[連載]マンガ・日本メイ作劇場第8回

少女マンガにおける、「女の性の解放」と「男の処女性信奉」の落としどころ

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『甘濡れ・Eve』(佐々木 柚奈、小
学館)

――西暦を確認したくなるほど時代錯誤なセリフ、常識というハードルを優雅に飛び越えた設定、凡人を置いてきぼりにするトリッキーなストーリー展開。少女マンガ史に燦然と輝く「迷」作を、紐解いていきます。

 女性の社会進出が進み、女もいろんなものが手に入るようになってきた。仕事、非婚の選択、年下男……。女の出世はまだまだ障害が多いものの(つい最近もアメリカで訴訟問題になっちゃったし)、女の性に対する大らかさの発展には目を見張るものがある。

 一方で、男が求める”女の処女性”にも、一定の需要がある。なぜかというと、女の方が経験豊富だった場合、「えー、なんかちっちゃーい」とか、「早かったよね」とか、「あんまうまくなかった」とか、比較対象がなければ言えない、そして男が最も聞きたくない数々の評価をされてしまう危険があるからだ。

 澁澤龍彦によると(ってことはフロイト説ってことだと思うが)、「セックスという行為は男の射精で行為が終わるところから、男は能動的、女は受動的」なのだそうだ。根本的な仕組みがそうなのだから、男が最中にドヤ顔をしたくなるのは、もう本能だってことだ。で、心置きなくドヤ顔をするためには、女に余計な経験がない方が良い。しかし困ったことに、女には「性の解放」とかいう波がやってきて、「女にだって性欲があるの」みたいな風潮もあり、女性向けの媒体で女に未経験を強いるのがそれなりに大変になってきた。

 そこで『甘濡れ・Eve』だ。この話は、主人公の林檎(Eveだから林檎なのか……)が、あこがれの忍くんと、友達のユキの両方から乳首をなめられたら、たまらなくなって図書館でオナニーする話である。すごい……! すごいよ、しかもこれ、高校生の話ですから!

 最近の(小学館系)少女マンガでは、女のオナニーはすっかり解禁になったようである。そんなもの見せられたところで、読者は別に萌えもしないというか、ちょっと困ったなあと思うだけだと思うんですが。

 しかし、少女マンガで女のオナニーが描かれる理由のひとつは、「女の性の解放」と「男の処女性信奉」という矛盾の解消にある。「女にだって性欲があるのよ」と、欲望のままに男とヤリまくってたら、男に「それでもおまえがいいんだ」と言わせるのが大変だ。男とのセックスシーンで恥ずかしがったり、すごがったりさせる演出も大変だ。何しろヤリ慣れちゃってるから。もしくは、男にものすごくテクニックを与えるか、ものすごく好き合っててビンビンに感じちゃってることにするか。

 だけどもオナニーだったら、「経験」のうちには入らない。まあ、入らないよな。ヤってないんだから。で、結局林檎は、ユキと忍、どっちにしようかしらと悩んで泣いたりした結果、ユキの方が強引で、なめられた回数も多かったことから、彼といたすことになる。ですが、どんなにそれまで濡れ場が描かれていても、林檎は処女なので、初エッチシーンはあらためて初々しい感じで行われるのである。でもエロい子なので、初めてのくせにサービスもたっぷり。誰もが幸せな円満・初エッチを迎えるのである。

 このマンガがなんだかすごいのは、ものすごくト書きの心理描写が多いんだけど、それがあんまり感動的じゃないというか、意味がよく分からないというか。例えばこのシーン。

 「ユキといると心と体がバラバラになっちゃう」と林檎が言うと、ユキは「それは、愛されるだけじゃ心が納得できなかったからだよ」と言う。だからオレといるのがいいんだ、ということなんだけど、ホントすみません、意味が分かりません。確かに、ユキと忍で林檎を取り合ってたよね。でも林檎が告白したのは、ユキではなく忍の方。だから、ユキいわく林檎が「愛して濡れたい」(これももうホントは意味が分からないけど)なら、その相手はユキではなく忍であるはずなのだ。どちらかといえば、ユキには「愛されてる」で、林檎が「愛してる」のは忍だったんだもん。で、ユキと付き合ってみると、ユキは「林檎は愛したくて濡れる、いい女だよ」だそうだ。なに? ご奉仕精神が旺盛ってこと? 分かんない、分かんないよ若い人たちの言葉遣いは。

 まあでも、この作品のなにが一番すごいかって、いくら男2人に乳をなめられてサカったからといって、わざわざ図書館でオナニーをするかということ。家まで待てないのか。そして表紙から空きページまで、イラストというイラストはすべて、裸の林檎がユキと忍にベロベロなめられている絵だということ。もー目次にまでこんなイラストがあてがわれてて、「はいはいもーわかりました!」という感じ。だって実際には3人でいたすシーンがないわけで、要はこれって林檎の妄想なのである。まあ、よくやった性の解放! ってことで。

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■メイ作判定
迷作:名作=9:1

和久井香菜子(わくい・かなこ)
ライター・イラストレーター。少女向けのコラムやエッセイを得意とする一方で、ネットゲーム『養殖中華屋さん』の企画をはじめ、就職系やテニス雑誌、ビジネス本まで、幅広いジャンルで活躍中。 『少女マンガで読み解く 乙女心のツボ』(カンゼン)が好評発売中。

『甘濡れ・Eve』

図書館司書、働け!!

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