[連載]マンガ・日本メイ作劇場第13回

『ときめきミッドナイト』から考える、ヒット作続編商法という難しさ

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『ときめきミッドナイト 1』(池野
恋、集英社)

――西暦を確認したくなるほど時代錯誤なセリフ、常識というハードルを優雅に飛び越えた設定、凡人を置いてきぼりにするトリッキーなストーリー展開。少女マンガ史に燦然と輝く「迷」作を、紐解いていきます。

 歌手・狩人は、テレビに出る度に「あずさ2号」を歌う。彼らは思うだろうか、「たまには違う歌が歌いたいよ」と。クリスタルキングもそうだ。「大都会」の他には「愛をとりもどせ!!」くらいかしら、今でも有名なのって。その他、TOM★CATとかアラジンとか、音楽界には「一発屋」がちらほら。

 マンガ界にも、「この人と来たらこのマンガ」という作家がいる。聖悠紀と言えば『超人ロック』とか、許斐剛なら『テニスの王子様』(集英社)とか。そして池野恋と言えば『ときめきトゥナイト』(集英社)だ。間違いない。なんでかって、初連載の『ときめきトゥナイト』を12年もやったかと思ったら、2002年には『ときめきミッドナイト』というリメイク版をやっちゃうくらい、蘭世や真壁くんが大好きなのだ。

 最近、こういう「昔の大ヒットにあやかり商法」のマンガがいっぱいだ。『北斗の拳』の『蒼天の拳』(原哲夫、新潮社)とか『ぼくの地球を守って』の『ボクを包む月の光』(日渡早紀、白泉社)とか。たいてい第1作を超えないのが、この手のあやかり商品の決まりなんだけど、新しい作品を描くよりはまだ売れるってことなのか。

 ちなみに映画界でも、たいてい第2作の方がつまらない。『ペット・セメタリー2』とか『スピード2』とか。でも、例えばジェームズ・キャメロンは最初からシリーズ化を狙って構想を練るらしく、彼の映画(『ターミネーター』)は続編が1作目に引けを取らないどころか、評価が高いかも。それには秘訣があるらしい。シリーズ映画を成功させるには、企画段階からその構想が必要だということだ。つまりマンガであやかり商品を作ろうと思ったら、最初っからシリーズ化の構想を持っていない限りは難しいのである。

 この『ミッドナイト』は、『トゥナイト』とは違う話なんだけど、基本は同じである。割といい加減な理由で魔界の双子の王子の片方が迫害され、何千年も前の呪いやら運命が関係してくるところと、蘭世がまったく努力をしないくせにスラスラと事件を解決してしまうところは、2作に共通する。

 『ミッドナイト』は後半、人間界、魔界、冥界の3つの世界が滅びそうだ、というでかい話に進展していく。冥界に開いた人間界に通じる穴が、冥界の破滅へと導いているのだそうだ。その穴を塞ぐには、魔界の王子の生け贄が必要だった。根拠はなんと、冥界の女王が「そう思いこんでいた」からだそうだ。『トゥナイト』の時も、ババア・メヴィウスのいい加減な占いのせいでけっこうみんなが迷惑被ってたけど、今回も比ではない。

 しかもこの冥界に開いた穴、最初は「魔界人が勝手に人間界と行き来していたせいだ」と言っていたのに、途中で「人間の環境破壊や、魔界で双子が生まれるなどの異変のせい」とか言い出す。最後、冥界の女王の恋人だったルシオンは穴を塞ぐために生け贄になってたはずだったんだけど、実は穴の中でグーグー寝てただけだという無能っぷりが露見し(しかも冥界の女王はそれでも生け贄が必要だと思ってたらしいし)、もうページが心配になるくらいのラストで、「無償の愛が穴を塞ぐんじゃない?」という、蘭世の当てずっぽうによって、穴が塞がれる。前作よろしく無償の愛が解決するのは、まだ韻を踏んでるの感じでアリなのかもしれないけど、その結論への持っていき方が読者を置いてきぼりにしている。

 蘭世は普段から激しく当てずっぽうばかりを口にするヤツだ。最後が特に重症で、いきなり見ただけのことからダラダラと講釈を始め、仮定を繰り返したあとに「わかった!」みたいな。なんの根拠もないのに、それにみんなが従い、結果大成功なのである。運の良さで言ったらマンガ界随一って感じ。こういうのは現実ではまずあり得ないから要注意だ。

 例えば近所で盗難事件があったときとか、主婦たちは大喜びで推理にいそしんだりする。「あそこの家が狙われたわけは」「怪しい人を見かけたわ」「前から危ないと思ってたのよ」。なんの調査もしないで、大きな結果を期待してあれこれ言ってみる訳だ。実はなにを調べる訳でもなく、見た訳でもないのに、『家政婦は見た』になりたいんである。蘭世はまさにその手の安っぽい女の夢をかなえてくれるキャラなのだ。

 で結局、穴はふさがったけど、人間の環境破壊とか魔界人が人間界を行き来してたこととかが、全部なかったことになっちゃったみたいで、根本的な解決を見ずに突然のハッピーエンドで物語は終了する。この、『ヒカルの碁』(ほったゆみ・小畑健、集英社)並のラストへの折りたたみ感がすごい。

 最後まで読んでみて思うのは、『ときめきトゥナイト』を大喜びで読んでいた読者たちも、大人になって分別がついてきたら、そう簡単には騙されないぞ、ということだ。話をシリアスにしたはいいけど、取りこぼしが多すぎる。結果として、あやかり商品を出したはいいけど、やっぱり池野恋ときたら『ときめきトゥナイト』だよね~、ということなのである。

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和久井香菜子(わくい・かなこ)
ライター・イラストレーター。女性向けのコラムやエッセイを得意とする一方で、ネットゲーム『養殖中華屋さん』の企画をはじめ、就職系やテニス雑誌、ビジネス本まで、幅広いジャンルで活躍中。 『少女マンガで読み解く 乙女心のツボ』(カンゼン)が好評発売中。

『ときめきミッドナイト 1』

『トゥナイト』ファンは、『ミッドナイト』をなかったことにしてる

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