[連載]海外ドラマの向こうガワ

『グッド・ワイフ』が描く、浮気された妻による「キャリア」と「家庭」の両立

2011/11/22 11:45
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――海外生活20年以上、見てきたドラマは数知れず。そんな本物の海外ドラマジャンキーが新旧さまざまな作品のディティールから文化論をひきずり出す!

 離婚大国として知られるアメリカだが、実のところ離婚率は1981年をピークに年々低下している。日本人女性はアメリカ人女性に比べて、耐え忍ぶ妻が多いとよく言われる。しかし、アメリカにも日本人以上に耐え忍ぶ妻が存在するのだ。その代表的な存在が、セックス・スキャンダルを起こした政治家たちの妻である。

 アメリカでは政治家の妻には才女が多い。高学歴で弁護士などのステイタスの高い仕事をしてきた女性も少なくない。夫を捨てても経済的に苦しむことはないのだ。しかし、彼女たちの中には、自分を侮辱した夫を許し、夫の顔をたてるためにセックス・スキャンダルの釈明/辞任会見に立ち会う者がいるのである。元ニューヨーク州知事エリオット・スピッツァーの妻でハーバード・ロー・スクール卒の法務博士シルダや、アメリカ合衆国上院議員デイヴィッド・ヴィッターの妻で元検察官のウェンディ。会見には立ち会わなかったが、離婚はせず夫をサポートすると声明を出したビル・クリントン元大統領夫人で現国務長官のヒラリー・クリントンも、夫を支えてきた我慢強い妻であった。

 政界を揺るがせたスキャンダルも時の流れと共に忘れ去られてしまうもの。しかし、妻の心の痛みはそう簡単に消え去るものではない。不貞を働いた夫にセカンドチャンスを与えた妻たちは、その後、どんな気持ちで夫に接し、家庭を切り盛りしているのか。2009年9月22日、このことをテーマにしたテレビドラマの放送が開始された。大手新聞紙やエンターテイメント誌から大絶賛されている法律ヒューマン・ドラマ『グッド・ワイフ』である。

 物語の主人公は、シカゴ州検事との結婚をきっかけに弁護士の職を辞し、家庭に入ったアリシア・フロリック。しかし、信じていた夫に収賄疑惑、さらには売春婦とのスキャンダルが発生。動かぬ証拠もあり、彼女は激しく動揺する。しかし、呆然と立ち止まっている場合ではない。夫の裁判にかかる莫大な費用を稼ぎ、ふたりの子どもたちにこれまで通りの暮らしを与えねばならないのだ。アリシアは首席で卒業したロースクール時代の友人に声をかけてもらい、彼が共同経営する法律事務所に弁護士として復帰。夫から裏切られた心の傷を抱えながら、13年ぶり復帰した弁護士業で世間の荒波にもまれていく。

 多くの夫、特に社会的地位のある夫は、自分が何をしても妻は必ず待ってくれるという身勝手な幻想を持つ。しかし、裏切られた妻は何十年経ってもふとした瞬間にフラッシュバックが起こりパニック症を起こす者もいる。一度壊れてしまった信頼は、二度と戻ることはない。ドラマの中でも、一段落したらすべてが元に戻るとのん気に考える夫と、夫に対してソフトな愛情表現をしながらも、いかに酷いことをしてきたのかを再確認させるような冷ややかな行為をとる妻の温度差が描かれている。ふたりは縮まったかと思えば離れたり。絶妙なバランスの元、妻は家庭を立て直そうと努力する。このような繊細な心の描写が、放送直後から女性視聴者の多くの支持を得た。

■「キャリア」と「家庭の両立」を巡る女性たちの鋭い眼差し

 法律事務所で働き始めたアリシアは、13年というブランクを感じながらもさまざまな訴訟に挑む。しかし、法廷では元シカゴ州検事の妻という目で見られることも多く、夫の付属品として見られているというジレンマを感じる。家庭に入ることは悪いことではない。アメリカも専業主婦は多く、プライドを持ち家庭を切り盛りしている。しかし、世間からすれば、彼女たちは夫あっての存在と捉えられることが多いのだ。男女平等を謳うアメリカだが、まだまだ男尊女卑の色は濃く、ドラマを一層リアルに演出している。

 作品では、世代の異なる女性たちが「キャリア」と「家庭」に対してどのように考え、捉えているのかも描かれている。女性がキャリアを極めるのには家庭を犠牲にしなければならないと考え、仕事に生きてた50代の女性弁護士ダイアン、女性にとって一番大切なのは家庭だと考えているアリシアの夫の実母ジャッキー、キャリアと家庭を両立させようと奮闘する40代のアリシア、それをシビアな目で見るアリシアの10代の娘グレイス。

 本作品は、法律ドラマとしても十分に面白いのだが、このドラマは「グッド・ワイフ(妻)」であり、「グッド・ロイヤー(弁護士)」ではない。弁護士に復帰したアリシアは、バリバリ活躍するようになるわけではない。この作品は、あくまで、アリシアが人生最大の変化の中を、妻として母として、弁護士として、そして一人の女性として、どのように歩んでいくのかに焦点が当てられているのである。

 また、忘れてはならないのが、アリシアも生身の女であるということ。夫の不貞を悲しみ、信じられるのか不安な気持ちに悩まされるが、そんな時期もいつかは過ぎる。浮気された妻の気持ちが、時間の経過と共に、どのように移行するのかが描かれている。シーズンを重ねるごどにアリシアと夫の関係がどうのように変化するのか、家庭にどのような影響をもたらすのか目が離せない。その点が、手厳しいアメリカのテレビ評論家たちからも高く評価させる理由だろう。

 聡明で思慮深いアリシアの気持ちに、もし自分が夫や彼に浮気をされたら、という気持ちを投影しながらドラマを見ると楽しさは倍増する。アリシアに心の平和が訪れる日は来るのか、野心が強いエネルギッシュな夫が改心する日は来るのか、家庭は元に戻れるのか。先の見えないストーリー展開に、多くのファンが注目している。

堀川 樹里(ほりかわ・じゅり)
6歳で『空飛ぶ鉄腕美女ワンダーウーマン』にハマった筋金入りの海外ドラマ・ジャンキー。現在、フリーランスライターとして海外ドラマを中心に海外エンターテイメントに関する記事を公式サイトや雑誌等で執筆、翻訳。海外在住歴20年以上、豪州→中東→東南アジア→米国を経て現在台湾在住。

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カリンダが魅力的。

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最終更新:2011/11/22 11:45
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