[連載]悪女の履歴書

“セックス”の意味に揺さぶりをかける、木嶋佳苗の男と金の価値観

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Photo by junketz from Flickr

 世間を戦慄させた殺人事件の犯人は女だった――。日々を平凡に暮らす姿からは想像できない、ひとりの女による犯行。彼女たちを人を殺めるに駆り立てたものは何か。自己愛、嫉妬、劣等感――女の心を呪縛する闇をあぶり出す。

[第3回]

首都圏 婚活連続不審死事件

前回はこちら

「死刑に処するのが相当だと思います」

 初公判からおよそ3カ月経った3月12日。検察の論告求刑は「極めて巧妙で悪質な手口。反省の態度、更生の意欲、可能性すら皆無と言わざるを得ない」として、極刑を求刑した。3人の殺害という起訴事実からも容易に想像できた求刑だが、しかしその瞬間も当事者である木嶋被告は、これまでの法廷と変わらず表情を変えなかった。

 そもそも木嶋被告は犯行を認めていないのだから、「反省」などしたら矛盾するのだが、検察はそうは思わない。そして「検察の主張する」犯行動機も両者の溝を埋めることなかった。

「贅沢な暮らしを維持するため、婚活サイトで男性を物色、結婚をエサに多額の現金を騙し取った。そして返却を求められたり、詐欺が発覚、または発覚しそうになると練炭自殺にみせかけて殺害した」

 これまでの法廷で検察が積み上げていったのは木嶋被告の「ウソ」と検察側の「常識」に基づいた状況証拠と動機だ。2月の検察による木嶋被告への尋問において、「騙し取った」とされる金銭に対してもこんなやり取りが交わされていた。

検察「被害者にウソを言って金を騙し取った」
木嶋「その時は(騙す)意思はありませんでした」
検察「金額も細かく要求している。リアリティを持たせ騙すためでは?」
木嶋「騙すつもりはありません」

 「騙した」とは決して認めようとしないが、ここで木嶋被告は冷静だ。高圧的にも思える検察の尋問に、ゆっくりと、そして丁重に言い返す。

「借りたお金ではなくいただいたお金。ですから返す必要はないものです」
「もしお金を返せといわれたら」
「他の男性に頼ることになると思います」
「(被害者の誰にも)返していない」
「(相手に)拒否されました」
「供託制度というものもある」
「裁判に集中しているので考えられません」

 またある時は、

「お金の話を(会う)前にしているが?」
「私の持っている価値観を事前にお話するためです。必ずしも自分の価値観が普通だとは思っていません」
「お金と関係なく会った人がいるのか?」
「(最初に)支援をしてくれないのでは、困難な時に助けてくれない」
「人を騙すような価値観はいつからなのか」

 時に声を荒げる検事。

「……私にはわかりません」

 “事実”ではなく価値観の攻防。「騙し取った」と連発する検事。しかし「騙す」という言葉に、木嶋被告はひたすら抵抗する。木嶋被告は殺人については無罪を主張するものの、2件の詐欺は認めているにもかかわらずーー。検察から提出された「メール」という動かぬ証拠を突きつけられると、しぶしぶながら自ら付いたウソも認める木嶋被告。だから「メール(記録)にない」ことに対して木嶋被告は「記憶にない」と突き通す。法廷での木嶋被告のしたたかさには舌を巻くほどだ。

■木嶋独自のセックスの価値観

 検察と木嶋被告のズレは「性に対する価値観」にも及ぶ。被害者の1人である寺田隆夫さん(53)に関する検察の尋問でもそうだった。

 木嶋被告と寺田さんは2008年6月婚活サイトで知り合い交際を始めた。木嶋被告は寺田さんについて「他とは全然違う」「会う前から生活支援をしていただきました」と法廷で語っている人物だ。

 木嶋被告は08年12月頃、料理学校の授業料として61万円を寺田さんに求めている。その際寺田さんは「佳苗さんを好きになることは、宗教を信仰することと一緒」と言い、それを快諾したとされる。その1カ月後には、80万円以上するカルティエのブレスレットを婚約指輪代わりに贈られている。

 木嶋被告は寺田さんに限らず、多くの男性から出会ってすぐ(いや、出会う以前にも)金銭を要求し、いともたやすく金銭授受に成功している。一方で木嶋被告は寺田さんについて「無口でコミュニケーションがとれない。まともな性生活もできない」「おじさんの匂いがした」と嫌悪感丸出しの証言をする。

 そして、2人が最後に会った1月30日の出来事について木嶋被告は、寺田さんに別れを告げたところ、ぶつぶつと呟いてから泣き出し、現金400万円の束と1,000万円ほど入った貯金を渡したと言う。その際寺田さんは「佳苗さんのために用意したので使ってください」と言ったという。木嶋被告はそれを受け取り、同日寺田宅を去った。木嶋被告にしてみれば「100万円単位で男性からお金を頂いたことが何度もあった」ので抵抗はなかった。(寺田さんが死亡している以上、あくまで木嶋被告の言い分だが)。

