[官能小説レビュー]

6人の男たちによる回想よって浮かび上がる、女の多面性と性愛

2012/05/14 19:00
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『七色の笑み』(小玉二三、光文社)

■今回の官能小説
『七色の笑み』小玉二三

 女は、場所によってさまざまなキャラクターを使い分ける。恋人の前、仕事の顔、家庭での顔……その場その場で刹那的に自分を演じ分けすることで自らを確立し、社会で立ち回っている。女のキャラ設定は、相手が男となるとさらに本領を発揮するのではないだろうか? 気になる男の前、本命の男の前、あるいは、男として魅力を感じない相手の前でも、女はあらゆる手段で男に対して及第点を得ようとする。そして、男にはそんな女の作戦などは悟られていないのではないだろうか?

 今回紹介する『七色の笑み』の主人公ノエミは、タイトルのとおりさまざまな顔を使い分けていた。

 別荘地の洋館に集まった6人の男。彼らの唯一の接点は、黒く縁取られた葉書と、謎の女性「ノエミ」の存在。物語は、一人目の男・剛とノエミとの回想から始まる。息子の家庭教師として現れたノエミは、清楚な服装と整った顔立ちをしていた。剛は一目で心を奪われてしまう。ひょんなきっかけから2人の距離は縮まり、男女の仲になる。紺のスカートに白いブラウス、白いハンカチ――その服装から想像できるように、セックスのときのノエミは堅く、内気で、初々しかった。まるで娘に教示する父親のようにノエミを愛する剛。はじめて2人での旅行を計画したある日、彼女はこつ然と姿を消したのだった。

 次に語り始めたのは、ノエミの婚約者でもあった道尾だ。大学教授と教え子という関係でありながら、体の関係を持ってしまった2人。恋愛経験の浅い道尾は、そんな自分を「可愛らしいわ」と受け止めてくれたノエミを愛おしく思い、なぶるように手荒く抱き続ける。……そして、道尾はノエミにプロポーズをしたのだ。けれど彼女はふいに大学を中退し、道尾の前からも消えてしまう。そして洋館には道尾を名乗る、もう一人の男が現れ……。

 僕しか知らないノエミがいる――切り出したのはフォトグラファーの下野だった。彼が被写体としていたノエミは妖艶で危うく、大胆な女性だった。レンズの向こうで股を広げ、誘うような眼差しを向けるノエミ。自ら下着を脱ぎ去り、なまめかしい笑みを浮かべて下野を誘導して行くのだった。

 下野とノエミを引き合わせるきっかけとなったデザイナーの川上。彼もまた、ノエミに魅了されていた男の1人だ。自身の事務所でバイトとして働くノエミを誘ったのは、軽い気持ちからだった。二回り世代の離れた初心なノエミと付き合ううちに、川上は学生時代の淡い恋を思い出して胸を熱くする。ノエミに電車の中で面識のない男を挑発させ、まるで世の中のすべての男にノエミを見せつけるように、川上はあらゆる手段でノエミを抱き続けた。

 ノエミの魅力は家庭教師をしていた生徒も感じていた。高校時代の国分にとって、年上の大学生・ノエミとの2人きりの時間は性の対象そのものだった。妄想のなかでノエミを裸にし、抱き合い、交わる……ベッドのなかで1人妄想しながら派手に声をあげている姿を、ひょんなことからノエミに見られてしまう。バツが悪いままでいると、ノエミは国分の股間に手をあてがい、躊躇なく口に含んでしまった――そしてノエミは、国分の“最初の女”となる。

 男たちを手玉に取っていたノエミだが、その彼女が魅せられていたのは、今昔物語の『人に知られぬ女盗賊の話』だった。ある美貌の女が、ごく当たり前に生活している男の前に現れ、盗賊に仕立てる。そして男が盗賊として一人前になったある日、まるで何事もなかったかのように姿を消してしまう――。あらゆる男たちの心を捕まえつづけたノエミ。残された男たちに浮かんだクエスチョンマークの答えを導く存在が、彼らの前に現れるのだが……。

 次から次へと男を渡り歩き、そのたびにまったく違う自分を演じていたとしても、それらはすべて本物。すべての男に好かれ、本気で愛される。それは女の理想の形だから。女は、男に愛されるためならばいくらでも変身することができる。すべての男に愛されることは、女として極上の喜びなのだから。さまざまな男性と対峙するたび、あらゆるキャラクターを演じ分けながら、女は人生を渡り歩くのかもしれない。
(いしいのりえ)

『七色の笑み』

女を自分の見たように見るのが、男の性ってヤツですしね

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最終更新:2012/05/14 19:00
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