ブルボンヌの映画批評 「女優女優女優!」第15回

『おとなのけんか』のジョディ姐さん、インテリ“文化系おばさん”の面倒くささ全開よ!

2012/03/09 22:00
otonaposter.jpg
(C)2012 Sony Pictures Digital Inc. All Rights Reserved.

 サイ女な皆さーん、女の特権、髪の毛引っ張り合いのケンカってしたことありますか~。ま、普通はないか。オカマは女の争いって大好きだから、楽屋とかで冗談でやるんですけど、残念ながら髪の毛引っ張り合おうとすると、お互いスポッて取れちゃうのね。ヅラだしねー。

 そういや、ケンカって大人になって減ったわ。子どもの頃は、友達ともよく言い争ったものなのに。

「やーいオトコオンナ!」「違うもーん!!」
「お前、家を継いでバーのママになるんだろ?(笑)」「そんなわけないでしょ!!」

 今思うと、全部友達が言ってることのほうが正しかったわ……。

 思ったことをすぐ口に出して、ぶつかり合った子どもたちも、成長すればいろんなことを建前でやり過ごす「おとな」になっちゃうのよね。でも、そんなおとなたちが、もし何かの弾みで子ども以上に曝け出し合うケンカを始めちゃったら……。そんな映画が、今回ご紹介する『おとなのけんか』でございます~。

otonamain.jpg
ただ有名ってだけじゃないのよ。ちゃんと演技ってものが分かってる顔ぶれ
でしょう? というドヤ感のある豪華キャスト

 こちらを撮ったのは、大御所ロマン・ポランスキー監督。相武紗季ちゃんや貫地谷しほりちゃんと並ぶ、うっかりセクシーネーム族のお一人です。個人的にはいつか来日記者会見で、「誰がロマンポルノ好きぃな監督や!」とか言って、宣伝効果を倍増していただきたいものですが、実は彼、全然名前負けしてないくらいの経歴の持ち主。

 60年代末に惨殺された女優シャロン・テートが彼の子を身ごもってたり、女豹ナスターシャ・キンスキーと15歳の頃からヤッてたり、少女への強姦容疑があってアメリカに入れなかったりと、エログロ感たっぷりのバックボーン!

 ってこれからご紹介する映画の監督さんのそんな暗部をわざわざ言うことないじゃん、って思われそうですが、そんな人が全世界の頂点ともいうべきアカデミー監督賞を受賞してて、知的でシャレオツなコメディを撮ってるということ自体、「人間の本性ってどうなん?」というこの映画のテーマにかぶるものを感じるわけなんですよ、ホホホ。

otonasub-2.jpg
社会の勝ち組代表のご夫婦。話し合いの場で他の電話しまくったり、
化粧を直したりしても、お金持ちなら許されるの!

 物語は、よくある子どものケンカについて両親同士が穏やかに話し合うところから始まるのね。まあ訴訟社会アメリカですから、子どものケンカでも仰々しい文書に起こしちゃったりしてさ。

 ケガをした子どもの親はジョディ・フォスター姐さんとジョン・C・ライリー、ケガさせた側はケイト・ウィンスレットとクリストフ・ワルツが演じてるんだけど、この4人のキャラ設定がホントお見事!(てかこの4人しか出てこないんですけどね)。ジョディは芸術大好きでアフリカ紛争についての本も書く庶民派インテリ女性。夫は陽気な金物屋さん。対してケイトは投資ブローカー、夫も弁護士という、職業だけで鼻につきそうなおハイソ夫婦なのです。 

 これ、加害者側が弁護士夫婦だったら、もうとことんドライに損害賠償とかさせて終わってたんだと思うんだけど、残念ながら(?)「大事なのは気持ちでしょ。これからの教育でしょ?」と言いたい庶民側が被害者だったから、そう簡単には終わらない。会話の途中に何度も、仕事に関するえげつない電話を挟む弁護士夫の態度にイラついたりで、そろそろお開きになりそうなところでまた話し合いに戻る繰り返し。映画一本の間、ずーっと同じ部屋でケンカし続けるという、原作が舞台なだけに本当に舞台らしすぎる展開なのね。

 でもこれって、米国でも大きな問題になってる格差社会の縮図でもあるし、文化と経済の対立でもある。先進国と途上国と言ってもいい。それぞれの価値観を象徴するキャラになってるのよね。そんな中、個人的にツボだったのがジョディ姐さん!

otonasub-4.jpg
神経質そうなババアを演じさせたら、ジョディ姐様にかなう者はいません!

