講演「雑誌『オリーブ』をめぐって ~「雑誌の時代」と少女カルチャー~」

今なお愛される雑誌「オリーブ」が志向した、“かわいい”と“少女性”の強さ

2012/09/22 19:00
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Photo by jetalone from Flickr

「トレンドに流される事なく自分の気持ちや環境に応じて行動するようになったのも『オリーブ』の影響かも。言葉にすると難しいけれど、『オリーブ』は私のバイブルです」
「女の子が男の真似をしなくても、女の子らしく独自の道を切り開いてもいい、という絶対的な肯定感を『オリーブ』からもらった」
(元読者へのアンケート、金沢21世紀美術館「Olive 1982-2003 雑誌『オリーブ』のクリエイティビティ」展、2012年1月実施)

 1980~90年代の少女たちに多大な影響を与えた雑誌「オリーブ」(マガジンハウス)が休刊して約10年。かつて「オリーブ少女」と呼ばれた愛読者たちは、大人になった今もなお、その精神が自分の中に宿っていることを感じている。「オリーブ」の魅力を振り返る「Olive 1982-2003 雑誌『オリーブ』のクリエイティビティ」展(2012年2月25日~7月1日開催)を企画した金沢21世紀美術館キュレーターの高橋律子さんも、「私の感性はオリーブでできている」と語る元オリーブ少女だ。公立美術館が、私企業の1つの雑誌をテーマにすることはあまり例がないが、高橋さんの熱意によって実現した。その高橋さんによる講演「雑誌『オリーブ』をめぐって ~「雑誌の時代」と少女カルチャー~」が9月17日、東京・原宿にあるVACANTで開かれた。会場には、元オリーブ少女だけでなく、男性や「オリーブ」を知らない若い女性も多く見られた。


 高橋さんは、もともと大正ロマンを代表する画家、竹久夢二の研究者である。夢二が挿絵を手がけた雑誌が、当時の少女たちにどんな影響を与えたかを考察し、その方法論を用いて「オリーブ」の研究を始めた。

 トークイベントで、まず高橋さんは、“かわいい”という語を解説。70年代前半までの“かわいい”は内面的なロマンティック志向だったが、70年代後半以降は愛らしさを志向する子ども的な“キュート”に移行したという。やがて“かわいい”は、その価値観を共有することを目的とする、少女たちの“コミュニュケーションツール”となった。そんな中、1982年に「オリーブ」が創刊された。関係者のインタビューから、「オリーブ」の編集方針も“かわいい”であり、特集の中に「かわいい」という単語が100個以上も散りばめられていたエピソードが紹介された。

「『オリーブ』は、1983年から“Magazine for Romantic Girls”をキャッチフレーズに掲げ、“キュート”全盛時代に逆行して“ロマンティック”に回帰しました。そして、“かわいい”を“か弱いもの”から“かわいくて強いもの”に再定義しています。読み取れるキーワードは、ピュア、シンプル、私らしくあること。かわいくあるためには強さが必要であり、ピュアであるためにはシンプルかつ自分らしくあらねばならない、ということを伝えていたのだと思います」(高橋さん)

 かわいさと強さの共存は、特集タイトル「リセエンヌには負けないよ」「誰にも似てない私になる」などに象徴されると語る。かわいさとは、他者に評価されるものではなく、自分の個性でもって自分が判断するものだという確固とした意識が感じられる。ちなみに、「リセエンヌ」はパリの公立学校の女生徒のことだが、「オリーブ」誌上では「要はチープシック」と説明している。

「安いものを工夫して自分のものにすることが大切だということです。ピクニックに行って紙袋や紙コップを帽子にするなど、ちょっと真似できないものもあるんですが、ファッションはクリエイションであると教えてくれました」(高橋さん)

 90年代に入り、遠山こずえ編集長(5代目)になると、表紙から「Magazine for Romantic Girls」のキャッチフレーズが消え、「精神世界の特集」「石の特集」といった特集を組むなどカルチャー路線へと舵を切った。だが、前述のオリーブ的「かわいい」は継承され、「1990年の、ハルキ・スタイル」「自分を見つける本の旅 太宰治と三島由紀夫のすすめ」などファッションと文学、映画、音楽などを連動させる斬新な企画が打ち出された。

「『オリーブ』のファッションページは、カタログ的な商品紹介ではなく、ひとつのヴィジュアル作品を作り上げていました。さらに、そこには単なる商品説明ではない強い言葉がありました。文体はやわらかくポエム的でありながら、内容は芯が強い」(高橋さん)

 高橋さんは、オリーブ的な強さを感じさせる文章の例として、編集者の三浦恵さんが書いた「新しい出発、プロケッズのスニーカーで。」というタイアップページを引用。

このスニーカーがあれば、
何も怖くはない。不安もない。
この先にどんな“事件”が、
いくつ待ち構えていようと。
もう一回ひもをぎゅっとしばって
歩こう、先に進もうと思える。
そんなスニーカーと同じ存在を
ずっと心の中に持っていたい。
(後略)

 一般的にタイアップページは、クライアントを慮って無難な商品紹介に陥りがちだが、こうした思い切ったテキストを付けられるのは、“かわいくて、強い”というオリーブの精神が編集部内で徹底しており、ページの隅々まで貫かれ、関係者を納得させる力を持っていたということである。「オリーブ」はそのコンテンツだけでなく、編集方針や存在そのものでもって、ピュアで強くあることを体現したのである。

「『オリーブ』が教えてくれた、ピュアであり強くあるという少女性は、失ってはいけないものだと感じています。それは今の時代とは逆行しているかもしれないけれど、あえて次世代へのメッセージとして伝えてもいいのではないでしょうか」(高橋さん)

 情報もファッションもカルチャーも、そして“少女”という時代さえも一過性のものとして次々に消費されていく時代。「オリーブ」がない時代の少女たちは何を見て何を思い、どこへ消えてゆくのだろうか。
(安楽由紀子)

最終更新:2013/04/04 00:22
『olive特別編集 オリーブ少女の雑貨感覚。』
カルチャー路線は「GINZA」が継承
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