[連載]安彦麻理絵のブスと女と人生と

真向かいに”女囚ヅラ”が引っ越してきたことの意味

2011/04/17 21:00
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(C)安彦麻理絵

 気がつけば桜は満開なのであった。TVのニュースでも、あまりそれについて触れないので、季節が変わりつつあることに気がつかなかった。

 そして、少しずつ暖かくなってきたせいだろうか? なんだかやたらと体中が火照ってきて、とにかく体を内側から冷やしたい欲求にかられている。そんな時に、先日セブンイレブンで「ところてん」を発見。狂喜乱舞。「無駄な買い占めはやめよう」と言われてるのに、火照った妊婦の脳みそに、その声は届かなかったようである。「ところてん、ところてん、ところてんが食いたい!!」ところてんの買い占めは罪だろうか……ところてんに取り憑かれた妊婦。1パック、けっこうしっかりした量が入ってるのに、ドンブリに2パック投入。それを台所の隅でむさぼり食う(なんで台所の隅で食べてるのか、よく分からない)。時折、タレ酢のキツさに「ブフッ」とかムセながら、ズルズルとすする様は、どこか妖怪じみてるような気がした。

 ところで、先日、うちの向かいのマンションに新しい住人が引っ越してきた。うちの茶の間の真向かいに越してきたその一家……マンションの窓からニョキっと顔を突き出した、そこの奥さんを見て、私は心底ギョっとした。何度も何度も、目を見張るほどにギョっとした……なぜなら。こんなこと言うの、失礼と分かってて、でもあえて言わせてもらう。その奥さん(推定年齢36歳)、とにかく、もの凄い人相が悪いのである。まるで「亭主とか子どもの頭をフライパンでぶん殴ってそうな」そんな凶暴さを秘めた顔……”女囚顔”と言ってもいいかもしれない。肩までの茶髪、しかしアタマ上部分は、ちゃんと染め直してないから黒くなってるという、いわゆる「プリンのような状態」で、それだけでも「薄幸そう・男運悪そう」なのに、トドメにノーメイクのせいで眉毛なし……そんな人相で、窓からニョッキリ顔を出し、片手に缶コーヒーの空き缶(それを灰皿がわりにして)もの凄く機嫌悪そうな顔つきでタバコを吸っているのであった。最初見た時、本当にドキっと、ギョっとして、何度も何度も(相手に気が付かれないように)凝視してしまい、そしてすごく悲しくなってしまった私である……。「こんな人相の悪い女を、これからしょっちゅう目にすることになるんだろうか……?」。うちの夫も、この女の喫煙場面を目撃した時、かなりの衝撃を受けたらしい。

「なんか、『霊』でもいるのかと思った」

 ……「女囚ヅラ」すっ飛び抜けて「霊ヅラ」って、なんかもう、女としてどうなんだろう、それ。うっかり目にすると、本気で暗い陰鬱な気分になる顔……そんな顔の女が真向かいに引っ越してきたなんて、運が悪すぎる! 私は、本気でウンザリした。……のだが。ガックリうなだれる私の頭の中で、ハッと思い付く事があった。それは。「こんな女が近所に引っ越してくるって、これってもしかして『引き寄せの法則』じゃないの!?」

 実は私、最近とにかく、ひどかったのである。ほんとにもう、機嫌が悪くて、ちょっとした事で怒り狂ってた。「子どもがぐずりまくる」とか「体調最悪」とか、言い訳ならいくらでも言えるが、それにしたってとにかくもう。「鬼のように」とかいうよりも、「鬼そのもの」になってたと思う。ほんとに、ちょっとした事で「凄い顔して怒り狂ってた」のである。で、その「女囚・霊ヅラの女」が引っ越してくるちょっと前にも、私は騒ぎを起こしてた。その時の怒りの原因なんて、今はもう思い出せないのだが、とにかく怒髪天を突いた私は「やってらんねぇよもう!!」と怒鳴り散らしながら、自分の仕事部屋に、バタンと引きこもったのである。そしたら、茶の間の棚の上に置いていた安産祈願の「お地蔵さまの置物」が、突然バタンと上から転がり落ちたらしい。このお地蔵さん、実はあの大地震の時ですら、落ちずに棚の上に鎮座してたのに、私が怒り狂って部屋を出たら、上から突然落ちてきたので、夫はビックリしたそうである。そして「人の怒りのエネルギーって、なんか凄まじいものがある」と、しみじみ思ったそうである……。

 この出来事を、友人漫画家の大久保ニュー姐さんに話したところ、「なんか、日本昔話みたいじゃないの」と言われた。「……なんで昔話なのよ」「だって『マリエが怒ると地蔵が倒れる』って、なんか昔話っぽくない?」「……」。

 .私、知らぬ間に「怒らせたら恐い山の神様」みたいになってたようである。その後、子どもらに「お地蔵様がかわいそうだ」と責め立てられ、私は翌日、花を買ってきて、お地蔵さんにお供えをしたのであった、「心穏やかに暮らすよう、努力します」と詫びながら。

 で、そんなこんなで「引き寄せの法則」なのである。そうとしか思えないのである。向かいの女の顔の文句ばかり言ってても仕方がない。自分もそんな顔をしてたはずなのだから。類は友を呼ぶ、とはよく言ったもんだ。ああ、一度でもいいから向かいの女が「にっこり笑ってる笑顔」を見せてくれたら、そしたら私も少しはホッとするのだが……てゆうか、「人にそういう事を要求する前に、まずお前がニッコリしろよ」と、私は私自身に説教するのだった……(溜め息)。

『どうして私、イライラするの?』

ナレーションを市原悦子で再生

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最終更新:2019/05/21 16:33
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