[連載]海外ドラマの向こうガワ

“正反対な男女”という王道ストーリーと、メディアミックスで支持層を広げた『キャッスル』

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『キャッスル/ミステリー作家のNY事
件簿 シーズン1 COMPLETE BOX』(ウォ
ルト・ディズニー・ジャパン株式会社)

 アメリカでヒットすれば海外でも大ヒットすること間違いなしと言われている、クライム・サスペンス・ドラマ。近年は『Law&Order』『CSI:科学捜査班』『NCIS ~ネイビー犯罪捜査班』シリーズなど、チームで犯罪組織に挑む作品が主流となっており、スピンオフ作品も高視聴率を稼ぎ出している。このミステリー・クライムというジャンルの中で、不動の一番人気を誇るのは、何といっても「ミスマッチな男女が組んで、ケンカをしながらも力を合わせて犯罪を解決する」といった路線の作品だといえよう。

 5代目ジェームズ・ボンドとして知られるピアース・ブロスナンの出世作『探偵レミントン・スティール』(1982~87)、ブルース・ウィリスの出世作『こちらブルームーン探偵社』(1985~89)、突然“同棲説”が流れ出し、現在ゴシップの渦中にいるデイヴィッド・ドゥカヴニーとジリアン・アンダーソン主演の『X-ファイル』(1993~02)、イケメン俳優として人気を集めたデヴィッド・ボレアナズ主演の『BONES』(05~)。これらの作品のように、「ミスマッチな男女」が繰り広げるミステリー/クライム・サスペンスドラマは、アメリカ国内外で空前の大ヒットとなっているのだ。

 このジャンルが人気となる大きな理由に、「ミスマッチな男女による微妙な恋愛的駆け引き」がある。生活する環境も、性格も、時には収入的格差までもがある主人公の2人は、顔を合わせればケンカばかり。大嫌いなはずなのに、気づいたらかけがえのない存在になっていたというお決まりの展開に視聴者は強く惹かれる。悪いところも良いところも熟知している異性と“心を通じ合わせる”ということに、女性だけでなく、男性も憧れる気持ちを抱くのであろう。

 しかし、この手の作品は、主役を演じる俳優と女優のキャスティングを慎重に行わねばならない。2人の間に流れる空気が作品の結果を握っているからだ。

 09年3月、気の強い聡明な女性刑事と、スランプ真っただ中の人気推理小説作家がタッグを組み、推理小説をなぞった事件を解決へと導くというドラマがスタートした。脇役も個性的なキャラクターだらけで、サイドストーリーも楽しめる『キャッスル/ミステリー作家のNY事件簿』である。

 物語の主人公は、数々のベストセラーを世に送り出した人気推理小説作家リック・キャッスル。作品の中で一番人気だったキャラクターに魅力を感じなくなり、殺害されるというエピソードを執筆した後、スランプに陥り苦しんでいた。そんな中、自分の作品とそっくりの殺人事件が起こり、ニューヨーク市警の捜査に協力することになる。気が強いがキレ者で美人のケイト・ベケット刑事とタッグを組むことになったリックは、彼女にインスピレーションを感じるようになり、スランプから脱出。母と娘と同居し、悶々と腐っていた私生活も一変する。リックは冷たい態度を取る女刑事とお互い持っている力を合わせ、絶妙なコンビプレーを発揮しながら、事件を解決へと導いていく。

 アメリカでは、多くの新作ドラマが秋に放送開始となる。最初からあまり期待されていないエピソード数の少ないドラマや、視聴率を稼げず早々に打ち切られた新ドラの代わりに放送される作品は、年明けのミッドシーズンにオンエアーされると決まっているのだ。3月に放送開始した『キャッスル』は、放送局としてはそれほど期待していない作品であった。しかし、ふたを開けてみると予想を超える高視聴率を獲得。局はすぐにシーズン2を同年9月からスタートすると発表。エピソード数も全13話から24話に大幅増した。今年9月からはシーズン5が放送されるが、シーズンを追うごとに視聴率がアップするという快挙を成し遂げ続けている。

