[官能小説レビュー]

直木賞作家が描く、いやらしくもせつない官能小説『海の見えるホテル』

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『海の見えるホテル』(重松清、小
学館)

 誰しも、初恋って、訊ねられればすぐに思い出せる、大事な恋のひとつ。初めて自分のモノにしたくなった男って、オトナになった今でもけっこう引きずっていて、今のオトコ選び基準になっている気がする。だからこそ、今でもふと思い出すことがある。気になって、ネットで名前を検索してみたり。

 胸がきゅっと締め付けられるような、柔らかくも甘酸っぱい思い出。そんな愛らしい思い出をくれた相手だからこそ、できれば幸せに暮らしていてもらいたい、なんて身勝手な願望を抱いてしまうはず。けれど、もし初恋の相手が不幸になってしまっていたら?

 直木賞作家・重松清の書く官能小説は、エロさのなかにもファンタジックなエッセンスが盛り込まれている。主人公の冴えないサラリーマン・敦夫は、地方の系列会社への出向を言い渡された。妻と息子ともなんとなくしっくり来ない関係、片道切符の単身赴任。そんな悲しい送別会の帰り道に、伝説の娼婦「なぎさ」と出会う。彼女の何が伝説かというと、なぎさを買うと、青春をやり直せるのだ。やり場のない思いを拭うように激しくなぎさを抱き、射精をすると、敦夫はなぎさに導かれ、長い長い夢を見る。

 敦夫が見た夢は、中学3年生の自分だった。初恋の相手、ミツコとフォークダンスを踊っている、中学生の敦夫。ミツコの引っ越しと、敦夫の勇気のなさからふたりは同級生以上の関係になれずに別れるのだが、実はふたりは両思いだった。そのチャンスを逃し、男性との距離を置く高校生活を送ったミツコは大学入学して不幸な事件に巻き込まれ……。

 ミツコを救うには、中学生の敦夫がミツコに告白し、付き合い、彼女を抱くこと。あのころは臆病で未熟な子どもで、うまくやれなかった敦夫。けれど今だったら、もっとうまくやれる。10代の身体と42歳の心を駆使しながら、長い夢の中でミツコの運命を変えるべく翻弄していく。

 中学の卒業式の後、勇気を出してミツコに告白し、付き合うことになった敦夫。指先が触れただけで全身に電流が走るくらい、互いのことが欲しくてたまらない高校生のふたり。ミツコにとっても噂には聞いていたけれど、決して自分ごとではなかった「セックス」というものが、敦夫という恋人ができたことで急速に現実味を帯びていく。ミツコは、初体験を済ませた同級生の話を思い出し、お風呂のなかで自分のふくらみに手を乗せ、ぎこちない手つきで乳房を揉み、つんと尖った乳首をそっとつまんでみる。敦夫との時間を重ねるたびに性に目覚めていくミツコ。受験勉強の合間にデートを重ね、敦夫の手のぬくもりや、はじめて触れた唇の感触を抱えて、オナニーに目覚める。そんなミツコを幻滅するどころか、ますます愛おしく感じる敦夫。あの忌まわしい事件があった大学に合格してしまったミツコをこの世に生かすために、海の見えるホテルで彼女を抱く。

 いたいけな10代の敦夫がなぎさを抱くときの不器用で性急な感じが、せつなくもいやらしい。そして、互いに初体験をするぎこちないふたりのセックスが、胸を締め付けられるくらいにまぶしい。

 青春時代の倍近く歳を重ねた今では、片手間な愛撫をされれば「雑!」なんて文句を言うかわいげのない女になってしまった。「好き」という気持ちを、照れ隠しで斜め目線に見てしまう自分を突きつけられて、幼いふたりの正直なセックスがうらやましくてたまらない。キラキラで、泥臭くて、まっすぐで恥ずかしかった10代の自分。照れくさくて目を背けたくなる反面、喉から手が出るほどうらやましく、いとおしい。10代特有のセックスへの好奇心と畏怖をみずみずしい文章で描く重松清。女性が読みやすく、女性にこそ読んでほしい1冊です。

『海の見えるホテル』

結構感動します

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