[女性誌速攻レビュー]「STORY」10月号

初婚活から初産まで「STORY」のアラフォー“初めて”企画のリアルとズレ

2012/09/06 21:00
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「STORY」2012年10月号(光文社)

 林真理子先生渾身のファースト写真集『美女入門スペシャル 桃栗三年美女三十年』(マガジンハウス)が、ついに発売となりました。マリコハヤシ史上最高の仕上がりということですので、ファンもアンチも一見の価値ありそうです(案の定amazonレビューは荒れておりましたが)。

 連載「出好き、ネコ好き、私好き」でも、全身全霊で宣伝されています。「『ハヤシさん、年をとってからキレイになったのはなぜですか』私は平然と答える。『やっと内面の美が外に出てきたっていうことじゃないでしょうか』」などなど、センセイ一流の一発ギャグをかましておりました。その後、言い訳するように「内面の美はすなわち“個性”」などと解説されていましたが、正直センセイから、そんな「もーともーと特別なオンリ~ワ~ン」みたいなしゃらくせえフレーズは聞きたくないですね。センセイの美は自己都合というか、要するに相対的な価値観の産物なのですから、「金と労力と優秀なスタッフと激しい思い込みで手に入れた勝利の証」とかなんとか目の覚めるような暴論をぶちかまして欲しかったです。何はともあれ、勝間和代さんの『結局、女はキレイが勝ち』(同)と共に、本棚に並べておこうと思います!

<トピックス>
◎大特集 “ゆる・楽・きちん”働く服が、40代みんなの正解だ!
◎実録!40代の初婚活ファッション“成功”物語
◎私たちのCHALLENGE STORY 晩婚時代「40代で産む」のリアル

■「初婚活」という言葉の胡散臭さたるや……

 「FACE BOOK同窓会ファッション」や「エア恋心」など、最近の「STORY」はさり気なく攻めの企画をぶち込んできますが、今月はコレ「実録!40代の初婚活ファッション“成功”物語」。「婚活」じゃなくて「初婚活」ですよ。「はじめてのおつかい」ならぬ「はじめてのこんかつ」。この「はじめて」には「お付き合いした人はそれなりにいたけど、20代30代は仕事も趣味も充実してたから結婚願望とか特になくて~」という意味が込められているようです。

 この企画は、ロールプレイングゲーム風に「出会い編」「初めて二人で会う編」「好きになる前に編」「彼の友達に紹介される編」「プロポーズを決意させる編」「彼の実家にご挨拶編」とレベルが上がっていきます。それぞれのレベルでのファッションのポイントや注意点と共に、「成功者が語る必勝MEMO」というアドバイスが列記されています。近所のワインバーの常連となり、そこで出会った「最近外資系に転職した金融関係の彼。20代でバツイチになってから少々女性不信気味で仕事一色」という男性に出会うのが「出会い編」。「STORY」によれば、“行きつけ”が同じという連帯感は、紹介より結婚成就率が高いのだとか(マジですか)。さらに「研究所勤務、エンジニアなどいわゆる『サイエンス君』に将来の夫となる“ダイヤの原石”が残っているようです」と、おぼこい理系男を恐怖の淵に陥れていました。

 「初めて二人で会う編」では「等身大(金銭)感覚ペタンコ靴の休日ファッションでいざ出陣!」しろとか、「彼の友達に紹介される編」では「値踏みされることを受け入れ、逆手にとって気さくさ&現役感をアピール」しろとか、「プロポーズを決意させる編」では「オシャレイタリアンでデートのはずが転職先で失敗して失意の彼。“本音系”居酒屋に変更して見守ること」で、器のデカさをアピールし、プロポーズにこぎつけろとか、全体的に漂うのは“なんすかその上から目線”。そもそも今時、オシャレイタリアン→“本音系”居酒屋に変更することで器のデカさが見せつけられるなら、養老乃瀧がアラフォー女性であふれかえっているはず!

