[連載]そうだソルティー京都、行こう

「名前負け」「説明不足」、高濃度なソルティースポット・平安神宮を歩いた

2011/04/28 11:45

 京都は、世界屈指の観光地。そして女の憧れの地である。美味いもん食って、寺社を見て、お洒落して、勉強する。何でもかんでも「京都でする」のが女の憧れなのだ。女性誌はこぞって京都特集を組み、ガイド本や京都観光エッセイがボロボロ出版されている。確かに京都には歴史がある。名産品がある。美味がある……そして誰も取り上げないけれど「しょっぱい京都」もある。

 しかし京都のほんとうの魅力は、こういうソルティーなところにあるのだ。上品ぶっている女性誌では取り上げないほんとうの京都の姿を、しっかり焼き付けて欲しい。そうだソルティー京都、行こう。

【第4回 平安神宮】

 言葉には意味があり、その意味にまつわるイメージがある。例えば、大学受験の予備校には、早稲田××とか慶應○○という学校がいっぱいある。有名大学にあやかって、高級感を出しているわけだ。今回のソルティー観光地は、そんな「イメージ」を見事に使い切った場所を紹介しよう。

 男が歴史を語る場合に出てくるのは、戦国時代、幕末、日本じゃないけど三国志といったところ。一方で女が好きなのは、間違いなく平安時代だ。他の時代に比べて女が活躍しているし、雅な文化も憧れだ。ベストセラー少女漫画の『あさきゆめみし』(大和和紀、講談社)だって『なんて素敵にジャパネスク』(氷室冴子/山内直実、白泉社)だって、一大萌えブームを生んだ『陰陽師』(夢枕獏/岡野玲子、白泉社)だって、みんな平安時代のお話。

 さて京都に「平安神宮」という神社がある。名前からしてもう荘厳な感じである。女性なら和歌を詠んでいる十二単姿の姫君を思い浮かべちゃうだろう。まーでも、京都通の人なら、「ソルティー観光地」と聞いて「平安神宮かな」と思い浮かべそうなくらい、そっち方面で有名な神社である。

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応天門ドーン!

 『罪に濡れたふたり』(北川みゆき、小学館)という少女マンガで、姉弟のくせにイチャイチャしているカップルがこの神社を訪れるシーンがある。考古学を専攻する学業優秀な弟は平安神宮が好きでよく来るらしく、その理由を「歴史的な建築物だから」だと言う。アイタタタタ、まんまと名前に騙されちゃったのね。っていうか弟よ、学業優秀という触れ込みらしいけど、大丈夫?

 「平安神宮」と、名前は古い感じで雅だけれど、この神宮、京都では京都タワーより新しい建物なのである。「平安」神宮のくせに創建は明治28年。しかも昭和51年に放火事件が発生し、本殿など9棟もの建築物が炎上してしまい建て直したので、要はここにあるたいていのものが昭和のものなのである。

 よく大学の名前には、年号らしいものがくっついている。「平成××大学」とか「昭和××大学」などという大学名は、もちろん創立の年号がくっついている(はずだ)。しかしこの平安神宮は明治創建なのに「平安」とか言い張っちゃっているわけである。平成に作られたのに寛永大学とかいっちゃって、偏差値稼ごうとしているような観光地なのだ。

 しかしこの神宮、建設の理由がまた切なくてしょっぱい。江戸に幕府ができてからというもの、政治の舞台は江戸に移ってしまい、明治になると、天皇すら京都から東京へ行ってしまった。そんながらんどうの淋しい京都を盛り上げよう、と始まった運動(内国勧業博覧会)で作られたのが、この平安神宮なのである。しかも平安京を模して作っているこの建物、ポロポロと間違いがあるらしいく、これまた目頭が熱くなってしまう。

 どこもかしこも新ピカな建物の平安神宮、境内へは無料で入れるのだが、そこを取り囲むように神苑がある。ここに入るのに600円。この600円を、何に支払ったと考えるかは、利用者次第だ。

 さて、ソルティー観光地認定条件のひとつが、「展示方法とその内容」である。まず謎なのがこの電車。

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日本最古の電車ドーン!

 神苑の隅っこにいきなり据えられているこれ。看板を読むと、日本最古の電車らしい。……で? 公式サイトを見ると、平安神宮の創建と同年に敷設された縁からだそうだが、何故現地で説明してくれないのか……。

 その他、植わってる草木には詠まれた和歌の紹介がいちいち。

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そう書かれても一般人には「ふぅん」どまり

 どんなシチュエーションで詠まれ、なにに例えられたとか、そこまで教えてくれないことには、がんばって3つも読んだら、あとはスルーである。どうにも突飛な展示とか、足りない説明とか、観光客置いてけぼりなのがソルティー観光地なのである。

 と、文句は言ってみても、神苑全体としては、琵琶湖疏水の透明な水が神苑を豊かに潤していて、シャッターポイントがやたらと豊富な美しい庭である。

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なにげなーく撮ってもこの美しさ

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どこから撮っても美しい泰平閣

 神苑の大トリは、この泰平閣。別名橋閣というらしいけど、京都御所から移築されたこと以外は、なんの建物なのかイマイチ不明。苑内唯一の歴史的建造物なんだから、ちゃんと説明して欲しいなあ。

 結論。京都、平安と来て歴史的な重厚感を期待しちゃうと、600円は高くつく。でも鉄道好きなら日本最古の電車のためにいいかもしれない。カップルで手をつないでホトホト歩くのにもお勧めだ。だけどデートで「歴史的建造物を見ようぜ」とか威張って行ってしまうと、間違いなく失敗するのが、この平安神宮なのである。

和久井香菜子(わくい・かなこ)
ライター・イラストレーター。少女向けのコラムやエッセイを得意とする一方で、ネットゲーム『養殖中華屋さん』の企画をはじめ、就職系やテニス雑誌、ビジネス本まで、幅広いジャンルで活躍中。 『少女マンガで読み解く 乙女心のツボ』(カンゼン)が好評発売中。

『平安神宮の四季』

事実はイメージより奇なり

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最終更新:2019/05/21 18:38
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