ドルショック竹下の「暴走リビドー綺譚」

70歳M男の「ヤプー」志願を受け入れた”SMネイティブ”女の遊戯

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(C) ドルショック竹下

 彼女の携帯には時折、公衆電話から着信が入る。電話に出ると、道路沿いなのか頻繁に車両が通過する音。そして、ボソボソとおぼつかない発声で喋る高齢男性の声。

「……してしまいました……つきましてはサヤカ様に、お仕置きを与えていただきたく……」

 声の質からして70は過ぎているだろうか。孫の年と言ってもおかしくない彼女に対して、馬鹿丁寧な言葉遣いで懇願する。その様子は哀切そのものだ。一方彼女は顔色一つ変えず、電話の相手とアポイントメントを取り交わす。そう、彼女は電話の主と私的に奴隷契約を結んでいるのだ――。

 サヤカは27歳の事務員。細身な身体に和風な顔立ちの美人だが、化粧っ気はなく、私服もジーンズにスニーカーとかなり地味なタイプである。そんな彼女がなぜ、70歳過ぎのおじいちゃんを奴隷にするに至ったか。

 団地住まいの母子家庭、加えて一人っ子だったサヤカは隣の部屋に住む幼なじみの男子と遊ぶことが多かった。その男子には10歳以上年上のお姉ちゃんがおり、美人で面倒見のいいお姉ちゃんは、サヤカを実の妹のように可愛がってくれていた。

 小学校低学年の頃だったか、いつものようにお姉ちゃんを含め数人で遊んでいると、サヤカが負け、罰ゲームを課されることとなった。罰ゲームの内容とは……「お尻ペンペン」。正座したお姉ちゃんの膝に抱きかかえられるようにして、パンツを下ろされ、友達が見ている中「ペチーン、ペチーン」と平手でお尻を叩かれたのだった。実際には1分足らずの出来事だったであろう。しかしサヤカにはかなりの長時間に感じられた。大好きなお姉ちゃんに、みんなの前でお尻を叩かれる……痛い、恥ずかしい、でも……。お腹の奥底から甘やかなものがこみ上げてくる。今思えば、あの時は絶対濡れていたはず。サヤカの中でSM趣味が萌芽した瞬間であった。

 彼女のSM趣味は、その後1ミリの歪みもなくスクスクと成長していくこととなる。ボンデージファッションのデザインや素材感も当然のように大好きで、ローリー寺西のボンデージ衣裳に心ときめかせたり、中学生にして渋谷のSMグッズ店に行き首輪や腕輪を購入したりもした。物心つく頃にPCやインターネットが身近にある世代の子供たちを「デジタルネイティブ」と呼ぶが、それと同様に、サヤカが成長する過程にはSMにまつわるものが手の届く範囲にあった。そんな「SMネイティブ」の彼女が、大学生になってSMクラブのバイトを選んだのは全くもって自然なことだった。

 東東京にあったSMクラブで女王様のバイトを始めて半年。その夜は長時間の予約が入っていた。店に出勤すると、ベテランの美人ママが電話口で怒っている。なんでも1時間以上、道に迷っているM男の客がいるのだとか。わざと怒られるために道に迷っているのか、はたまた天然の方向音痴か……「SMクラブの切り盛りも大変だな」などと思いながら、サヤカは予約の入ったホテルへと向かった。3時間後、店に戻ってみるとママが当惑した顔で「あの道に迷ってた客なんだけど、アンタを指名したいって1時間以上待ってるのよ……」と言うではないか。「断ってもいいからね」と言われたが、特に気にすることなく受けることにした。

 驚いたのは、指定のホテルに到着し、部屋へ入った瞬間だった。その男性客は土下座して「貴女様のヤプー(奴隷)にしてください」と言ってのけたのだ。風俗情報誌か何かでサヤカの在籍写真を見て、一目惚れしたのだという。

「自分の世界に入り込んでるM男が来ちゃったなあ、話できるかなあ……」

サヤカの当惑をよそに、60代後半と思われる男はその白髪頭をカーペットに埋没させている。一通りのプレイを終えても、相変わらず「奴隷に!」と聞く耳を持たない。通常、店では客を私的に奴隷とすることは禁止されているが、おじいちゃんのあまりの熱意に根負けした。よくよく聞くと経済的余裕も社会的身分も十分にあり、おかしいことにはならないだろうと思った。「1回プライベートで会って、ヤバい奴だったらやめちゃえ」……こうしてサヤカは軽い気持ちから奴隷を飼い始めることになった。

 奴隷調教というと「S(=女王様)がM(=奴隷)に被虐の悦びを教え込むこと」というイメージがあるが、実際は全く逆で「Mの被虐願望をSが叶える」ことの方が多い。おじいちゃんもその構図に則って、長年頭の中で育て続けてきた願望をサヤカにぶつけてきた。おじいちゃんの願望はSM文学の金字塔である『家畜人ヤプー』(沼正三著)の「ヤプー」になること。つまり、人間としての権利は与えられず、椅子や便器など人間に仕える器物となることだ。サヤカが「1の1!」と言えばおじいちゃんは四つんばいになり、「1の2!」と言えばおじいちゃんが正座し、顔にサヤカを座らせる。「1の3」はおじいちゃんが仰向けに寝て顔面騎乗である。その条項は会うたびにどんどん増殖していき、サヤカすらきちんと把握していない。また、サヤカの部屋を訪れた時には片付けや家事もこなし、サヤカの母親が暮らす実家に連れて行かれた時などは、母親までもがおじいちゃんをアゴで使い、掃除洗濯をさせる始末(おじいちゃんはそれを「二代にわたって仕えるのはM男の夢!」と感激しているとか)。

 そんな関係を、サヤカは店を辞めてからも続けている。もう6年になるだろうか。決して恋人ではない、セフレでもない。女王様と奴隷という不思議な関係。おじいちゃんは1回会うたびに数万円を彼女に渡しているが、彼女自身が「金持ってこい」と言ったことは一度もない。どこかビジネスライクではあるものの、仕事ほど肩に力が入るものではない。

「限られた心の部屋で遊んでいるだけ」

 サヤカはふたりの関係をこう表現する。ごく普通の仕事、ごく普通の結婚……ごく普通の人生を送りながら、M男であることをひた隠しに半世紀を生きるおじいちゃん。一方、自らのSM願望に疑問を持つこともなく、普通の人生の一部として自然にSMが備わっているサヤカ。そんな対照的なふたりが、共通の心の部屋で決められた役割(ロール)を演じて遊ぶ。その光景は「奴隷契約」という言葉の禍々しさとは裏腹に、限りない優しさに溢れてはいないだろうか。

『劇画家畜人ヤプー【復刻版】』

いつか言いたい名言として心にメモりました

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