上野千鶴子&湯山玲子が語り尽くす! 女のための『ヘルタースケルター』論

若さ、美貌、絶望と達観……『ヘルタースケルター』が突きつける“女の十字架”

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女のための『ヘルタースケルター』論、語り尽くします!

 沢尻エリカの映画復帰作として注目されている、蜷川実花監督映画『へルタースケルター』。全身整形のトップスターが、整形の後遺症に苦しみ、次第に精神のバランスを崩していくストーリーで、その狂気的な展開や過激なセックスシーンが話題となっている。

 この作品について、『ビッチの触り方』(飛鳥新社)などの著作を持つ著述家の湯山玲子氏は、Twitterで「エリカ様、マジにあの演技と存在ひとつで、少なくても10個の我がニッポンの現代女性映画が出来る可能性があるね」と大絶賛。このツイートに触発され、試写会に出席したジェンダー論の第一人者である上野千鶴子氏も「圧倒されました、1分たりとも目が離せない」とツイート。ふたりは女性として本作に何を感じたのか。大いに語ってもらった。

■誰の中にも「りりこ」はいる!

湯山玲子氏(以下、湯山) 私は、岡崎京子の原作が発表された1996年当初に読んだんですけれど、思えばその頃から、ファッションやメイクがセクシー方向も含め、もの凄くフェミニンに傾き始めたところで、一種の「女の女装」とも言える、過激さが出初めて来たところで、当時の気分とものすごく合っていると思ったんです。これを我が物語として読まない女の子はいない、と。

上野千鶴子氏(以下、上野) 
当時はまだ80年代バブルの余韻が濃く残っていましたね。欲望が全開した消費社会のユーフォリア(=多幸症)的な状況と、その裏にある退廃的な雰囲気があった。その時代背景が、3.11後の2012年にどんなふうに移し代えられるのだろう、果たして現代を映し出すものになっているのかしらと危惧していたんだけど、ちゃんと「いま」を映し出していたので驚いた。

湯山 こういう視覚スタイルを目にするとすぐに、バブルっぽい、古いと言う向きがあるけれど、それはお手軽な思考停止で、この作品は、世紀を超えても金言に満ち溢れているシェイクスピアのようですよ。シェイクスピアに名台詞が満ちあふれているように、この作品にも1つ凄いセリフがある。原作ではわりとさらっと描かれているのですが、「何故神はまず若さと美しさを最初に与えそしてそれを奪うのでしょう?」というヤツ。これは古今東西すべての女が必ずや人生で格闘する十字架ですから。もちろん、この感覚は震災以降も、未来永劫続くんですよ。

上野 現代は80年代よりも平均寿命が延びた超高齢社会。人生のピークが早く来れば来るほど、あとの下り坂が延々と長い。そこにどう対処するかということは、実は誰も学んでいません。それなのに、今、女は50歳になっても60歳になっても現役を張らないといられなくなってしまった。“女”から降りられなくなったんですよ。「若さと美しさ」を求めて、誰の中にも“タイガー・リリィ(=りりこ)”がいると言っていい。タイガー・リリィのミニチュア版が日常生活に拡散して、もはや逃げ場がなくなってしまった。世の中にダイエットをしていない女はいないし、整形まではしなくてもメイクをしてない女はいない。コスメショップにはつけまつげ、ネイルなど、つくりもののキラキラがあふれている。80年代にはここまでたくさんのコスメショップはありませんでした。20年たってこうなったのかと、愕然としますね。

湯山 私、51歳になるんだけど、まだ。どっぶりとりりこの世界ですよ(笑)。ただし、私のような多くの大人の女は、りりこが破滅に向かった道ではない道を模索しようとはしていますね。一種のサバイバルの方法として、遊戯的に乗りこなして生き抜いていけないことはない、と私は思っているんですが、りりこの問題は消えてなくなるわけじゃない。

上野 若さと美貌への欲望なんてまだかわいいものですよ。人間の欲望はとめどがない。この物語の背後には、カネで寿命も健康も買いたいという政財界のお偉いさんの存在が暗示されています。それも現代では特権階級だけのものでなく、庶民の手の届くところに拡がっている。それを可能にしたのが円高。例えば、昔はアメリカで代理母を頼んだら3,000万円かかったけれど、今はインドで300万円。中国に行けば死刑囚から臓器移植手術を受けられる。何でもカネで買える消費社会の欲望が浸透した怖さを感じました。

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湯山 ああ、作者は欲望を描きながら、当時はそこまでのことは考えてなかったと思うけど、名作には時代時代に当てはまるピースが入れ込めている、ということでしょうね。結局、人間の究極の欲望は不老不死。手塚治虫のマンガ『火の鳥』では、不老不死の壮絶な苦しみが描かれるけれど、現実的にはそっちを渇望してしまう。