 最近、中年男性がうつになりやすくなったり、「中年の危機」に陥るということが話題になるが、この作品の主人公も放送開始時は低迷しているという設定。バツ2で、17歳になるしっかり者の娘と元ブロードウェイ女優の口うるさい母親と暮らしている彼は、人気小説家という肩書とチャーミングな性格で欲しいものは大抵手に入れることができる。女性ファンの胸にサインをして「洗い流す気になったら電話してくれ」とアプローチする男だが、自分の成功に飽き飽きしているという悩み、そして作家として致命的なスランプを抱えているという悩みを持っている。周囲から見れば成功していると思われているが、実際は悶々としている、そんなキャラクター設定が実にリアルで、視聴者の興味を一気に惹きつけたといえよう。

 また、「ミスマッチな男女」として、いくつになっても子どもっぽい男性と、プロ意識を持つ大人の女性というキャラクター設定も明確に描かれおり、とてもわかりやすい。女刑事と同じくらいの知識があることを見せたがる小説家と、自分は犯罪捜査のプロであるというプライドを持つ女刑事。美人なのに男性とは無縁の生活を送っているという点も、今後のドラマ展開が面白くなる予感を持たせてくれる。愛嬌たっぷりでどんな場面でも自分のペースを崩さない小説家に対して、最初は冷たい態度をとっていた女刑事が緩んでいくのも期待通り。恋愛関係までには発展しないが、緊迫した状況下で、コミカルな掛け合いをする2人の呼吸はエピソードを重ねるごとに、どんどんテンポが良くなっていくのが魅力だ。

 とはいえ、あくまでクライム・サスペンスという姿勢を崩さないのがこの作品の特徴。本年度の『ピープルズ・チョイス・アワード』では、『CSI』や『NCIS』『BONES』に『クリミナル・マインド FBI行動分析課』を抑えて、「テレビ犯罪ドラマ賞」を獲得しており、視聴者からも本格派犯罪ドラマとして高く評価されているのだ。小説家と女刑事の関係の変化、女刑事の衝撃的な悲しい過去や、小説家の家族に関するサイドストーリーは、メインストーリーの邪魔にならないテンポで描かれている。本格的なサスペンスパートはもちろんのこと、各キャラクターの背景描写を小出しに明かしていくことにより、視聴者はジワジワとドラマに引き込まれてしまうのである。

 このドラマのもう1つのお楽しみは、主人公である小説家の名前で実際に小説がリリースされていることである。1冊目はウェブで前半を公開した後に発売され、飛ぶように売れた。ニューヨークタイムズ紙のベストセラーリストにも入り、テレビドラマに興味のない小説愛好家の間で話題となったのだ。その後も次々と小説がリリースされており、今年9月には4冊目が発売される予定。eブックとしても発売されており、売り上げは上々だと伝えられている。ドラマでは描かれていないことが小説で描かれていることも多く、二重に楽しめるのである。

 長期間に渡り放送されるテレビドラマの主役たちは、役のイメージが定着してしまい、その後のキャリアが低迷してしまうことが多い。しかし、「ミスマッチな男女」が主役のドラマは、視聴者が主人公の2人を“ペア”として認識する傾向にあるため、番組終了後のキャリアも比較的スムーズに行くという。

 小説家を演じているネイサン・フィリオンは今年4月、大作映画『アベンジャーズ』のロバート・ダウニー・Jrと組んで、『キャッスル』のPRをしたのだが、チャーミングな性格がにじみ出ていると大きな話題となった。もうしばらくドラマは続くだろうと見られているが、ネイサンと女刑事役のスタナ・カティックの番組終了後の活躍も大いに期待できそうだ。

 斬新な仕掛けで視聴者を楽しませてくれる『キャッスル』。見始めたら、止まらなくなること請け合いである。

堀川 樹里(ほりかわ・じゅり)
6歳で『空飛ぶ鉄腕美女ワンダーウーマン』にハマった筋金入りの海外ドラマ・ジャンキー。現在、フリーランスライターとして海外ドラマを中心に海外エンターテイメントに関する記事を公式サイトや雑誌等で執筆、翻訳。海外在住歴20年以上、豪州→中東→東南アジア→米国を経て現在台湾在住。

「大っ嫌いだけど、大好きだゾ☆」系ね……

しぃちゃん

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