 別れの原因については、当日、寺田さんの帰宅が遅れたが「謝罪もなく不満だった」などと証言している。同日木嶋被告は、結婚を前提に日常品を入れた段ボール3つを、寺田宅に搬入している(検察は日常品ではなく練炭だと主張)。このことについて法廷でも問題になった。

「なぜ大切な(日常品)なのに寺田の家に置い(て帰った)たのか」
「時間に寺田は遅れた。謝罪もなく不満だった」
「なぜ不満なのかわからない」
「旅行に行っても(セックス)できない」

 全く噛み合わない、双方の価値観の相違の応酬が繰り広げられる。また木嶋被告は寺田さんとの交際と同時期に他に4人の男性と交際していた。もう1人の被害者である安藤健三(当時80歳)、本命のイケメン恋人といわれるBさん、その他2人の男性だ。

検事「誰が大切なのか、どっちが好きなのかわからないだろう!」

 検事の“個人的倫理観”をうかがわせる質問を聞いて、「愛人と妻どっちが好きなの?」と問い詰められている世の男性の姿と木嶋被告がダブって見えた。

 味方であるはずの弁護人からの尋問でも同様だ。

弁護士「他の男性とセックスして裏切りになるのでは?」
木嶋「私はそういう価値観を持っていません」

 木嶋被告自身も「価値観」という言葉を多用する。ともあれ、5股もかけられていた寺田さんは、それを知るはずもなかった。09年1月11日には、木嶋と共に都内ホテルに宿泊し(この際カルティエを贈った)、結婚に向けての具体的話を進めていたのだから。

■セックスする男としない男

 この前後の期間、木嶋被告は精力的に男たちとの逢瀬を重ねている。

08年12月26日:安藤さん
       27日:男1六本木の高級ホテル
       29日:男2ラブホ
       30日:寺田とデート
09年1月1日~5日:本命Bと旅行
       10日:再び男1

 という具合だ。ちなみに男1からも結納として100万円を渡されていて、肉体関係もあったが、寺田さんとはセックスはしていないという。

 これについても興味深いやり取りが木嶋被告と検察にあった。

「子どもが欲しいというメールも嘘ですね」
「嘘ではない」
「ピルを飲んでいたんでしょう。それに連日のようにセックスしているから、誰の子かわからないでしょう」
「……」

 鬼の首を取ったように不敵な笑みを浮かべる検事。

「気に入っている男性からなぜ騙してお金を取るのか」「好意のある人にウソをついてお金を取る理由がわからない」

 木嶋被告は沈黙したり、クビをかしげ、明確に答えることはない。

 検事は自分のフィールドに引き込むことに必死だ。のらりくらりと答える木嶋被告に対し、裁判長に「被告人に注意を!」と喚起する。

 男性検事の感情的でムキになっている様、どこまでも噛み合わない価値観は、木嶋被告の特異さを浮かび上がらせ、裁判員たちに印象づける“効果”にはなっているのかもしれない。

 検事だけではない。前出の弁護士とのやり取りでは困惑の表情を浮かべ、裁判員も木嶋被告の常人には理解できない「価値観」の壁にぶち当たる。

「男性からの金銭援助が当たり前になったのはいつの頃か」
「一般の女性にはできないことで、自分なりに努力もしているので、その報酬を得るのは当然のこと」

 木嶋被告の「独自の価値観」。それが理解できない以上、これら犯罪容疑の動機はわからない。ただしその価値観は木嶋被告の「心の中」にしか存在しないのではないか。

 検察の“常識”からいえば「動機なくして犯罪なし」なのだろう。だが検察の常識が“一般常識”からかけ離れており、さらにその一般常識からも木嶋被告の“常識”は、大きくかけ離れている。それを理解しようというのが無理というものだ。

 木嶋被告が寺田宅から去った5日後の2月4日、寺田さんが自宅で死亡しているのが発見される。室内には練炭こんろが6つあった。警察はこれを自殺として処理し、司法解剖すら行われることはなかった。遺書もなく、パソコンや鍵も見つからないにもかかわらず。寺田ケースの立証が最も困難だといわれる所以である。
(取材・文/神林広恵)

(つづく)

『せっくすのえほん』

セックスなんて知らなきゃよかった

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【バックナンバー】
・第1回前編:女としての自信と”落差”、騙される男たち……木嶋佳苗という女の闇を追う
・第1回後編:「とにかく頭が良かった」中学時代の木嶋佳苗、その異常なる行動力と冷静さ



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