[女性誌速攻レビュー]「美ST」9月号

若者に迎合する「美ST」に喝! “私”主義のババアのプライドを取り戻せ!

2012/07/26 17:00
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「美ST」2012年9月号(光文社)

 今月の「美ST」の表紙は向井理なんですが、彼について書いた齋藤薫の「読む美容液」がすごかった。「美しすぎる男」「その美しさを素直に評価し、リスペクトすらしたくなる」というヨイショヨイショはいつものことなんですが、問題はその後。

「もちろん、10代からアイドルをやってきた芸能人とは根本的に違う。普通に大学を出て社会に出た人が、自然に培ったバランス感覚と言ってもいいけれど、もっと本質的なところに、正しい知性というものを感じさせる」
「有名大学卒で“理系”。だから知的……という単純な説明では片づけられないが、疑いようもなく“頭がいい”という事実は、美形の男の場合、たいへんに重要。男の美と知は化学反応を起こして、別格のオーラをつくるのだ」

 と記述していました。大卒アイドルがウジャウジャいる平成の芸能界において、「高学歴」は「高学歴(笑)」であり、「クイズ芸人へのエリートコース」ぐらいしか意味をなさないというのに、あえてそこを突くチャレンジャー! 数年後、辰巳琢郎、宇治原史規と並んで「タイムショック」に出ている向井クンの姿が見えちゃいましたよ。で、コラムを最後まで読んだんですが、「顔がよくて大卒」ということしか語られておらず、彼が役者として「何をやってきて、今何をしているか」という“実”の部分がまったく触れられていなかったので、超訳して「男はやっぱり3高」と解釈いたしました。現代の感覚とまるで合っていませんね。

<トピック>
◎全力捜査!「THE・取材拒否の美魔女」
◎40代「迫力美人」と呼ばないで(怒)
◎剃っちゃえばいいんです!「まゆゆ眉」で小顔な私

■取材拒否して美魔女をナメんな!

 「美ST」はバブル世代の読者が多いんです。だから、上記のコラムだけでなく、ほかにもバブル的価値観がチラリと見えちゃうことがしばしばあります。今月号の「全力捜査!『THE・取材拒否の美魔女』」という企画も、バブルの残り香を感じました。この企画の主旨は、“これまでずっと取材拒否をしてきた美魔女に頼み込んで出てもらう”というもの。要するに、深窓の令嬢ならぬ深窓の美魔女を紹介するという企画です。

 どこまでガチでどこまで演出なのかは知りませんが、まず「取材拒否」に価値を置くところが、レアものブランドバッグを自慢してるみたいで嫌らしい。さらに、取材拒否の理由が「夫が上場企業元社長で、夫の仕事ゆえ目立ったことはできない」「代議士一家で、目立たないことが美学」「夫が雑誌に出ることに好意的でない」「夫を陰ながら支えることが命!」と、暗に夫や家の自慢大会になっているんです。それすなわち「雑誌に出るなんてはしたないこと、わたくしにはできませんわ、ホーホホホ」という美魔女に対するdisりにも聞こえます。

 「夫が好意的でない」? ハァ、だったら出なくていいし、出さなくていいよ、と声を大にして言いたいですねっ! いいですか、美魔女というものはですね、世間から「イタい」「年甲斐もなくはずかしい」「怖い」と冷笑されているにもかかわらず、そこをあえて自ら名乗り出て脱いじゃったりする強者どもの集まりなんですよ。だからこそ“魔女”なんですよ。いってみれば、美魔女は女芸人。根っこは同じで表層が美しいか汚いかの違いなんです。そして、その私主義的な生き方も含めて、美しく現代的であり、読者に感動を与えるんです。他人がいい(orダメ)と言っているから、他人がうらやむような持ち物(夫、金)を持っているから、といった他人の価値判断は関係ないんです。“私”が出たいか出たくないか、“私”が“私”を美しいと思うか思わないか、そこが重要なんです!

 「美ST」読者はババアです。類人猿から進化がストップしている男どもにとってみれば、ババアに女としての価値はありません。そんなことはわかっている。そこからの戦いなんです。裸一貫の勝負、それが美魔女なんです。そこんとこわかってねぇチャラチャラしたやつは、ピーリングして出直してこい、と言いたいです!

■美魔女をイジメたやつ、出てこい!

 ……と、わけもわからず鼻息が荒くなってしまいましたが、筆者の言いたいことは、弱気な「美ST」は見たくない、というその一点だけであります。それなのに、次のような弱りまくりの企画が組まれていました。「『キレイ』と『怖い』は紙一重! 40代迫力美人と呼ばないで(怒)」。「美ST」よ、もう「私って怖い?」なんてビクビクしなくていいよ、と優しく抱きしめてあげたくなりました。どうしたんだい、「美ST」たん。

 トビラページには「まずは、『あなたはまわりからどう思われてる?』テストを!」と15のチェック項目が並んでいます。その中でも「華やか、ゴージャスという言葉が大好き」「一番似合うお洋服やヘアメークは自分が一番わかっている」「気がつけば輪の中心にいる(ママ友の中でもリーダー的な存在だ)」にチェックした40代は要注意なんだそうです。若い女性メークアップアーティストのコメントによれば「あっさり、物たりないかな?というくらいが、私たち年下世代から見ても好感度高いんですよ」とのこと。

 ハァ? なんでマ●毛が生えたばかりの小娘に好感度を求めなきゃいかんわけ!? と腹立たしいこと極まりない。華やかが好きで、自分が似合うと思うものを着ていて、輪の中心にいるって、20代の女性誌だったら賞賛されるべきことじゃないですか。それが「美ST」では「がんばりすぎ」と揶揄の対象になるなんて……。そんな四方八方に好感を求めたところで、最終的に得られるものは何もありません。外見がバブルっぽいくらい構わないじゃないですか。それでイタいと言われてもいいじゃないですか。若者に迎合して横並びを求めることの方が、感覚的に80年代っぽくて古いっすよ。そうではない、「孤高のバブル」。そういうものに、私はなりたい。ゼーハー。

 と思ったら、若者に迎合しているようでちっとも迎合していない「剃っちゃえばいいんです! まゆゆ眉で小顔な私」というトンデモ企画がありました。AKB48・渡辺麻友は、眉毛がほとんど剃られていて、うっすら見える本物の眉よりだいぶ下の位置に新たに眉毛が描かれているという情報を受けて、「『美ST』世代も真似しましょう」という企画です。全剃り、半剃りバージョンを見せています。どう見ても“まろ”みたいで違和感アリアリなんですが、「ぐっと小顔に」見えて、「優しいふんわりした印象に」なるのだと言い切ってます。なんだかわかりませんが、そういうおふざけ企画は楽しい。我が道をとことん行こう。そういう勇気を与えてくれます。恥じらってばかりじゃ人生何も変わらない。特集「頑張れ40代! 『コスメオリンピック』2012」で、「50代の今の方が昔より、ずっとキレイと言われております」とのたまわっている林真理子の厚顔無恥ぶりを少しは見習ってもいいかも、と思いました。
(亀井百合子)

最終更新:2012/07/26 17:00
『美ST』
「読者はババアです」の一文の清々しさ!
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