ブックレビュー

支配したがる母からの自立と自尊心を取り戻す過程を描く、『母がしんどい』

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『母がしんどい』(田房永子、新人物
往来社)

 ド直球なタイトル通り、本書は“しんどい母”にからめとられて身動き取れなくなった主人公・エイコちゃんの自立物語を描いたコミック。カラフルな表紙に描かれたエイコはミッフィー的無表情ながら、「母」はにこやかにキラキラを飛ばしながら娘をかき抱いていて、パッと見には「ん? 何がしんどいの?」という状態が、むしろ相当にしんどそう。

 なにしろこのお母さん、「怒ると3秒で豹変」して怒鳴り散らしたりはするものの、「元気でひょうきんで みんなを笑わせるのが上手」であり、暴力やネグレクトのようなあからさまな虐待をするわけではなく、「怒られもするけど 抱っこもいっぱい」してくれる人だ。ハタからはごく普通の家庭にしか見えない。

 正直、エイコが小学生ぐらいまでは、読んでて、「えっ……これでしんどいとか言われちゃうの!? 習い事を強制したりまずい弁当作ったりなんて、多かれ少なかれ誰でもやってるよ。ていうか私もやってた!」と、ついお母さんをかばいたくなったりした。

 しかもここんちのお父さんは、お母さんのカンシャクタイムになると自室に引きこもる。近所に住むおばあちゃん=お母さんの実母も「うちには他にあんなカンシャク持ちいないのにねぇ」と、まるで他人事。ちょっとちょっとぉ~、これ周囲も無責任過ぎでしょ。お母さんもエイコも逃げ場ないじゃん!

 風通しの悪い家庭はよくない……というより、家庭はそもそも風なんか通らないのだ。風を一時的に遮断することで、外敵を恐れずに疲労回復する原始時代のシステムなのだから。そんなところにずーっと子どもとこまっていたら、空気が澱んでイライラするのも無理はないんじゃ……。

 だがエイコが成長しても、状況は変わらない。むしろ、単純に子どもを支配できなくなったお母さんのカンシャクはますますパワーアップ。無理やりイタリア旅行に1カ月も連れて行くかと思えば、ブラジャーすら買ってくれなかったり、せっかく始めたコンビニのアルバイトを「クルマが突っ込んで来たら心配」という謎の理由で阻止しておきながら、「誰がここに住まわせてやってんだ!」と怒鳴る。支離滅裂。

 もはや育児ノイローゼとかカンシャクとかの域を超えてるよ! 子どもが自立すれば母親の自由も取り戻せるはずなのに、母親だけが家庭という密室から出ようとせず、お金や恐怖感、あるいは情で支配しようと、骨絡みの共倒れを迫ってくる。子どもは親を愛しているからこそ矛盾に混乱し、ダメ人間の烙印に自信を失っていく。愛と支配を取り違えた親の、形を変えた母子心中だと思った。

 エイコがやっとの思いで家を出ても、お母さんの支配欲はエスカレートする一方。職場に1日何回も怒り電話をかけてくるわ、部屋のベランダに侵入して窓を叩きまくるわ、おまけに彼氏の太郎くんまでモラハラだめんずだったことが発覚。これは確かにしんどい……エイコ、逃げて逃げてーー!

 でもエイコはなかなか逃げられない。他人の太郎くんとは別れられても、毒親たちをしんから嫌ったり憎んだりできないのだ。アタマでは親なんかスルーすればいいとわかっていても、罪悪感にさいなまれ、震えたり呼吸が苦しくなったりといった身体症状に悩まされてしまう。このへん、読んでてとても息苦しかった。

 なので後半、穏やかな彼氏タカちゃんに出会い、エイコの洗脳が徐々に解けていくあたりは本当にホッとした。もちろん、全然スムーズにはいかない。エイコは、お父さんから「親が死なないと親のありがたみは解らない」と言われたり、ネットの掲示板で「親に感謝すべき」と諭されたりして、親と絶縁したい自分は間違ってるの? と悶絶する。タカちゃんに対して突然キレる自分を「お母さんにソックリだ」とおびえる。

 だが精神科に足を運んで「親と会わなければいい」と後押しされ、また「100%自分の味方をする自分」を発見することで、エイコはグラグラな自分を安定させていく。

 この後半の、エイコが自立を模索する過程は非常に感動的だし、毒親に苦しむ人には参考にもなると思うので、ぜひ実際に読んでみてほしい。

 重たい話ではあるが、絵本のような柔らかいタッチで読みやすく、何よりマンガがうまい! 豹変するお母さんのギンギンorキラキラ顔、自分の世界に酔いしれるお父さんのキメポーズなど、笑ってしまった。しんどい親に悩まされてる人、これから親になる人、特に女性にはオススメです。
(神田ぱん)

『母がしんどい』

親子も他人、という事実を受け入れるまでが辛い。

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