[連載]海外ドラマの向こうガワ

曲名をエピソードタイトルにし、音楽を最大限に使ったドラマ『One Tree Hill』

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『One Tree Hill〈ファースト・シ
ーズン〉コンプリート・ボックス』
(ワーナー・ホーム・ビデオ)

――海外生活20年以上、見てきたドラマは数知れず。そんな本物の海外ドラマジャンキーが新旧さまざまな作品のディティールから文化論をひきずり出す!

 サイレント映画の時代から、映画と音楽は切り離すことができないもの。効果音として使用するのはもちろん、シーンを盛り上げるために曲を挿入したり、オープニングやエンディングにインパクトのある曲を流すなど、必要不可欠なアイテムなのだ。映画が世界的なヒットになると、当然のように映画のサウンドトラックもプラチナム・ヒットになる。3,000万枚を売り上げた『タイタニック』、4,400万枚売り上げた『ボディガード』、4,200万枚を売り上げた『サタデー・ナイト・フィーバー』は全米ビルボードで24週間連続して1位に輝いている。

 映画同様、テレビドラマと音楽も切り離せない関係にある。とりわけメロドラマ系作品はぴったり合う曲を選ぶことができれば、より多くの視聴者を得られると言われているほど、非常に重要な役割を担っているのだ。

 日本でも人気の医療恋愛ドラマ『グレイズ・アナトミー 恋の解剖学』は、キャラクターの心情を表す曲を流すことでシーンを盛り上げ、女性視聴者の共感を呼んだと評されている。もちろん、サントラの売れ行きも好調。同作品には、ミュージカルや舞台経験のある役者が何人かレギュラー出演しており、ミュージカル・エピソードなるものまで制作されたほど、音楽にウエイトを置いている。

 この『グレイズ・アナトミー』が放送される2年前の2003年9月。これまでアメリカでオンエアされたどのドラマよりも音楽を上手に取り込んだ、ティーン向けのドラマがスタートした。田舎の高校を舞台に繰り広げられる正統派青春ドラマ『One Tree Hill』である。

 物語の主人公は、ノースカロライナ州の小さな町トゥリー・ヒルが誇る、高校バスケ部で活躍する異母兄弟。両親がいる裕福な家庭に育ったネイサンはワガママな性格だが、父親の大きなプレッシャーに押しつぶされないよう心の中で日々葛藤している。一方、3カ月年上の異母兄ルーカスは母子家庭に育った心優しい野心のないストイックな性格の青年。性格が正反対なふたりはバスケやガールフレンドをめぐって対立することになるが、シーズンを重ねるにつれ、心が通じるようになり、互いに理解を深め合うようになる。

 世界的な人気を誇るバンド・U2が1987年にリリースしたアルバム『The Joshua Tree』に収録されている「One Tree Hill」をドラマのタイトルにした同作品は、10代の切ない恋愛、友情、家族関係、さまざまなタイプのティーンたちの悩みや喜びを、丁寧に、そして誠実に描き、評論家たちから高い評価を得た。

 本作品は、各エピソードタイトルも、すべてアーティストたちの曲名を引用している。こうすることにより、視聴者は曲とエピソード内容をセットで覚えることができ、感覚的により強い印象が残ることになるからだ。それぞれのシーンには、バラエティーに富んだジャンルの中から、ぴったりの曲が当てられている。曲の多くはラジオで流れることもない才能豊かな無名アーティストたち。『One Tree Hill』は、視聴者に新しいアーティストを紹介すると共に、アーティストたちの知名度を上げる機会を与えるという、音楽と強いつながりを持つドラマとして認知されるようになったのである。

 ドラマの音楽スーパーバイザーを務めたのは、若者向け人気SFドラマ『ヤング・スーパーマン』などを手掛けたリンジー・ウルフィントン。リンジーはインタビューで「この仕事は、まず脚本を読み、どんなシーンになるのかを思い浮かべることから始まる。そして、どんな曲がぴったりなのかをリストアップしていくのだけれど、番組には予算というものがあり、有名歌手の曲ばかり使うことは金銭的に無理がある。だから、才能がある若手アーティストを探し出し、彼らの曲をドラマで使うようにした」と明かしている。

 リンジーにゴーサインを出す番組のプロデューサーは、『学園天国』『スカーレット・ヨハンソンの百点満点大作戦』などの青春映画を手掛けたマーク・シュワーンと、『ヤング・スーパーマン』など青春ドラマを手掛けたマイケル・トーリン&ブライアン・ロビンスの黄金コンビ。青春ドラマを知り尽くしたプロデューサーだからこそ、視聴者が納得するストーリーと挿入歌を提供することができたのである。

 実はこの作品、ミーシャ・バートン主演作『The OC』と同時期にスタートしており、当初は、リッチで華やかで話題性の高い『The OC』の方が長く続くと囁かれていた。同じ青春ドラマであるが、高級住宅街が舞台の『The OC』に比べ、『One Tree Hill』の舞台は田舎町。しかも、正統派青春ドラマ路線を狙っていたため、「現代においてはスケールが小さすぎる」と懸念されていたのである。

 しかし、ふたを開けてみると『One Tree Hill』の方が、より多くの若者たちの心を掴んだ。派手な視聴率を取るわけではないが、シーズンを重ねても安定した視聴率を維持していたことが何よりの証拠。ここまで若者たちの心を掴んだのは、音楽もさることながら、アメリカ人が大好きなバスケットボールがドラマで大きな部分を占めているからだとも言えよう。小さな田舎町の高校から、NBAを目指す青年たちの熱血スポ魂ドラマのノリが人気を集めたのである。息子のために思わず暴走してしまう父親など、親世代も自身を投影しながら見ることができる点もポイントが高かった。なお、シーズン5から9は、大人へと成長していく過程が描かれており、その現実的な内容に視聴者はさらなる共感を得たのだ。

 音楽とドラマの関係を深め、またドラマにおける音楽の可能性をグッと広げた『One Tree Hill』。ドラマにハマッた多くの人がサントラを購入するとも伝えられている本作品の魅力を、ぜひ、味わってほしい。

堀川 樹里(ほりかわ・じゅり)
6歳で『空飛ぶ鉄腕美女ワンダーウーマン』にハマった筋金入りの海外ドラマ・ジャンキー。現在、フリーランスライターとして海外ドラマを中心に海外エンターテイメントに関する記事を公式サイトや雑誌等で執筆、翻訳。海外在住歴20年以上、豪州→中東→東南アジア→米国を経て現在台湾在住。

『One Tree Hill〈ファースト・シーズン〉コンプリート・ボックス』

父親の性格がとにかく最悪!

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