[連載]そうだソルティー京都、行こう

ひばりはまだ死んでいない、と錯覚させてくれる「美空ひばり座」の魅力

 京都は、世界屈指の観光地。そして女の憧れの地である。美味いもん食って、寺社を見て、お洒落して、勉強する。何でもかんでも「京都でする」のが女の憧れなのだ。女性誌はこぞって京都特集を組み、ガイド本や京都観光エッセイがボロボロ出版されている。確かに京都には歴史がある。名産品がある。美味がある……そして誰も取り上げないけれど「しょっぱい京都」もある。

 しかし京都のほんとうの魅力は、こういうソルティーなところにあるのだ。上品ぶっている女性誌では取り上げないほんとうの京都の姿を、しっかり焼き付けて欲しい。そうだソルティー京都、行こう。

【第8回 京都嵐山 美空ひばり座】

 ふと気がつけば、平成も23年。「青い500円札」を知らなければ、テレビのチャンネルも電話番号も「回す」ではなく「押す」しか知らない平成生まれが、酒を飲んで大人になってる時代だ。昭和は遠くなったものである。

 その昭和の大スター、美空ひばりの記念館が、どうしたわけか京都の嵐山にある。京都は国際的にも人気のある観光地だ。その中でも、市内の西端に位置する嵐山と、東端に位置する清水付近は、京都の中でも屈指の観光地――「観光地 of the 観光地」だ。見るべき世界遺産があり、寺も豊富、みやげ物屋もたんまりあって、ここらは「どこに行こうか」ではなく「どこに行かないか」、候補を削るのに苦労するような場所である。そんな嵐山の駅前に堂々と勝負に出たのが、「京都嵐山 美空ひばり座」なのである。

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嵐山駅前の最高級地にたたずむひばり座。ちなみにこの後ろあたりに時
雨館がありました

 ひばり座は、上品な劇場といった感じのたたずまいで、入り口では受付嬢が制服着て出迎えてくれる。こういう「偉人館」みたいなところって、しょっぱいであろう期待感が立ちこめて、めっぽう楽しみであった。入場料1,400円でどれほどのものが見られるのか。

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受付嬢が出迎えてくれる

 館内は撮影禁止であったため、ざっくり説明するにとどまってしまうのだが、いや正直、予想ほど「しょっぱくない」。3階から始まる展示は、昭和の文化・歴史に絡めてひばりを紹介していて、昭和を生きたことのある人間なら、「このラジカセ、家にあった!」とか「このおもちゃ、見たことある!」とかノスタルジックな懐かしさに胸震えることだろう。

 しかし「ビバ! ひばり!」な展示には、やはりほころびがある。ここで見せてくれる映画は、最後がなんだかブツ切れ。ひばり誕生から彼女の人生を紹介する展示も、「いつ、何で亡くなったのか」まったく展示がないのである。「ひばりちゃんが死んだことなんて、悲しくて紹介できないのよ」ということなのだろうか。病気したところまでは展示があるのに、その先が霧に包まれた感じなのだ。実はまだ生きてるとか?

 展示は、歩を進めるごとに「昭和文化の紹介」という大衆に迎合した姿勢が薄れて行き、ひばりオンリーな展示に変化していく。展示は、3階から1階へ向かって下りながら見ていくのだが、2階ですでに「音楽と映画のひばり」でいっぱいになり、昭和の歴史はかけらも登場しないのだ。うまい構成である。

 さて、これまでの場所でもソルティー観光地の条件をいろいろ列挙してきたが、最近、新たな条件を発見した。行けば「しょっぱい事件が起こる」というものだ。

 実はこの取材、経費をケチって「入場料と食事付きで半額の1,400円!」というクーポン、正月におせち事件で一躍有名になった、話題のネットサービスでチケットを買っていったのであった。一通り展示を見終わり、予約の時間にレストランへ。

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でも説明員のおばちゃんがうどん食ってる以外は誰も
いません

 席について「ひばり御前」というお弁当を頼み、パシャリと記念撮影して、いただいた。たけのこご飯、湯豆腐、煮物……。どれも京風で上品な薄味だ。えっとこれは、ほうれん草とおからの和え物か……。もぐもぐ……。……。こ、これは……。

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魅惑のひばり御前、湯豆腐付き

 ほうれん草の青臭い香りも、おからのホクホクとした豆の香りもまったくなく、ちょっぴり生ゴミ風味。口に入れたものを出すのもなんなので、一口くらい飲み込んじゃおうかとも思ったけど……、いや、ごめんできません!

 さっそく店員に知らせると、すぐにその小鉢は取り下げられ、今度はオクラの和え物が出てきた。しかし一度不信感を持ってしまうと、何を口に運んでも、「これは大丈夫かな」と不安でいっぱいで味がしない。このオクラがねばっているのは、果たしてオクラだからなのかなんなのか……。

 何を食べてもおいしく感じないので、もうご馳走さまにしようと思い、おやつの三色団子を口に入れた。もぐもぐ……。……こ、これは……。

 おからは痛みやすい食材だとしても、団子があの風味になるまで、いったい何日置いていたのやら(ちなみに取材はまだ寒風吹きすさぶ3月に行われた。震災など諸々の事情で今公開されるという、何の因果か分からないしょっぱさが付きまとう)。しょっぱい観光地の取材をしに行ったのに、酸っぱい体験をしてしまいました。

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ちょっと平成の味を取り入れてみました、プリクラ

 ちなみに展示の話に戻るが、会場のここそこに等身大のひばり立て札があり、胸に立体のりんごがついている。これはなんだろうとずっと思っていたのだが、そこに手をかざすと、ひばりの声で解説が始まるのだそうだ。えっ? 受付嬢も展示の案内おばちゃんも、誰もそんな説明してくれなかったよ? 

 その説明を聞いたのが最後の方だったので、最初から見てみたかったが、なぜかこの会館は一方通行で、3階から階下に降りてしまうと、もう前の階には戻れないのだった。混んでもないから自由に見せてくれてもいいと思うのですが。

 まあ、もう少し混んでたら、すっぱいおかずが出ることもなくなりそうなので、なにはともあれ昭和を懐古する会館として、今後も頑張って欲しいものである。

和久井香菜子(わくい・かなこ)
ライター・イラストレーター。女性向けのコラムやエッセイを得意とする一方で、ネットゲーム『養殖中華屋さん』の企画をはじめ、就職系やテニス雑誌、ビジネス本まで、幅広いジャンルで活躍中。 『少女マンガで読み解く 乙女心のツボ』(カンゼン)が好評発売中。

『不死鳥 美空ひばり in TOKYO DOME <完全盤> 翔ぶ!! 新しき空に向かって』

やっぱり生きてると思う。

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