「余白のエロ」が女を疼かせる

ビジネスとしての展望は? 作家・宮木あや子が語る、女性が感じる官能小説

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 「官能小説」と聞いて、貴女は何を思い浮かべるだろうか。キオスクの片隅でおじさまたちの購入を待ちわびる、愁いの表情を浮かべた半裸の女性(の表紙)、声に出して読みにくい、独特の性表現世界……。しかしそうした従来の官能小説イメージを覆す意欲作が、今、女性作家の手から次々と生まれている。特に、女性が描く「性」をテーマ(※)にした「女による女のためのR-18文学賞(以下R-18文学賞)」は、第24回山本周五郎賞を受賞、2011年本屋大賞2位を獲得した窪美澄氏を世に送り出すなど、担っている役割は大きい。自身も『花宵道中』(新潮社)でR-18文学賞を受賞、また同賞受賞者とともにチャリティー同人誌「文芸あねもね」を発売した作家・宮木あや子氏に、官能小説界の現状や「文芸あねもね」について、話を聞いた。

――最近では女性誌でも官能小説を取り上げる媒体が増え、官能小説に興味を持つ人が増えている気がします。宮木さんは作家の立場で、どのような手ごたえを感じていますか?

宮木あや子氏(以下、宮木) 「an・an」(マガジンハウス)のSEX特集では毎回官能小説が紹介されたり掲載されたり、少しずつ門戸が広がっているという感じはあります。書き手が活躍できる場所も少しずつ増えています。「小説宝石」(光文社)など文芸誌での官能特集は恒例になってますし、コバルト本誌(集英社)でも官能小説を載せ始めたんですよ。「GINGER L。」(幻冬舎)などでも1本は官能が入っていますね。

――それでも官能小説が爆発的に受けないのは、なにが壁となっているのでしょうか。

宮木 まず「表紙」。ガーターベルト姿の女性や緊縛女性が描かれていたら、一般的には買いにくいですよね。単行本版『花宵道中』の表紙も、最初は完全に胸が出ている女性の姿だったのを、女性が手に取りやすいよう、少し控えめに(笑)。「表紙」の他に、「棚」の問題もありますね。ばっちり官能小説コーナーにあるでしょ。割と、物理的な問題だったりします。作品の内容も、「しとどに濡れそぼった○○に、いきりたった××を……」っていう従来のイメージですよね。「俺のエッフェル塔をお前の凱旋門に」くらい突き抜けてればギャグとして通用すると思うのですが(笑)。

――そういった紋切り型の表現を多用するのは男性作家に多いような気がしますが、男性が書く官能の世界と、女性が書く世界が決定的に異なるところは?

宮木 女性の場合は、自分がやられたらイヤなことは書かないんじゃないかな。男性が書いたものを読んで「こんなので女は感じないよ!!」と憤慨したことは何度もあります。もちろん素晴らしい作品も多くありますが、男性作家が書く官能小説は欲望にストレートで、読み手が感じる余白が少ないような気がします。女が、「性欲処理のための袋」のような扱いになっていて驚くことも。

――ご自身が官能小説を書く際に気をつけていることは?

宮木 ズバリ、ヌケるかヌケないかです(笑)! 性を表現するときに「芸術か猥褻か」という論争が必ず沸き起こりますが、それは要するにヌケるかヌケないか。しかし、「女性にとって実用的」というのがとても難しい。リアルな性表現を多用するだけでは満足してもらえない気がします。「余白」にどれだけのエロを感じてもらえるか、だと。

――『花宵道中』を拝読して感じたのはまさに「余白のエロ」です。性行為の記述ではなく、例えば肌の質感の表現などから匂ってくるというか。

宮木 『花宵道中』はあくまでもノーマルな女性を疼かせたいと思って書きました。結果、「すごくエロい!」って言ってくださる方が多くてうれしかった。普通の女性のヒダにグッとくるもの、それを突きつめていったら結局の所「自分がされて嫌なことは書かない」だったんですよ。

――女性の欲望を満たしてくれる官能作品といえば、ティーンズラブ(TL)に代表されるコミックもあります。特にTLは携帯という非常にパーソナルなツールで官能を楽しめるとあって市場が拡大しています。

宮木 私は3.11からしばらく、読めない書けない日々が続きました。というのも活字は体力を使うから。頭の中で物語を再構成するのと同時に読み進めなければならないので疲れますし、マンガよりも遠回り。その代わり十人十色の脳内映像が楽しめるわけです。妄想という3D映像がね。その興奮を一度でも知ってしまったらこっちのもの(笑)。そのためにも、自分の魂と寄り添える作家を見つけて欲しいと思います。

――「魂と寄り添える作家」というのは、官能小説に限らずこれからの活字文化を占う上で重要なポイントのような気がします。宮木さんやR-18文学賞受賞者が中心になって作られた同人誌「文芸あねもね」には、決してオカズ的要素はありませんが、別の側面から見ると大変エロい。随所から女の息づかいが聞こえてくるようです。

宮木 先ほどの話の続きになってしまいますが、私は3.11後に活字の偉大さを逆説的に知りました。ならば活字で救える日常もあるはずだし、その一助になりたいと思い「文芸あねもね」を作ったのです。特にテーマを設けたわけではないのですが、1冊にまとまったものを読むと、自然とカラーが出来上がったのが不思議ですね。積極的に電子書籍を選んだわけではありませんでしたが、結果的に「全額寄付」という当初の目的を達成出来て満足してます。

――今後、第二弾の予定はありますか?

宮木 まずは「文芸あねもね」を長く愛でていただきたいので当分予定はないと思いますが……そうですね、せっかくの面子ですから「官能あねもね」を作っても面白いかも(笑)。それこそ官能小説にハードルを感じている女子たちの入門書になるようなものをね。
(文・インタビュー=西澤千央)

※「R-18文学賞」は今年度から「性」の制約が無くなる

宮木あや子(みやぎ・あやこ)
1976年神奈川県生まれ。 2006年「花宵道中」で第5回女による女のためのR-18文学賞 大賞 ・ 読者賞受賞。 近著に『憧憬☆カトマンズ』(日本経済新聞出版社)、『雨の塔』(集英社文庫)、10月25日発売の『セレモニー黒真珠』(MF文庫ダ・ヴィンチ)など。

「文芸あねもね」
東日本大震災への復興支援を目的に刊行されたチャリティー同人誌。直木賞作家である山本文緒氏をはじめ、豊島ミホ氏、宮木あや子氏らR-18文学賞受賞作家たちが「誰が読んでも価値のある物語」をテーマに短編小説を寄稿。収益は全額被災地へ寄付される。
公式ブログ
「文芸あねもね」』販売ページ

『花宵道中』

女を濡らすって本当に難しいッスよ

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