[女性誌速攻レビュー]「MORE」8月号

“そこそこ”こそ生き延びる道! 「MORE」の転職白書がツラ過ぎる……

2012/06/29 16:00
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「MORE」2012年8月号(集英社)

 多くの女性誌が顧客層の変化やそれに伴うニーズの多様化に手を変え品を変えしている中、「ゼクシィ」(リクルート)や「たまごクラブ」(ベネッセコーポレーション)並みの安定感で“ザッツOL道”を説き続けている「MORE」。ファッションは流行をほどよく取り入れ、社内では悪目立ちせず、仕事はそこそこに、貯金に励み、いつかするはずの結婚出産に向けて捕らぬ狸の皮算用は欠かさない……そんなアラサーOLのモヤモヤした日常を最終的に「ハッピー」の一言で片づけてしまう、恐るべき老舗雑誌です。

 しかしそんな彼女たちの奥底には、今月号の表紙である安室奈美恵のような「カリスマになりたい」願望がフツフツしているのもまた事実。「MORE」の面白さは読者のそんな心の揺れに寄り添いながらも、結論がぶっ飛んでいるところ。今月もその辺りをチェックしたく思います。

<トピックス>
◎「夏コーデ」レベルアップ合宿
◎蒼井優「8740―HA・NA・SHI・WO―」
◎となりのあの子の「サクセス転職」Before→After

■ナチュラル蒼井VSむき出し満島、世紀の戦い

 毎回エッジの効いたゲストを呼んで対談する、蒼井優の「8740―HA・NA・SHI・WO―」。パステルカラーのほんわかしたページデザインとは裏腹に、蒼井さんの「私はそこいらの女優とは違うの!」という強い自己顕示欲が溢れに溢れているコッテリ連載です。今号のゲストはこれまたコッテリ系女優の満島ひかり。演技派と呼ばれる2人がヒリヒリするようなやり取りを繰り広げています。

蒼井「自分は、感情“むき出し”の演技でしょう? どんな思考回路をしているのか聞いてみたくて」
満島「お芝居している時のことって、あんまり覚えていないからなぁ。(中略)優ちゃんは若い時から現場を踏んでいるから、全然追いつけない感じがある。ナチュラルで安定しているでしょう。私なんてまだ経験が足りないから、自分を叩いて叩きすぎて、『やりすぎ』って思うことも多い(笑)」
蒼井「でも、満島さんのむき出しのお芝居は、私には絶対できない」

 同業女性あるあるの“認めてますよ”ジャブが続きます。さらに、

蒼井「この仕事って、個性だなぁって思うよね。能力の問題じゃない。(中略)だからね、今、同世代の女優さんってたくさんいるけど、私はライバル心って全然ないの」
満島「私ね、映像以上に舞台の優ちゃんが好きなんだ。(中略)映像では、かわいくて安定感がある蒼井優にもこういうところがあるんだ! ってうれしくなった」

 という、これまた同業女性あるあるの“謙遜という名の上から目線”も展開。ここで満腹になってはいけませんよ。伝家の宝刀“コンプレックスの塊の私”が残っています! 文芸誌で連載も持っている(現在は休載中)満島さんが「容姿とか性格とか、やっぱりコンプレクッスっていっぱいだから、自分を離れて他人を生きられる役者の仕事とか、精神だけを差し出せる小説を書くことにひかれるのかなぁ」と語れば、蒼井さんも負けじと「私もコンプレックスの塊だからわかる気がする。……実は私もこっそり小説書くことがあるの(笑)」とカミングアウト。個性をどう出すべきか悩む「MORE」読者たちにとってはゲンナリするような内容かもしれませんが、女の口プロレスとしてはかなり高度な作品でした。そしていつか蒼井さんが小説を出版するのではという胸騒ぎが……止まりません。

■コメディー調にして誤魔化すのが「MORE」

 続きまして「MORE」の“脳内メーカー”である読み物ページを見てましょう。今月のテーマは「転職」。「となりのあの子の『サクセス転職』Before→After」は転職に成功した7人の事例が給与明細付きで紹介されています。

 未だに「OLは気楽な稼業ときたも~んだ」と思っている方は、ぜひこのページを見て考えをあらためて欲しいもの。彼女たちのBefore生活は相当にブラックです。警備会社の営業だった28歳の女性は「突然、電話で『泥棒に入られたから、セキュリティをつけたい。すぐ来てほしい!』と呼びつけられたことも。休日出勤しても手当はつかないし……」とこぼします。しかし彼女はまだいい方で、証券会社の営業から弁護士秘書へ転職した26歳女性は飛び込み営業の際「庭にいたおばあさんに水をかけられたり、『株で人生狂わされた!』と怒鳴られたことも」「いまだに朝起きた時に『飛び込み営業に行かなくていいんだ』とうれしくなる」んだとか。涙で前が見えません。元個人病院の医療事務さん25歳の話はほぼホラー。女性スタッフばかりの職場は2つの派閥に分かれており「始業は9時なのに、8時10分に集合して『敵対グループの○○が気に入らない』などと言うだけの“派閥ミーティング”を行うことが週に何日も。参加しないと一日中、イヤミを言われるんです」。

 そのほか、「二日続けてのお休みが取れるのは、年末年始とお盆くらい」で体調を崩した方、「自動車ローンを残して自己破産した人に車の引き渡しを要求する」という修羅場業務で「金曜の夜から日曜の昼まで泣き続けた」という方、「毎月給料日の一週間前に『今月は給料が出ないらしい』と社員の間でウワサが広がる」という都市伝説的会社に勤めていた方……過酷な労働を強いられているのに、みなさんの元給料がおしなべて20万円以下というのもやるせません。彼女たちにとって転職は「キャリアアップ」などというカッコイイものではなく、蜘蛛の糸を掴むような思いの「脱走」なのだと痛感しました。

 ここまで散々ヒサンな体験を紹介しながら、「プロが教える!成功する転職の秘訣!」では「ただ『仕事を変えたい』ではなく、『自分がどんな仕事をしたいか』、『どうなりたいか』をきちんと考えることが重要です」とか寝ぼけたことを言ってますので、この辺りは全力でスルー。だって彼女たちの給与明細から聞こえてくる、たとえ手取りが減っても「人間らしい生活がしたい」「人を信用したい」という魂の叫びの方がよっぽどタメになりますから。

 冒頭で「仕事もそこそこに」と書きましたが、それは彼女たちが怠惰なのではなく、「そこそこ」こそが生き延びる道だから。今月号はその他ほかにも「生理とハッピーにつきあう方法」「驚異の美トイレダイエット」など、夢のないシモの話を無理やり前向きにさせ、読後かえって悲しい気分に陥れるという“負の連鎖”ページが満載。そうか、もう「ハッピー」って言うしかないのか……「MORE」の幸せ利益誘導のカラクリが少し分かった気がした8月号でした。
(西澤千央)

最終更新:2012/06/29 16:12
『MORE 2012年 08月号』
梨花のいう「ハッピー」とは重みが違うぜ!
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