 あぁ、だから今まで独身だったのか……フィクションとはいえ、40代女性の「はじめての」婚活の裏には、アラフォー女性に対して寄せられる一般的な視点と自己評価への激しいズレがいくつも……。結局「デート2回目、キスもまだのうちから彼の実家に連れて行ってもらい、家族と仲良しに。半年後、彼のお母様が式場を予約してくれました(40歳/夫は3歳下の大学教員)」というような、ゲリラ作戦が最も効果的なのですね。

■キレイごとでは済まされないのが40代出産

 続きまして、アラフォー女性たちの“現在”を映し出す「私たちのCHALLENGE STORY」。先月号では、晩婚ママたちの余裕ある育児スタイルに迫っておりましたが、今月は「晩婚時代『40代で産む』のリアル」。晩婚ママたちが育児に深く思い入れ、余裕であろうとするのは、リスクとの戦いである「晩産」を乗り越えた故なのか。今回は特に40代初産の5人の女性をピックアップしています。

 厚生労働省調べの人口動態統計によると、10年前の2002年には40代で出産した人は1万5,000人程度。30歳以上の出産が「高齢出産」と言われていた1980年では、40代の出産は1万人弱だったのに対し、2011年には推計3万8,000人に。ここ4年で、3,000人ずつ増加しているのだそうです。さらに、2011年の第一子出産平均年齢は30.7歳と、初めて30代の大台に。まさに本格的な「晩産時代」。

 登場する女性たちは、ほとんど40歳を目前にして結婚。半ば妊娠は諦めていたものの運よく自然妊娠にこぎつけた人、不妊治療で貯蓄を使い果たした人、流産を繰り返す人……女性たちが出産するまでの道のりは本当に人それぞれ。共通しているのは、やはり「高齢出産のリスク」についてです。妊娠中毒症に悩まされたり、加齢で産道が硬くなるため自然分娩が難しく帝王切開を選択したり、羊水検査を受けるか否かで悩んだり。40歳で妊娠したものの、母体に危険が及ぶほどつわりが重く入院を余儀なくされたとある女性は、「医師から『この子は頸部浮腫があり、ダウン症の可能性がある。ダウン症児は20歳まで生きられないし、肢体不自由にもなる。あなたのためだから中絶しなさい』と、毎日毎日言われた」のだとか。しかし「42歳目前で、次の妊娠は望めない。障がい児は育てられる親を選んでやってくると言うし、私は選ばれたんだわ、この子を産んで育てたい」という前向きな気持ちで出産に臨んだそう。妊娠糖尿病で再入院した際に羊水検査を勧められ、陽性。しかし検査のお蔭で「出産の前日からNICU(編註:新生児特定集中治療室)には子どものベッドが用意されていましたし、出産後すぐに手術を受けることが出来ました」。この女性は羊水検査を「命を守るためにする検査」と考えたそうです。

 不妊治療を乗り越え、流産を乗り越え、障がいを乗り越え、強くしなやかに40代育児を楽しむ女性たち。そこには、一言のエクスキューズもありません。2度の流産の末、40歳で出産した作家・大田垣晴子さんの「40歳でダウン症の赤ちゃんを妊娠する確率は86分の1(ジェンザイム・ジャパン社「クアトロテスト―ダウン症候群の結果についてのご説明」による)。もし障がい児が生まれたときに、20年後、30年後まで責任を持って育てる自信がなかった」「夫の友人の奥さんが23歳で私と同時期に妊娠したのですが、(羊水)検査しますかとも、聞かれなかったそうです。若いっていいなとその時は思いましたね」という正直な言葉が胸を突く「40代出産のリアル」。自分のライフスタイルと、他者の命を預かる「出産」が自然な形で折り重なるのが、身体的には産み時を過ぎた40代という現実。40代初婚活特集での「寄り道してる暇はない!」というフレーズが、ここにきてずっしりきました。
(西澤千央)

最終更新:2012/09/07 02:17
『STORY』
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