ブックレビュー

元刑事が秋田児童連続殺人事件の”真実”に迫った、『飛松五男の熱血事件簿』

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『飛松五男の熱血事件簿』(鹿砦社)

 ボサボサの髪の毛を一つに結び、うつろな目でボソボソと話し始める――。

 2006年に発生した秋田児童連続殺人事件で、当時連日のようにテレビに映された畠山鈴香被告を見た時、すべてのものを拒否するかのような彼女のたたずまいに、背筋がうすら寒くなった人は少なからずいたのではないだろうか。

 この事件は、畠山鈴香被告の娘・彩香ちゃん(当時9歳)が自宅から10キロ離れた川で水死体となって発見され、その約1カ月後には彩香ちゃんの自宅の2軒隣りに住む米山豪憲くん(当時7歳)が12キロ離れた川辺で死体となって発見された事件である。わずか1カ月の間に、同じ町内の子ども2人が殺害されたこと、後に逮捕される鈴香被告がマスコミを通じて警察への不信感をあらわにしたことなどから、メディア各社が一斉に鈴香被告の実家に押し掛け、メディアスクラム(集団的過熱取材)が問題になったことでも記憶に新しい。

 実際にワイドショー、ニュース番組の多くは現地にスタッフを派遣し、毎日のように鈴香被告の動向を追った。時に冗舌に話し、時にカメラを拒否する鈴香被告は、主張に一貫性もなく、事件の概要を知らぬ視聴者ですら、不信に思わざるを得なかった。

 事件発生直後から現地に50回以上も入り、被害者・加害者とマスメディアとのかかわりを見てきた、飛松五男氏は『飛松五男の熱血事件簿』(鹿砦社)にて、鈴香被告の変貌を記している。現在は『たかじんのそこまで言って委員会』(よみうりテレビ)などでコメンテーターとして活躍している氏は、兵庫県警の刑事を退職後、探偵事務所の代表を務めるほか、犯罪被害者支援のためのボランティア活動にも注力している。

 飛松氏は事件発生後、被害者支援の目的で鈴香被告、彼女の母、弟と接触していく。発生当初から事件への関与を否定しない鈴香被告に対して自首を促すものの、鈴香被告が「自分の言い分を被害者の沈痛な思い」として報道してくれるメディアと懇意になったことで、鈴香被告やその家族の態度が変わったと振り返っている。本書の「秋田児童連続殺人事件」の章は、当時の取材ノートと回想によって構成されており、日を追うごとに変化していく鈴香被告の様子が手に取るように分かる。同時に、メディアの狂騒によって事件の真相が闇へと追いやられ、鈴香被告自身も自分を見失っていっているような気すらしてくる。

 また飛松氏は元刑事としての視点も持ち合わせており、事件発生後の警察の初動捜査にも疑問を持ち、厳しく指摘している。殺害された米山豪憲くんの家族に苦情申立書を提出するようにアドバイスしたり、遺族への取材を試みるメディアとの橋渡しをしている。氏は本書の中で、これらの行動に関しては淡々とつづっているが、こうした被害者とメディア、警察との橋渡しというのも、今後、職業・システムとして確立していかなければならない問題であることを痛感させられる。

 また、日本最大の日雇い労働者の街として知られる大阪・西成地区で、献身的に労働者たちを介護し、「日本のマザー・テレサ」とも呼ばれていた女医が不可解な死を遂げた「大阪西成女医不審死事件」や、10歳下の交際相手によって勤務先の学校の金を横領させられた上に、交際相手が手配した二人組に殺された「加西女教師殺人死体遺棄事件」などの不可解事件に対し、独自に入手した情報で真相に迫っている。

 特異なのは、「飛松五男、事件と警察とヤクザを語る」という章だ。善悪という一義的な側面だけでは語り切れない、ヤクザの存在と一般社会とのかかわりが浮き彫りになってくる。同じ姫路から出た”ヤクザの中のヤクザ”と言われる、竹中正久・武兄弟への哀惜の念は白眉だ。元刑事としてさまざまな事件で彼らとの駆け引きがあったからこそ、ヤクザの本質に踏み込めているのだろう。

 現場に何度も足を運び、多くの人から聞き込みをした上でまとめられた本書。秋田児童連続殺人事件をはじめ、多くの事件の、新聞やテレビにはあまり大きく取り上げられなかった「事実」が隠れている。情報過多のために「事件の本質を分かった気になってしまった人」にこそ、この本を読んでいただきたい。

『飛松五男の熱血事件簿』公式ページ

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