[連載]海外ドラマの向こうガワ

吸血鬼ブームの反動? ゾンビドラマ『ウォーキング・デッド』人気の要因とは

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『ウォーキング・デッド DVD-BOX』/角川書店

――海外生活20年以上、見てきたドラマは数知れず。そんな本物の海外ドラマジャンキーが新旧さまざまな作品のディティールから文化論をひきずり出す!

 アメリカのB級ホラー映画界で不動の人気を誇るキャラクターといえば、ずばりゾンビである。視覚的に刺激的で、いつどこから襲われるか分からないというゾクゾクするスリル感。容赦なく無差別的に、そして黙々と人を襲うゾンビは、アメリカ人にとって恐怖のツボをピンポイントに突く存在なのである。

 そんなアメリカで大人気のゾンビだが、そのルーツはコンゴにあると言われている。コンゴで信仰されていた不思議な力を持つ神「ンザンビ」が、アメリカに連れてこられた奴隷たちの口伝えによりいつの間にかお化けという意味の「ゾンビ」に変わってしまったというのだ。初期のゾンビは魂のない体だけの奴隷のようなもので、1932年にゾンビが初登場した映画『ホワイト・ゾンビ』でも、機械のような奴隷マシーンとして描かれている。

 今日の、人間を襲い食べる恐ろしい存在として描かれたのは、1968年に公開されたジョージ・A・ロメロ監督の『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』。この作品では、白人ゾンビの大群が、黒人の主人公たちを襲う姿が描かれ、ゾンビが人肉を貪るというシーンは、当時世間に大きな衝撃を与えた。そして、同監督が次に手がけた『ゾンビ』では、「ゾンビは生きている者の新鮮な肉を食す」「倒すには頭部を破壊しなければならない」という、ゾンビ方程式なるものが作り出された。

 ゾンビに噛まれると自分もゾンビになってしまう、というのもゾンビ映画のお決まりである。自分もゾンビになってしまうかもしれないという、怖いけれどどこかワクワクしてしまうという設定にもアメリカ人は心惹かれるのだろう。彼らのゾンビ願望は相当なもので、なんと、全米各地でゾンビになりきり街を練り歩くというイベントまで開催されているのだ。

 「ゾンビ・ウォーク」と呼ばれるこのイベントは、2001年8月にカリフォルニア州サクラメントで映画祭のプロモーションとして開催されたのが始まりだとされる。みんなでゾンビのメイクをし、ボロボロの服を着て足を引きずりながら歩くという「ゾンビ・ウォーク」はたちまち全米中に感染し、その数も400人から2,000人、7,000人と増えていった。カナダやオーストラリア、アイルランドやメキシコなど、海外にも飛び火し、昨年10月末には札幌で日本初の「ゾンビ・ウォーク」が開催。ギネス世界記録を目指し、世界各地でゾンビになりきった人たちが歩き回るという異様なイベントが行われるようになったのである。

 B級ホラー映画だけでなく、『バイオハザード』などの大ヒット映画でも、人々の恐怖感をあおってきたゾンビたち。そのゾンビが毎週、大量に登場するテレビドラマが、2010年のハロウィーンの夜に放送開始した。ゾンビが苦手な女性も、思わず最後まで見てしまうほど内容の濃いホラードラマ『ウォーキング・デッド』である。

 物語の主人公は、アメリカ南部ジョージア州の小さな町に住むヤングミドルの硬派な保安官代理・リック。追跡していた逃走犯との銃撃戦で胸を撃たれ、搬送先の病院で昏睡状態に陥ってしまった。彼の意識が戻った時、病院は荒れた廃墟へと変貌し、この世のものと思えぬような不気味な者たちがうごめいていた。外には大量の死体が並べられていたが、生きている人間はどこにもいない。妻子の安否が気になるリックは自宅へと急ぐが、そこはもぬけのからだった。

 荷物を持って出た形跡があることから、家族はどこかへと逃げたのだと確信した彼は外へと出るが、そこで黒人の男の子に襲われる。男の子はリックを、町を破壊する恐ろしいゾンビの一人だと誤解していたのだ。その子の父親に助けられた彼は、ゾンビが人間を襲い、噛まれた者は次々とゾンビになり、町を破壊しているという恐ろしい事実を聞く。会話も交渉も説得も不可能なゾンビ相手では、逃げるか、倒すか、殺されるしかない。果たして、主人公の妻子は生きているのか、再会できる日は来るのか。リックの長い長い戦いが始まる。

 放送開始前、まさかゾンビが毎週テレビで流れることになるとはと嘆く声もあがったが、多くの男性視聴者はこの作品を大歓迎したという。女性がヴァンパイアにファンタジーを感じるように、男性にはゾンビ好きが多いからである。近年のロマンチックなヴァンパイア・ブームに辟易していた男性陣は、大胆不敵でグロテスクなゾンビたちがうごめきまわる、このドラマを大歓迎した。そして、第1話を見た彼らは、期待以上の内容だと大喜びしたのである。なぜならば、この作品、男性の大好きな「猛スピードで走り回る車」と「銃でバンバン撃ちまくる」シーンが満載だからである。

 ゾンビは頭部を撃てば止まるという設定なので、同作には、額を打たれ血を吹きながら倒れるゾンビが何体も画面に映し出される。銃で撃ちまくるシーンが多すぎて、同作に影響される者が出てくるのではないかと心配になってしまうほどだが、アメリカ人にとってはゾンビは死んでいる者、人間ではない者なので、問題ないとされている。

 生き物のはらわたを貪るゾンビたちのシーンも登場し、グロいことこの上ない『ウォーキング・デッド』だが、実は女性ファンも少なくない。しっかりした枠組みでストーリーが展開する作品であり、見る者をぐいぐいと惹き込んでいくからである。

 実はこの作品、ロバート・カークマンの人気グラフィック・ノベルが原作となっており、ただゲームようにゾンビを倒しまくるだけでなく、ゾンビも元は人間だったのだとリスペクトするヒューマン的な要素も組み込まれている。女性が、ついホロッとくるシーンや、主人公の孤独感が伝わるシーンも要所要所で流れるため、感情豊かな女性視聴者も獲得できたのだろう。米紙「ウォールストリート・ジャーナル」の女性批評家も、「パイロット版(第1話)は私のようなゾンビ嫌いの者をも、惹きつける素晴らしい作品に仕上がっている」と高く評価したほどである。

 番組プロデューサーは、最先端のCGや特殊メイクを駆使して、原作を忠実に実写化することに成功したと自負している。その言葉の通り、顔が半分腐敗しているゾンビだけでなく、廃墟的な町の雰囲気や、主人公が持つヒーロー独特の雰囲気までをも、まるでノベルから抜け出てきたように映像化されている。グロテスクなシーンがてんこ盛りのホラー作品であるにもかかわらず、権威あるゴールデン・グローブ賞やテレビ批判家協会賞にもノミネート。業界人からもクオリティーの高い作品だと評価されているのである。

 ここ数年、ヴァンパイア・ブームに押されて影の薄い存在になっていたゾンビ。『ウォーキング・デッド』をきっかけに世界的なゾンビ・ブームが巻き起こる日は、そう遠くはないだろう。

堀川 樹里(ほりかわ・じゅり)
6歳で『空飛ぶ鉄腕美女ワンダーウーマン』にハマった筋金入りの海外ドラマ・ジャンキー。現在、フリーランスライターとして海外ドラマを中心に海外エンターテイメントに関する記事を公式サイトや雑誌等で執筆、翻訳。海外在住歴20年以上、豪州→中東→東南アジア→米国を経て現在台湾在住。

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