[連載]マンガ・日本メイ作劇場第16回

56巻でも未完! 『王家の紋章』の乙女ゲー的世界はいつまで続くのか?

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『王家の紋章』56巻(細川智栄子あ
んど芙~みん、秋田書店)

――西暦を確認したくなるほど時代錯誤なセリフ、常識というハードルを優雅に飛び越えた設定、凡人を置いてけきぼりにするトリッキーなストーリー展開。少女マンガ史にさんぜんと輝く「迷」作を、ひもといていきます。

 ここ数年、「乙女ゲーム(乙女ゲー)」というジャンルが花盛りだ。通常のゲームと違い、敵が襲ってくるわけではなく、ゆえに恐ろしいラストボスがいるわけでもなく、何かをひたすら破壊するでもなく、迷路を攻略するでもなく、ただただ男とイチャイチャする過程を読むのみのゲームである。もともと女は、なにかを攻略したり敵を倒したりという狩猟的な行為にあまり興味がないので、女の興味の引く方向を煮詰めていったら、ハーレクインばりの物語を読むだけになっちゃった、ということなのだろう。

 乙女ゲーは、複数の男から言い寄られたりしながら、自分の好みの男を選んで、そいつとの恋愛ストーリーを楽しむゲームだ。強力なライバルなどは登場せず、マイナス要素はあってもささやかで、基本はただひたすらヒロイン(自分)がモテまくるという設定だ。

 少女マンガ界屈指の長寿連載『王家の紋章』は、驚くほど乙女ゲーの世界観に似通ったマンガである。現代から古代エジプトへタイムスリップしたキャロルは、時の国王・メンフィスに愛されることになる。それだけだったら3巻くらいで終わってたはずだが、このキャロル、次々と現れる隣国の王たちにやたら好かれて追いかけ回されるのである。

 で、ホントにさらわれては、メンフィスに連れて戻され、またさらわれて、戦争起こして戦いながら助けてもらって……を繰り返して、とうとう56巻。自分に恋い焦がれた男たちが争ったり自分をさらったりしたら、さぞかし気分がよかろうよ。それをもう少し大人しく倫理的にことを解決しようとしているのが、乙女ゲーって感じ。

 ところでこの状況、ひとつ思い出すキャラがいるではないか。

 数々の困難を乗り越えて主人公が助けに来たら、「Thank you Mario!」と礼を述べただけで、次のシーンではなんのためらいもなくまたさらわれている、あの大作ゲームのピーチ姫である。よく考えたら、『スーパーマリオブラザーズ』って、化け物にさらわれた姫をひたすら、死んでも死んでも助けに行く男(腹は出てるけど)の話なわけで、けっこう女萌えのストーリーである。で、キャロルのさらわれっぷりは、まさにピーチ姫のごとき。古代エジプトの王と結婚して、そのために現代に帰ることを諦めたキャロルだけど、なんだかんだで他の国にいることの方が多いんじゃないのか。そのたびにメンフィスは、キノコ頭兵士を踏みつぶして、キャロルを助けに行くのである。

 それにしてもキャロルは、「金色に光る髪と白い肌を持つ」とか言われてるわけだけど、エジプトの城では炎天下の庭をウロウロ、さらわれればアウトドアの旅。56巻中、とめどなくさらわれ続けているわけで、日焼け止めもない古代なのだから、今ごろ髪はパサパサ、肌はこんがり焼けているはずではないのか。こういうところから、『王家の紋章』がフィクションだというのが分かろうというものである。

 こうしてメンフィスが迎えに来るころ、キャロルはたいてい熱が出たとかケガをしたとかで寝込んでいて、まったく役に立たなくなっている。ゴロゴロ寝ながら、「エジプトに帰りたいわ……。メンフィス……」とか言って泣いている。「身体が動かないわ……」とか言って、全身にスクリーントーン貼られて灰色になってるキャロルを助けに来たメンフィスは、その痛々しい姿に激しく萌え、心を刺激されるらしい。

 さらわれて、けがさせられて、病気になって。それをひたすら繰り返して56巻。全体的に漂う、この濃いマゾムード。これ読んで育った女たちは、けっこうな確率で男にいじめられたいマゾっ子になっているに違いない。ダメな男を渡り歩く「だめんず」女の何割が『王家の紋章』ファンなのか、調べてみたいぞ。

 乙女ゲーやって育った女たちがどうなるのか、たぶんここまでマゾっ子にはならないとは思いますが、それは30年後のお楽しみ。

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和久井香菜子(わくい・かなこ)
ライター・イラストレーター。女性向けのコラムやエッセイを得意とする一方で、ネットゲーム『養殖中華屋さん』の企画をはじめ、就職系やテニス雑誌、ビジネス本まで、幅広いジャンルで活躍中。 『少女マンガで読み解く 乙女心のツボ』(カンゼン)が好評発売中。

「王家の紋章 56」

wikiの「完結について」の項目が素敵でした

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