[連載]マンガ・日本メイ作劇場第6回

『覇王愛人』ほど、作者の脳内がダダ漏れになったマンガはない!

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『覇王愛人』(新條まゆ、小学館)

――西暦を確認したくなるほど時代錯誤なセリフ、常識というハードルを優雅に飛び越えた設定、凡人を置いてきぼりにするトリッキーなストーリー展開。少女マンガ史に燦然と輝く「迷」作を、紐解いていきます。

 『ムーンウォーカー』という映画をご存じだろうか。マイケル・ジャクソンが自由奔放な発想でのびのびと制作したファンタジー・ミュージカルである。突然の設定変更は当たり前、「こうだったらいいな」「これやっちゃおうかポーゥ!」と、次から次へとマイケルの脳みそからだだ漏れしたアイデアが詰め込まれているのだ。マイケルへの深い愛を持って見なければ、単なるC級映画である。

 さてその『ムーンウォーカー』な展開の少女マンガがある。『覇王愛人』(小学館)だ。「こうだったらいいな」「これやっちゃおうか」と、次から次へと作者の脳みそからだだ漏れしたアイデアが詰め込まれている、超メイ作である。ここまで自由奔放に話が作れたら、さぞ快感だろうなあと思う。

 まず、貧乏人の女子高生・来実は、偶然道っぱたで出会ったイケメン・黒龍(ハクロン)さんに拉致され、香港で暮らすことになる。で、なんと彼は香港マフィアの親分だったのであった。ここまでだったら、まだ少女マンガによくある「偶然出会った人はすごい人(権力者・アイドル・金持ち)だった」「イケメンに拉致監禁されちゃった」という展開で、珍しくはない。「ん?」と首をかしげ出すのは2巻あたりから。

 なんと黒龍さんは18歳で、高校生だったのである。そして来実と一緒に学校に通うことになり、突然暗黒世界マフィアものから学園ものに大転換を果たすのだ。かと思ったら今度は来実に家事を命令し、唐突にメイド物語が始まってしまう。作者は、渋い暗黒マフィアものにしたいのかと思えば、「やっぱ学園ものも描きたいな」と思い直して、即実行。

 頭の中に浮かんだアイデアを、次々とブレーキなしに盛り込んじゃったあたりが、『ムーンウォーカー』によく似ている。かたやマイケルの萌え、かたや少女の萌えの妄想そのままが作品になっているのだ。

 『覇王愛人』のすばらしさは、「正しいことを発見する方がたいへん」なところである。まずストーリー展開に説得力を求めてはいけない。読み進めるうちに湧いてくる「なんでこうなるのかよくわからない」という自然な気持ちを押さえ込もう。そして「(銃の描写に)独特の創意が見られる」とwikipediaが寛大に語っているような、物事への造詣の足りなさはもう当たり前だと思おう。

 マフィアの大ボス黒龍さんが「有名なシェフに作らせた」食事は、なんだか貧乏くさい日の丸弁当。銃の音は「バーン!」「バン、バン!」と、なんだかすごく貧乏くさい。

 来実のあえぎ声を聞いた悪者が困ってひと言、「あんな声きいたら……心まで欲しくなるっ」。えぇっ、なんで? 黒龍の部下・風龍は来実とやってる最中、「キツイか? 黒龍様の抱き方に体が慣れてしまっているんだろう……」ってそれ、「黒龍のより俺の方が立派だろ」って言ってませんか?

 萌えシーンであるはずのキスもなんだか微妙。公園でデート中の黒龍と来実。チューチューやっていると、来実の口に、異物が入ってくる。それはなんと、翡翠の指輪なのである。え、それ、萌える? 唾液のついた指輪、はめるの? それ萌えなの?

 そして来実は、「いやがればいやがるほど、その体を敏感に反応させる体にされてる」らしいです。え、どうやって? そんな方法、あったら世の男性たちは大喜びです。

 とまあ、ひとつひとつのシーンがいちいちおかしい。いや、しかしどんなに荒唐無稽でも、ラストだけは想像通りという安心感。エロシーンへの深い感謝を持って見なければ、単なるC級マンガとしか思えないのですが。

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■メイ作判定
名作:迷作=0:10
(文・イラスト=和久井香菜子)

和久井香菜子(わくい・かなこ)
ライター・イラストレーター。少女向けのコラムやエッセイを得意とする一方で、ネットゲーム『養殖中華屋さん』の企画をはじめ、就職系やテニス雑誌、ビジネス本まで、幅広いジャンルで活躍中。 『少女マンガで読み解く 乙女心のツボ』(カンゼン)が好評発売中。

『覇王・愛人 1』

伝説のおまたパカーンは見たかい?

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