかり焼き付けて欲しい。そうだソルティー京都、行こう。

【第13回 西陣織会館】

 この連載「ソルティー京都」の初回記事は、松尾大社だったのだが、皆さんは読んでいただけただろうか。

 この神社はものすごく格式が高いのに、ご近所に「松尾さん」などと気軽に呼ばれ、一般市民に迎合しきってしまっている。ゆえにその格の高さが、調べてみないとまったくわからないという切ない神社である。

 そもそも京都にあるものは、「格の高さレベル」が他府県とは違うようである。京都で「先の戦争」というと応仁の乱(1467~1477だってよ)のことらしいし、仏像なんかも1000年以上歴史がないと重宝されないとのこと(と、某お寺の尼さんが言ってた)。

 ここに、松尾大社に負けず劣らず、っていうか松尾大社が赤子に思える「実は」系の観光地がある。「西陣織会館」である。

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 この西陣織会館、フツーに「京都観光に行こう」と思ったら、用のないところかもしれない。しかし、ある種の団体には大人気の場所なのだ。

 西陣織といえば、和装をする者にとっては憧れのブランドだ。着物は、「着付けるのが大変」なのではなく、「綺麗に着るのが大変」なのである。で、これまた良くしたことに、高い着物は、生地が薄かったりしなやかだったりで、綺麗に着られるようにできているのだ。ちょっと着付けを習い始めると、着物の種類やら習わされるし、たいていの人間は、いい着物がほしくなってくる。

 そんな中、着物の展示会なんかに行って「うわぁ、ステキこの着物……でも、お高いんでしょう?」と思って札を見ると、ホントにお高くて想像の10倍の値段がついている……そんな着物が、織の最高峰・西陣織なのである。

 ブランドの品質を保つため、それはそれは厳しいチェックを経て、初めて、「西陣織」の表記の許可が降りる。ほんの小さなほころびひとつ、西陣織の製品には許されないのである(西陣織アウトレット店の受け売り)。

 という予備知識を得てこの西陣織会館に行ってみよう。ここでは、どんなお高い最高峰織りの数々が見られるのか。財布さえ持っていかなければいい! さあ見てみようじゃないか。

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外観は普通のビルです。

 1階はイベントホールなので、ショーが始まってから見るとして、まずは2階に上がろう。ここでは、気軽に西陣織が購入できる。

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ん……?

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これは……?

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花の……あすか組??

 2階の広いホールすべてに充ち満ちた、この昭和なお土産屋さんムード。あの高貴な西陣織が、なぜネクタイに? なぜ婦人帽に? ……なぜ昇り龍に!?

 しかし、大人ならばすぐに事情は想像できる。日本人が普段和装をしなくなってから何十年が経つだろうか。縁遠くなった和服について、舞い込んでくる話は「悪徳商法被害」だったりする。「高い着物を買わされた」「金額ほどの価値のない着物だった」「着物を買わされ続けてカード破産」なんてワイドショーで騒がれたりもした。

 バブル期には、若者の着物離れをどうにかしようと、中森明菜が『DESIRE』で和服アレンジ衣装を着たのをいいことに、「裾が丸い着物」とか「ボディコン着物」などをせっせと作ってアピールしてみたり、着物にハイヒール合わせましょうとか和洋折衷を提案してみた時代もあった。

 近年、ようやく浴衣ブームがやって来たけど、大人になってまで兵児帯しちゃったり、浴衣だっつうのに派手な半襟付けたり、レースやフリル付きの浴衣を作ってみたりと、和装業界の現代人に向けた迷走っぷりは、いまだに続いている。夏になると、汚ねえ着付けでお洒落したつもりになって、堂々と歩いてる女子たちを見かけるけど、思わずお端折り引っ張ってやりたくなるね。

 というわけで、この西陣織会館2階は、「うちは高級な着物を買わせたりしませんよう」「ほらほら、これは反物をアレンジした洋装なんですよ」と、観光客にすり寄った結果なのである。着物リフォームして洋装ってのも、昭和時代のブームっぽいけどね。

 「道の駅」のお土産ショップに来たかのような、普遍の昭和ムードを感じつつ見て回っていると、そのうち1階できものショーが始まる。これが、表の看板にもあった、あの……!

 ガッチリ和装をしたモデルさんたちが、ステージでその美しい姿を惜しみなく見せてくれる。次々と現れる和装美女たちに、観光客たちは釘付けだ。これぞ日本文化の集大成!

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ところでこのショー、ナレーションがひとつもない。ただ、和風な感じに
アレンジされたBGMに乗って、モデルが歩くだけである。

 説明過多な長健寺までとは言わなくても、なんかもうちょっと、着物について教えてくれてもいいんじゃないだろうか。

 着物は柄や素材でカジュアルなのか正装なのかが決まっていたり、ほら、着物の柄には吉兆を表すものがあったりとか、いろいろわかれば楽しいことがあるじゃない。ショーをやって「着物アピール」をするのなら、ここで着物の奥深さを紹介しないでどこでするの。2階の道の駅土産コーナーは、あすか組になっちゃってるしさ。

 とはいうものの、もしかしたらこれは、開催者側のジレンマでもあるのかもしれない。なんか、大挙して観光客がやって来たと思ったら、中国からのツアー客だったのだ。そりゃ、今さら吉兆文様だのなんだのを紹介してもねえ、日本語で。

 というわけで、ちらっと行っただけでは、西陣織のすばらしさがまったくわからない。こちらにすり寄って来ているようだけど「そこじゃない」って感じの会館なのでした。

 ちなみに、近所のお店には、こんな看板が。

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前オリンピックでの高橋大輔の衣装は、西陣織だったらしい。

 こっちの看板の方がよっぽど「西陣織すげえ!」って思うんだけど……。

和久井香菜子(わくい・かなこ)
ライター・イラストレーター。女性向けのコラムやエッセイを得意とする一方で、ネットゲーム『養殖中華屋さん』の企画をはじめ、就職系やテニス雑誌、ビジネス本まで、幅広いジャンルで活躍中。 『少女マンガで読み解く 乙女心のツボ』(カンゼン)が好評発売中。

最終更新:2019/05/21 18:37
『花のあすか組!』/祥伝社
奴ら、和柄好きだからね~
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