上野 90年代は、「カネでなんでも買える」というメンタリティを身につけ、「男は賞味期限付きの若さと美貌にハマるちょろい生き物」だと侮った考え方を持つ援交少女たちが登場した時代。コラムニストの北原みのりさんは、木嶋佳苗は「援交世代のその後」だと喝破しました。逆算すると、その頃、木嶋はローティーン。援交市場にデビューする年齢でした。早期に女の性がカネになるということを体で覚えてしまった少女が、20年たつと、木嶋になるんですね。そして、男をはめるのに木嶋はもはや若さも美貌も必要としてない(笑)。

湯山 確かに(笑)。今の女の子たちは若さと美は賞味期限付きとわかっているから、りりこよりも客観的に自分を見ている。若くて美しい今の私こそが「私よ」とは思わない。それだけ、現実が洗練されたってことですよ。しかし、洗練は無鉄砲でいきいきとしたエネルギーとは無縁です。原作当時との違いはそこらへんかな。りりこはあんなツライ現実を引きつけておきながら、「自分の人生、自分で決めてきたんだよ」と啖呵を切るんでけど、そこのところのエネルギーや怒りさえないのが今の子たちかな。洗練されている若い子たちは、美しさのピークを終えたあと、長い人生をどうやって生きていけばいいのか、という軽い絶望もあり、また絶望してるからこそつけまつげで変身して遊ぶという、退廃と達観の両面がある。それも含めて女が背負った十字架ですよね。

■沢尻エリカは現代女性の巫女だ!

上野 蜷川さんは、女子高生のおしゃべりの使い方がむちゃくちゃうまい。あれが90年代と2012年を見事につないでいます。この物語はすべての伏線が最後の破局へと向かう古典的な悲劇の構図を持っていますが、その中で、女子高生たちは見事にギリシャ悲劇のコロス(=古代ギリシア劇の合唱隊で劇の解説としての役割を果たす)に当たる役割を果たしていました。

湯山 なってましたね。女子高生たちの会話は、「りりこよかったね、はい次」「こずえもよかったね、はい次」と、話題のネタがとにかくスピーディで軽くて、一過性。Twitterっぽいあの感じとシンクロしていましたよね。いつも空騒ぎのような躁病的な笑いに満ちているているし。現代社会ではそうやって情報を受け流していかないとやっていけないし、そのストリームの中にいる人間が思考停止という必死の防波堤を張っている感じもよく出ていたな。キャスティングについてはどうですか。

上野 見た後になってみたら、この映画を作るのは蜷川実花以外に考えられないし、りりこを演じるのは沢尻エリカ以外には考えられない。周りも達者な役者ばかり。特に感心したのは、羽田役の寺島しのぶと、タレント事務所社長役の桃井かおり。「もとのままのもんは目ん玉と爪と耳とアソコぐらいなもんでね。後は全部作りもんなのよ」というセリフは、今や桃井かおりの声以外には考えられない。たるんだ体型も存在感があった。りりこの30年後はああなると思わせるね。

湯山 桃井さんが演じる社長の口調には、ちょっと、優しさを感じちゃったけどね。「最後まで責任持ちます。あんたをこうしたのは私なんだから」と、桃井声でぼそっと言われると、そう読み取っちゃう。ここは原作の感じと違ったところかな。

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上野 それは優しさよりも、支配とエゴイズムの究極だと思う。りりこから最後まで離れなかったのは、社長ではなくマネジャーの羽田でしょう。あれは一種のレズビアンDVの共依存関係ね。DV妻と同じように「私がいなければこの人は生きていけない」と思ってしまう。

湯山 羽田はM女で、SMのリアルにおける支配と被支配の逆転関係の典型で、最終的にはりりこを自分だけのものにしたかったんだと思う。沢尻エリカに関しては、女優って一般大衆の心の叫びを代言する巫女的な役割があるけど、「私にとっての巫女は沢尻だ」ぐらいに考えてます。そういう意味では、女優沢尻は、この10年間、いや20年間中のナンバーワン演技じゃないですかね。沢尻のアップの叫びと涙は、ジョン・カサヴェテス監督の『こわれゆく女』のジーナ・ローランズ級ですよ。岡崎京子、蜷川実花、沢尻エリカは、奇跡の組み合わせだと思いますね。

上野 DV妻も弱者による究極の支配だから同じことだと思う。岡崎、蜷川、沢尻と世代の違う3人の女性のトリオが、それ以外には考えられない仕方で結びつきましたね。
(取材・構成/安楽由紀子)

(後編につづく)

現実が洗練されてなお十字架は重くなりました

しぃちゃん

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