[連載]そうだソルティー京都、行こう

神秘なる宝貝守りと、ハイテンションな自己アピール看板が見どころの長健寺

2012/05/03 20:00

 京都は、世界屈指の観光地。そして女の憧れの地である。美味いもん食って、寺社を見て、お洒落して、勉強する。何でもかんでも「京都でする」のが女の憧れなのだ。女性誌はこぞって京都特集を組み、ガイド本や京都観光エッセイがボロボロ出版されている。確かに京都には歴史がある。名産品がある。美味がある……そして誰も取り上げないけれど「しょっぱい京都」もある。

 しかし京都のほんとうの魅力は、こういうソルティーなところにあるのだ。上品ぶっている女性誌では取り上げないほんとうの京都の姿を、しっかり焼き付けて欲しい。そうだソルティー京都、行こう。

【第11回 長健寺】

 酒好きが京都に行くならば、間違いなく寄らなければいけない場所がある。伏見・中書島の一帯である。ここは宇治川派流の濠川沿いに酒蔵が並ぶ、美しい街。春になるとここに桜が咲き乱れ、そこらのケータイでも驚くほど美しい写真が撮れる場所である。

 美しく美味しい水から、これまた美しく美味しいお酒は生まれる。黄桜や月桂冠といった全国区の酒蔵はここ伏見にあり、これらの酒蔵展示場であるキザクラカッパカントリーや月桂冠大倉記念館では、ここでしか買えない酒があったり利き酒をさせてくれたり、と飲んべえにご奉仕の限りを尽くしてくれる場所なのだ。

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月桂冠大倉記念館にある大桶。ここはしょっぱくないので、フィリップ・
マツオ
はいない

 駅からそんな風光明媚な街へと向かうべく歩いていると、こんな看板がある。

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そうですか、長健寺と酒蔵があるんですか

 しばらく歩くと、どーんと川に突き当たる。向こう岸には美しい酒蔵が並び、絶景が広がっている。そして川の手前には、長健寺だ。

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長健寺の中華風な山門。お、ここは風情がありそうだ

 ここらは江戸時代、遊郭があったところだそうで、長健寺もこのころ建立されたらしい。中書島に来て酒にがっつく前に、向学心を満足させて飲酒の後ろめたさを払拭しよう。

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境内に足を踏み入れました

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これは……?

 ソルティー観光地は、圧倒的に説明が足りなくて、一般市民にはわけがわからないところもあるが、一方で、なんか浮かれちゃってやたらハイテンションであることも多い。

 ここ長健寺はどうだろう。小さな境内を見渡すと、あちこちに立て看板がある。すぐにこの寺のテンションの高さが目に飛び込んでくるはずだ。そう、長健寺は「知ってることをなるべく全部看板に書いて教えてくれる、非常に親切な寺」なのである。

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紫燈護摩についての説明どーん

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これはちょっと涙目看板。「ここはゴミ捨て場ではあり
ません。護摩の炉です」。参拝客はマナーがいいのか悪い
のか

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いろいろ教えてくれる、おみくじ売り場

 さて、長健寺に来たら、手に入れたいものがふたつある。

 ひとつは、おみくじ。なにしろ「このお寺にしかない有名なおみくじ」なのだ。「おみくじの元祖は」という看板によると、おみくじは、比叡山の元三僧正が1,000年ほど前に考案したものらしい。それを現代流に和歌にアレンジしたのが、このおみくじだそうだ。

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「近ごろ喫茶店でも、週刊誌でも、コンピューターでも、寺社に限らずあら
ゆるところでおみくじがみられます」で始まる雑誌記事みたいなおみくじ
うんちく看板。ラストの自己アピールは必読

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手作り感あふれるおみくじ。確かに「このお寺にしかな
い」感じがする。欄外には「よくあたる 弁天さんの お
みくじ」とやっぱり自己アピール

 そして本堂でお祈りをしたら、もうひとつ手に入れてほしいものがある。それはここでしか買えない、「辨財天開運通貨(お守)」である。お守り売り場のシャッターが降りていても、臆してはいけない。ブザーを鳴らすと、ガラガラとシャッターを開けて迎えてくれるはずだ(そして境内中の看板に負けない熱意でいろいろ教えてくれるはずだ)。

 このお守り、別名「宝貝守り」といって、デコマンもびっくりな霊験あらたかそうな意匠なのである。そうですか、神秘たる女性の貝はやっぱり「宝」ですよね、ええ。ここが元遊郭だったことと関連があるんだろうか、興味深い意匠である。男のシンボルはよく寺だの祭りだので目にするけれども、これは滅多にない気がするので大事にしないといけませんね(思わず丁寧語)。もちろんお守りには「全国でこのお守をお授けしているのは当山だけ」と、ここでもアピールばっちり。

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やだな~お守りですよ、お守り!

 長健寺は、「歴史に詳しくないから、寺社めぐりには興味ない」という若者に、ぜひおすすめです。1から10まで手取り足取り看板が教えてくれる。その上、ここにしかない垂涎もののお宝お守り。酒蔵が提供するサービスなんか足元にも及ばないほどのサービス精神である。中書島に行ったら、酒蔵と寺田屋だけでなく、長健寺もお忘れなく。

和久井香菜子(わくい・かなこ)
ライター・イラストレーター。女性向けのコラムやエッセイを得意とする一方で、ネットゲーム『養殖中華屋さん』の企画をはじめ、就職系やテニス雑誌、ビジネス本まで、幅広いジャンルで活躍中。 『少女マンガで読み解く 乙女心のツボ』(カンゼン)が好評発売中。

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最終更新:2019/05/21 18:37
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