【連載】探偵はみた!

探偵は見た! 「秘密結社がワタシを狙っている」妄言女の依頼とは

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Photo by shannonxia from Flickr

 嫉妬、恨み、欲望、恐怖。探偵事務所を訪れる人間の多くがその感情に突き動かされているという。多くの女性の依頼を受けてきたべテラン探偵の鈴野氏が、現代の「女の暗部」を語る。

「この間、夜10時ごろに突然女性の依頼者から『来てくれ』という電話がありまして。夜間の急な呼び出しは危険なんですよ。だから出かけるとき、相棒に『約束が10時半なので10時45分までに私の携帯からワンコールがなかったら警察に電話してくれ』と言って出かけました。現地のアパートに行ったらスーツの男が2人玄関に立っていて、これはヤバイ仕事かもな、と……。部屋に入ると、奥のドアの前にスーツの人がもう1人立っていて、ますますヤバイなと思いながらも入りました」

 普段は危ない案件は受けないという鈴野氏。探偵というと怪しいお仕事のように思えるが、近年は探偵業をするには警察に届け出する義務があるため犯罪に関わるような危険な仕事は請け負えないのだそうだ。探偵が頼まれる仕事は後ろ暗い話が絡んでいるので、深く突っ込んでしまうと逆に深みにはまってしまう。こういった場合は黙々と業務に徹するのが探偵を長く続けるコツなのだという。この時ばかりは、深夜にスーツの男たちが控えていたことから、その筋絡みかと思っていたのだが、話は予想とは全く違っていた。

「中に入ってみたらゴミだらけで、ゴミ屋敷だったんです。その真ん中に、色があせ変色した首の伸びきったTシャツを着た、曲がったメガネをかけた女が座っていて、その前にもスーツの男が1人。どうやらその女性が依頼者だったようで『盗聴されているから調べてくれ』と」

 探偵にとって、盗聴は専用機で調べれば終わる仕事。尾行や調査と違って仕事自体は白黒がつく分かりやすい業務だ。盗聴調査の仕事は多いのか? と聞いてみたところ、

「最近はだいぶ減りましたね。こういった探偵の依頼にも流行り廃りがあるんですよ。盗聴の調査は、こちらが受ける分にはいいですが、まずほとんど盗聴器が出てくることはないです」

 探している間もスーツの男性たちはただ見守っているだけで口を挟んでこない、妙な緊迫感の中、ゴミ屋敷で作業をするのはさぞや苦労が……と思いきや、逆にあちこち探査機をかける場所があった方が間が持って助かるらしい。

「結局盗聴器はなかったんですが、まったく何にもなかったと言うと依頼者が納得しない場合が多いので、たいていは『盗聴ではない電波はありましたが、盗聴器はなかった』と報告するんです。一カ所ちょっとだけ探査機の針が振れた場所があったんですね。盗聴器とは別の電波なんですが」

 盗聴の仕事でいちばん難しいのは報告だと言う。「絶対ある」と思い込んでいる依頼者と「ない」という事実が真っ向からぶつかってしまうからだ。どの依頼者も「ある」ことを前提に、探偵を呼ぶので「ない」ことに納得しないのだ。

「『これは消防・警察などの無線電波なので安心です』と言ったところ、依頼者の女性は『やっぱり!』とうれしそうに言うんです。正直、しまった地雷踏んだなと思いました。その女性は『ここ一週間くらいドアを開けると必ず救急車が停まっている。最近、ワタシを付け狙っている秘密結社がいる』と言い張る。どうしようかと思って顔を上げたら、スーツの男が目配せをしてきました。話を聞くとスーツの男たちは、そのアパートの管理会社の人だったんです。『家に盗聴器が仕掛けられている』と最初に管理会社に電話をしてきたそうなんです」

 言っても聞かないので次に探偵に電話してきたというわけだった。

「いや、その女性が危なくて……そのあとも『秘密結社と宗教法人がワタシを狙っている』と繰り返すので、『あなたを狙ってなんのメリットがあるんですか?』と聞いたんです。そうしたら『天井からネジが一本落ちて来て天井から誰かが狙っている気がしたのが始まり。理由は分からないけど狙われている』と繰り返します。盗聴器がなかった時点で調査は終わりですから、その場は管理会社の人にお任せして帰りました。でもそういうように『誰からか狙われている、見られている』という依頼は多いんですよ」

 テレビ番組で盗聴捜査が行われる場合、必ずと言っていいほど盗聴器が発見されていた記憶がある。そういう映像が心の不安定な女性に刷り込まれ「盗聴されている」という思い込みを生み出しているのかもしれない。

「テレビ番組では必ずと言っていいほど見つかりますが、実際はあんなことはありえません。盗聴の調査では、家に入ってから依頼者と私がお互い口を聞かない約束をします。本当に盗聴されていた場合、盗聴犯に聞かれてしまいますからね。そっと依頼者の家に入り、探査機の機械のスイッチを入れれば、その時点であるかないかは大体分かるんです。問題は今回のように『ない』場合、どうやって依頼者を納得させるか」

 盗聴されているのでは……と思う女性も多いと言うが、実際には盗聴されていることはほとんどない。誰かに注目されたいという願望があらぬ方向に行ってしまったケースとでも言うのだろうか。情報過剰な時代には、疑えば疑える事例が山のようにあるのだ。たいていの場合は、女性側の一方的な思い込みによるものが多い。そして思い込みの強い依頼者が後を絶たないというから困ったものだ。今日もまた探偵事務所の電話が鳴る――。
(カシハラ@姐御)

取材協力:オフィスコロッサス

『実録!探偵の世界』

ハードボイルド風味にしました

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