 ジョディさんといえば、『告発の行方』でぷるぷる震えながらレイプ犯を訴える姿で見事オスカー主演女優賞を手にした女。その後も『パニックルーム』とか、なーんかいつもピリピリしているイメージでした。『フライトプラン』の時なんか、「ギャー! 息子が誘拐されたー! 飛行機じゅうがアタシの敵よー!」とか騒いでる姿を見て、設定を知ってるはずの観客まで「ジョディ、本当にただ頭のおかしいヒステリーババアってだけなんじゃ……」と思わされたくらい、イライラ演技の達人なのです。

 今回もそのスキルを思う存分に生かして、「あー、こういう文化系オバさんいるいる!」ってな、悪い人じゃないんだろうけど面倒くさいかんじ全開。そういう人が、芸術や人権問題に関心があるってのも本当に意地悪な設定だけど、ウン、説得力あるわー。

 逆に、ケイトさんはケイトさんで、上辺が大事なクールぶった女を見事に演じてます。そらそうよね。氷の海に浮かぶ板の上からデュカプリオを引きずり下ろして、自分だけ凍死を免れたような女ですもの!(名作を冒涜)。どちらの女優さんも、持ち前の魅力を存分に生かしてるわ。

otonasub-3.jpg
おキレイな金持ち女側に、ズッコケさせたり、ゲロ吐かせたりするのも、
ロマン監督のプレイみたいなものかしら……

 さすがに部屋の中の4人のケンカだけでずっと持つのか心配だったけど、会話のセンスとエスカレートの具合が絶妙なので、意外なほど退屈などしないまま、楽しく「おとなのけんか」観戦を楽しませてもらえました。まあ79分って時間もよくわきまえてらっしゃる。

 役者陣は完璧だと思うし、内包しているテーマは深いし、いわゆる「ウィットに富んだユーモア」満載だし、間違いなく良く出来たおもしろい映画でした。

 ……ただ正直言うと、アタシみたいなキワモノ好きオカマがわざわざ褒めなくても、他の映画好きな皆さんが十分に評価してくださるタイプの映画だよなーと、微妙なテンションでもあるのよね。あまのじゃくなアタシには、あまりにもスキのない秀才的なデキが、どこか鼻持ちならなく感じちゃうというか。

 まあ話が戻っちゃうけど、こんな、ゲロ吐いても知性と品にあふれた世界を描けちゃう監督が、プライベートではたいがいなことしてて、アカデミー賞をくれたアメリカに入国もできないっていうこと自体、なんだか壮大におちょくられてる気もするしね。あーん、監督に踊らされてる感じ。うっかりセクシーネームめッ!

burubonne06.jpg

ブルボンヌ
全国クラブのお笑いショウや試写会テキトーMCで活躍中の女装パフォマー/ライター。『レコチョク』(ケータイサイト)等に寄稿しつつ、新宿2丁目ゲイミックスバーのママ業もこなす。芸能通のゲイたちと一緒にオカマなブログ『Campy!』もプロデュース中。

『おとなのけんか』
2組の夫婦が子ども同士のケンカを解決するため顔を合わせ、話し合いを始める。理性的に始まった話し合いも、時間がたつにつれ各々の本性が剥き出しになりヒートアップ。不満や本音をぶつけるうちに、それぞれの夫婦間の問題もあらわになっていく。

TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショーで公開中
公式サイト

【バックナンバー】
・第一回 ブルース・ウィルス『サロゲート』
・第二回 メリル・ストリープ『恋するベーカリー』
・第三回 ペネロペ・クルス、ニコール・キッドマンなど『NINE』
・第四回 ガボレイ・シディベ『プレシャス』
・第五回 『セックス・アンド・ザ・シティ2 』
・第六回 アンジェリーナ・ジョリー『ソルト』
・第七回 大竹しのぶ『オカンの嫁入り』
・第八回 クリスティーナ・アギレラ&シェール『バーレスク』
・第九回 ヘレン・ミレン『RED』
・第十回 ダコタ・ファニング『ランナウェイズ』
・第十一回 ジュリアン・ムーア『キッズ・オーライト』
・第十ニ回 ジュリアン・ムーア『クロエ』
・第十三回 シアーシャ・ローナン&ケイト・ブランシェット『ハンナ』
・第十四回 水野美紀、冨樫真、神楽坂恵『恋の罪』

最終更新:2019/05/17 21:05
アクセスランキング